第1章 リンの結婚
「え?まだ言ってなかったの?」
中都信州御山家
家主である神子の後ろで土下座体勢のままあることを報告した妹筆頭リンさん。
「今度連れてきたら?コートさん。」
「そうだねえ。その前に報告しないとね。リンに結婚前提でおつきあいしてる男性ができたって。」
土下座体勢から顔を上げたリンの表情を密かに涼子が写真に納める。
「やっぱりかわいいなあ。私は末っ子だったから、リンが私のこと姉として慕ってくれた上に、こんなうれしい報告を一番にあげてくれてとってもうれしいよ。」
[は?リンの結納で、明日香の予定を空けてほしい?リンにお相手できたんですか?…これって四月一日のいとこですよね。鳴滝。四月一日を呼んでください。]
数分後。
「お呼びでしょうか?」
[これって、あなたのいとこですよね?ア-カンタル大爵。]
「あー。はい。コートニールが何かしでかしましたか?」
[長相の夫になるかもしれません。]
遥夢の言葉に四月一日と呼ばれた女性が固まる。
「へ、陛下?今なんと?」
[あなたのいとこであるコートニール・ラウラ・セーリバウ侯爵が、長相であるルーラ皇爵の夫になるかもしれないと申し上げました。アーカンタル・ワイトウル・カーラ・エル・アストガル・ハヅル大爵。それとも連邦戸籍名で赤城浅葱と呼びかけた方がよろしいでしょうか?四月一日八月一日国王隷下上位主師常設補佐官殿?]
いつもはいやがる日本戸籍での本名呼びでも石化は溶けない。
渦中の神物であるコートニール・ラウラ・セーリバウ侯爵は見た目だけで言えば渋くてダンディなおひげのおじ様。だけど年齢で言えばリンより数十大周期単位で年下。
そんな神物がリンとつきあっていたと言うことに遥夢は驚いていた。
当人の姉である、神子はリンが誰とつきあおうが、それが例え、オカマだろうが、ゲイだろうが、チャラかろうが、リンの言動に対応できてくずでなければ反対しないつもりであったが、相方の涼子が、人物審査にうるさいので涼子が認めればそれでよしとしている。
「さてと。それじゃあ、うちゃこれで失礼しますね。お二人から、見てほしい物があるって言われてる物で。」
そう言って、固まったままの四月一日を器用にずらして部屋を出て行った神子であった。
[あの子なんの情報もおいて言ってくれませんでしたね。まあ、あの子のことですから、かなり余裕を持った日程を組んでいるとは思いますが。四月一日は一度実家に帰りなさい。鳴滝も。全く。執務室で話がしたいと言うから何事かと思えばやっかいごとを持ち込むことにかけてはあの子はずば抜けてますね。
伊勢は居ますか?]
呼び出された人物は、海軍式敬礼をして入室する。
王国基軍近衛軍連合艦隊第二師団艦隊平時司令代行兼第二師団艦隊特殊形状艦隊司令代行 将長(序列第4位)伊勢照美
それが彼女の肩書きと名前だった。
神子が第二艦隊内に創設した特殊形状艦隊。先の次元戦争の際に親兄弟を失い孤児となった者や、余剰素体の中から、優れた者を選び出し、艦魂を封入するか、孤児の場合は元の魂と融合させる。
その上でこの素体のために制作された兵装をつけて起動させる。
通常は司令官たる神子ともに近衛艦隊旗艦コーウェリアに乗艦し、艦橋に詰めている。だがひとたび出撃命令が下れば、、亜空間に収納された兵装をつけ、飛び出していく。
その中でも、主である神子から最大級の寵愛と信頼を受けているのが、艦隊筆頭秘書艦と呼ばれる彼女、伊勢である。
私生活における神子の秘書がリンなら、仕事面での秘書が彼女だった。
「お呼びでしょうか?」
[あなたはリンの婚約について何かご存じですか?]
