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僕はいつでも君を見つける  作者: べんべんぬ
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第一話 ①

 昼休みの喧騒の中、中庭のベンチで春の陽気を感じる今も、目を閉じると彼女を感じる。

 何処にいても、何をしていても彼女の存在を確かに感じる。


 「これって・・・運命だと思うんだよね・・・。」


 「いきなり何言ってんだ、お前?」


 さっきまで親友だと思ってた男、渡辺康太はメロンパンを頬張りながら辛辣に言い放った。冷たい物言いにイラっとしたが、こっちの主語と述語のなさが原因かもしれない。ちゃんと説明してやろう。


 「いやさ、生まれ時から彼女の事を感じるんだぜ?これって運命だと思うんだよね。なんか、こう幼馴染と結ばれる王道的な感じだと思うんだよ」


 「ああ、またいつもの妄想の話か。」


 ちゃんと説明してやったのに更に辛辣な感じで言われた。友達から知り合いにランクダウンさせる必要があるかもしれない。


 「あんまさ、ガチなストーカーみたいなこと言って知り合いの俺を困らせんなよ。テレビのインタビューでいつかやると思ってましたとか言うの嫌だからさ。」


 知り合いへのランクダウンは先を越されていたようだ。


 「ストーカーじゃないって。ただ、彼女の家や通ってる高校を知ってるだけだよ。今何してるかとか四六時中気になるだけだよ」


 「完全にストーカーじゃねーか。お前、時々マジで気持ち悪いな。」


 冷静に考えると完全にストーカーのそれだった。康太は呆れた様子でストローを牛乳のブリックに突き刺しさしながら言った。


 「だいたい、その”運命の彼女”って坂口アイリのことだろ?お前の幼馴染でもなんでもねーし。新聞にも載るような有名人相手にして運命とか言ってるから余計に気持ち悪いんだよ」


 「いや、僕は彼女が有名になる前から知ってるから!」


 そういう問題じゃないんだってと康太は諦めた様子で牛乳をすすった。まあ、康太の言うことはもっともだ。この日本で坂口アイリを運命の人だなんて言う奴は頭おかしいファンの連中しかいない。


 坂口アイリ、彼女を有名にしたのは類まれな才能と美しい容姿だ。初めて彼女が世間を賑したのは3年前、<観測者>の世界観測記録を塗り替えた時である。当時、中学2年生だった少女は<観測者>としての類まれな才能を発揮して世界記録を大きく上回る周囲500mの観測に成功した。そして、その圧倒的な記録よりも日本中を熱狂させたのが絹のように美しい長い髪と強い意志に溢れた瞳だった。天が2物も3物も与えた例として当時のメディアはアイドルのように扱い、彼女が<観測者>のみが通えるという有名女子校の生徒だと分かってネット界隈でもカルト的な人気を誇った。


 「ああいう有名人は将来、イケメンエリートの<観測者>や<跳躍者>と結婚すんだよ。俺たちみたいな無能力に毛が生えた連中とは違うんだ」


 康太は自嘲気味に笑った。康太自身は周囲0.5cmを観測できる<観測者>でもあるが、観測範囲が狭すぎて僕のような無能力者とほぼ変わらない。よくクズ<観測者>として生まれるくらいなら<跳躍者>として生まれたかったと自虐している。

 

 「せめて僕が<跳躍者>だったらなぁ。将来、バディを組める可能性があるのになぁ。」


 「いや、その可能性だってゼロに近いだろ。彼女ほどの観測範囲に完全リンクできる<跳躍者>だって一握りだぜ?」


 <観測者>に能力格差があるように<跳躍者>にも能力格差がある。近年まで<跳躍者>のテレポート範囲は無制限だと思われていたが、<観測者>の観測範囲内においては自分がリンクできる距離しかテレポートできないと判明している。


 「坂口アイリが能力者である限り、お前の人生に関わることなんてないんだ。」


 昼休み終了のチャイムが鳴る。康太は気だるげに伸びをしながら言った。


 「彼女と僕に接点がないなんて、良く知ってるさ。」


 僕は中庭のベンチから立ち上がるとズボンに付いた木屑を払った。僕、高梨健人と坂口アイリの人生が交差することなんて多分、一生ない。でも、目を閉じれば確かに彼女の事を感じられるのだ。妄想なんかじゃなく、確かに感じる。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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