630年前のプロローグ
争いの火蓋が切られた。
「【闇を駆ける扉】」
その呟きを聞き取れた者はいなかったが、結果は現象となって無慈悲にも襲いかかった。レビテント王国王都、その上空に巨大な闇の球体が現れたのだ。
渦巻く黒い瘴気の隙間から、人間離れした異形の腕が幾筋も覗いている。
「『国民は全員逃げろ!!』」
リュウが叫ぶと同時に、闇の球体から腕が解放された。流れる水のように一斉にして、その腕の持ち主たる魔族が溢れるように飛来してくる。
それに呼応するように、人々の悲鳴と絶叫が木霊していた。
(一瞬にして、混乱状態か・・・・・・・・)
この状況を見渡すリュウは思わず、歯噛みするしかなかった。一手、しかし限りなく重要な一手が遅い。
今この瞬間に恐怖し、混乱している状況こそが必要を怠った結果の反響のように思える。
(・・・・・・・・・・悩んでいても、仕方が無いか!)
既に、カレンやリリナは非難が完了している。他の人には少しズルイかもしれないが、惜し気もなく全力で移動させた。
イリエに限っては竜の森へと全速力で駆けて行ったから心配のしようがない。
だからこそ、リュウは今目前に広がる理不尽な事態を見据えながら思案していた。
(この混乱状態で、指示が通るとは思えない・・・・・・でも、何か行動を起こさないと現状は変わらない)
最悪、魔族に全ての人族が滅ぼされる可能性だってある。それだけは避けなければならない。その先に待つ”破滅”をリュウは知っているのだから。
これにて、溜め書き分も終了です。
それでは、今度こそ。さようなら、また会う日まで。