全ての始まり
「Hand in Hand」のサイドストーリとなります。
なので更新は遅速としたものと予想されます。ご了承ください。
ではどうぞ
「ん~どうなってんの?これ」
少年は体を伸ばしながら愚痴るように眼科の光景を見下ろしていた。眼下には煌びやかな街並み。練り歩く人、道路を走る高級車達。そして辺りには高層ビルがこれでもかと立ち並び夜闇を煌々と照らしていた。今少年が立っている場所もそのビル群の一角に建つビルの屋上だ。
しかし眼下の光景を見てもおかしな点は見られないように感じる。世間一般的な他と違うとすれば皆が皆如何にも高級そうな物品を身に纏っているところくらいの物か。だがここが高級住宅街で、更にはVIP御用達の歓楽街だという事を考えれば何もおかしくはないだろう。とは言うがしかし、少年から見るとそれがまた別の物に見えるかのように不思議そうにその光景を見下ろしている。
「……おっかしいな~」
少年が尚も不思議そうな表情で眼下をを見下ろしているとビル群特有の強い風が吹いた。
「うお」
その風に目をつむった少年の髪が大きく靡いた。
それは少し硬そうな黒髪だった。男としては普通くらいの長さまで伸ばした何の特徴もない髪形。どこを見ても可もなく不可もないと言った普遍の顔立ち。年齢平均とそこまで差がない体格。誰が見ても「普通」。その印象しか受けないかのように当たり前に普通の少年だった。
だが唯一彼に『普通』じゃないところがあるとしたらそれは彼の右手に握られている日本刀くらいのものだろう。この現在においてはあまりにも時代錯誤な、骨董品、文化と言われても仕方がなさそうな、そんな日本刀だった。刀身が銀色に光り、綺麗な波紋を描いているそれを彼は木の枝でもそうするようにふらふらと揺らしている。周りからするとあまりに危険だろう。だが少年は呑気な、少し寝ぼけたような顔で眼下を見下ろし続けるだけだ。
『どうしたの?』
すると突然少年の耳に落ち着いた女性の声が響く。見れば少年の耳にはイヤホンのような物が付けられている。通信機器のような物だ。少年は手を耳に当てて応答する。
「なあ下の人らって確か学校とか、親がいない子供のための施設とかに関わってる人たちなんでしょ」
『そうね』
「じゃあなんで自分たちはこんな夜中に酒飲んで子供たちの事はほったらかしなの?施設には今も子供がいるんでしょ?」
『……』
その問いに女は無言になった。
少年の眼下に優雅にも酒を交わしながら談笑しているのは全員がと言って良い程教育、あるいは身寄りのない子供たちが生活をする施設等に関わっている者だ。それの開発、資金の寄付などを謳って立候補している議員などもいる。しかし現実はどうだろうか?教育面は虐め、差別、体罰。数々の問題を抱えている。並べて保護施設などもそうだろう。身寄りのない子供は平和と言われるここ日本であったとしても数多く存在している。そんな子供たちが行く場所が児童施設だろう。身寄りがないだけではない。虐待、育児放棄、過度のスパルタ教育。それらにより親元より離された子供たちもいる。それは確かに正しい事なのだろうし子供たちからしたら幸いなことなのかもしれない。あくまでも一時だけなら、だが。その後彼らが行くのはそのような境遇の子供を保護する施設なわけだがそこにも問題は山積している。職務怠慢、職員による児童への暴行、乱暴、そして施設維持にかかる費用の不足。
しかしそんな施設や教育現場の改善をと名を上げたのが少年の眼下で談笑している彼らだ。しかし現状は何も完全されていない。どころか彼らは提供すると言った資金を未だに提供していないにもかかわらず今もこうして豪遊を繰り返し、金を浪費している。本来であれば子供を救うための金であったはずなのにだ。
それが少年には純粋に疑問だった。そんな金があるのなら早く子供たちに使えばいいのにと。
『だからよ。今回の目標は資金を横領している者の排除。このような任務は滅多にないのだけれど上層部に子供好きがいるのよ。確か名前は勝俣って言ったかしら。苗字は忘れたけれど表側でも教育委員幹部として業務に当たっているわ。その男からの指令。『子供の命よりも自分の娯楽に金を注ぐような教育者はいらない。潰せ』だそうよ。問題ない?』
「ん~ないです。とりあえず俺も子供は好きだしそういうの許せないんで」
その言葉に女は「そう」とだけ言ってから通信を切った。行けと言う意味らしい。
少年は再び体を伸ばしながら眼下を確認する。すると先ほどまで談笑していたグループから一人の男が抜け出し今少年が立つビルの路地裏へと入ろうとしていた。
「あの人か」
そう呟くと少年は屋上の段差に足をかける。そしてそのまま足を降ろした。
「未来の子供たちに、祝福を」
体が傾き、落下を始めるが少年はあろうことかビルの壁を踏みしめて体制が崩れるのを制した。そのまま落下の勢いをつけて彼は走り出す。壁を。
見る見る地面が迫り、残り十メートルと言う所で彼は跳躍した。そしてそのまま男の眼前に大きな音を立てて着地する。
「な、なんだね君は!」
そう叫ぶ男は恐らく五十代と言った所か、顔に少し皺を寄せていた。その体は如何にも高そうなスーツに身を包み、彼の金の使い方を表しているようだった。
彼は少年が日本刀を持っているとみて警戒心と恐怖心をもって少年を観察する。その目は完全に怯えていた。当然だ。いきなり子供が降ってくれば日本刀を持っていなくても驚く物だ。
しかし少年はそんな事は関係無しにと眼前の男に日本刀を向ける。
「御山剣璽って言います。子供たちのため、あなたには今のうちに真っ当に死んでもらいます」
そう言って彼は一歩踏み出した。子供たちのために。
彼は御山剣璽。
初代『人類最強』にして『希望』と呼ばれる少年だ。
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