「申し訳ありません太宰殿下にきつく口外無用を言いつけられており、例え、陛下であっても詳細はお話しできません。ですが、結納の予定期日は陛下より教皇猊下へご連絡いただく関係上お話しさせていただきます。結納式は来期5月15日を予定しております。」
ほんわかした感じを出会った者に感じさせる、ちょっと年上のおおらかなお姉さん感を持つ伊勢。彼女の報告を受けて、遥夢は妹である国教教皇の明日香へ連絡を入れた。
2年後の3月26日 蒼天宮前 藍蒼横4号線
幅100kmの極太大通りが全面的に通行止めとなった。
「創造主の御前にて汝、夫となりたる者、セーリバウ侯爵、コートニール・ラウラ・セーリバウに問う。そなたは、これより先、いかなる苦難があろうと、いかなる困難が訪れようと、伴侶となる者を愛し、信じ、嘘偽りのない信頼を貫くを誓うか?」
「誓います。」
紅く染め上げられた大通りの両脇にそびえる建物の外壁には、赤や白の布が下げられ、王国内が今の瞬間を固唾をのんで見守っていた。
「創造主の御前にて汝、妻となりたる者、ルーラ皇爵、フェドレウス・リン・コンコルド・エル・ラルストムージャに問う。そなたは、これより先、いかなる苦難があろうと、いかなる困難が訪れようと、伴侶となる者を愛し、信じ、嘘偽りのない信頼を貫くを誓うか?。」
「フェドレウス・エル・ウェグノル・アルテ、コート・タキ。(想像主たる我が名において、固く誓う。)」
リンが、いつもの無表情をいっそう強くして答える。
「両者の誓いは今これを聞く、見る者全てを証人としてなされた。その証として、今、両者が署名した宣誓書を婚姻補助書類として、地官に提出する。これを持って、全ての形より、この者らは永久の伴侶となる。」
明日香の先生に合わせて、遥夢が、壇上に上がり、愛用の錫杖を一つ突く。
[諸君、この良き日に我が従姉のそして、我が姉に永久を誓う伴侶が生まれたことを、彼の家族に。これを見守ってくれたことを諸君らに。そして、これまでも、これからも我らに忠誠を使いこの国を発展させていくことを伴侶とともに誓ってくれた我が従姉に、王として、蒼国総主として、そして創命の創造主として、強く、深く感謝と祝福を告げよう。ありがとう。では、諸君らも一つお手を拝借。]
遥夢による国歌独唱と、それに続く拍手で国家行事として行われたリンの結婚式は盛大に幕を閉じた。
「因みに本日はリンの誕生日であると覚えてた人は着座してください。」
何を言い出すやら、神子の発言にその場にいた全員が膝を突く。
「こりゃ2重にめでたいですなあ。あとは。」
「「わ、私らは、ほら、涼子ちゃんの審査が厳しいし。」」
「わかってますって。鳴滝いつやる?!」
こうして、大騒ぎのうちにことは進んでいった。
新婚旅行?
さあ、どこに行くかはご両人次第。
数年後
神宮総合駅
『ただいま-区-番線に停車中の列車はMWCN2705界方面沖ノ鳥島本線、シベリア本線経由、モスクワロンドン行きの特急です。』
アナウンスを聞きながら遥夢が一人、ローブをまとい、列車に乗り込む。
発車時刻を迎え、列車は静かに滑り出す。
最も長い列車に合わせたため全長50kmもあるホームを抜け、トンネルに入ると、窓の外が白くなる。
『転線点を通過中。』
車内に浮かぶ半透明の情報窓にこう表示されている。
表示が切り替わるのに合わせて、トンネルを抜け、見えるは藍蒼市街。左手は雲より高い高層ビルが建ち並ぶオフィス街。右手側は遥か先に様々な船の行き交う港を望む広大な都が見えていた。
そんな都を貫く長城のごとき鉄路の中間にまるで町の東西を隔てる門のようにそびえる一つの駅。
そこを過ぎると、列車は一度、建物の中を抜け地平に降りる。建物を抜けてから降りるまでが、とても見物だった。まるで、扇を開くかのように一つの構造体に納められていた鉄路が一気に広がったのだ。
広大な草原を駆け抜ける25複線の上をせわしなく駆け抜ける列車達が乗客を楽しませる。
特に25複線の中央を10数秒に1度すれ違い、追い抜かれる超長大編成の列車は乗客の目を釘付けにする。
この列車の最初の目的地までは数日かかるそのためか、乗客は列車内の個室に乗り込んでいた。
車内はまるでホテルのようで、初めて乗る者は感動した。
数日後
『まもなく日本連邦帝国帝都沖ノ鳥島転界点に到着いたします。次元境界面間空間通過準備のため、同地に5時間停車いたします。乗り換えのご案内です。-。』
列車はここで異世界へ向かうための準備を整え目的の世界へ渡る。
世界は次元境界面という物に包まれ、何もない空間に浮かぶ泡のような物であると確認されている。その次元境界面を抜け境界面の間にある空間を渡るための装備を調えているのだ。
数時間の準備を終え、列車は沖ノ鳥島転界点と呼ばれる異世界への門を抜ける。
更に十数時間が経過した。
『大変お待たせいたしました。まもなく、MWCN2705界大日本及びムー大陸連合帝国沖ノ鳥島新島艦橋駅に到着いたします。』
列車は再び数時間の停車の後走り出す。次の停車駅は八丈島にある八丈駅。
遥夢はここで乗り換えた。
「お待ちしておりました。」
品の良い一組の男女が遥夢を迎えた。