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20.砦から出発

その後とんだ時間を食堂で過ごしていたことに気づいた面々は、慌てて帰り支度を始めた。


 砦への用事は本当に終了報告だけだったようで、アルバン団長にも挨拶を交し、来たときとは反対側——街側の玄関に出た。


 ついに街へ、王都へ向かう。


(砦がこんなヨーロピアンなんだからきっと街も北欧っぽいのかな。お城とかベルサイユ宮殿かなシンデレラ城みたいなのかな……)


 クディは少ない知識を寄り巡らせワクワクしていると、またベルの龍に変身シーンを見逃してしまった。次こそは見てやろうと意気込みながら、慣れた調子で首に股がった。


 うんしょと腰を据えると、クディを見上げるフリッツに声をかけられた。

 

「クディさん、すみませんこれをベルの首に付けてもらえますか?」

「? はい、わかりました」

「じゃあこの金具ひっかけるだけなので」


 そう言って広げたのは大きな白い台形の布で、四隅に紐が着いている。その紐をベルの首の左右に渡し、先についている金具部分を受けとり巻き付ける形で止めた。

 まるで首輪のようで、苦しくないかベルに確認すると若干の不機嫌さは感じるものの問題ないと返された。


 クディが金具を付けている間、フリッツが誘導してベルの足を上げさせ布を腹の下に敷くように持っていき、残りの紐をしっぽに巻き付けるように金具を止めた。


「このエプロンみたいなのなんですか?」

「クディさんからは見えないですが、城の紋章がついてるんです」

「紋章? なんでですか?」

「これから城まで行くのに村や街の上を通るんですが、そのときドラゴンが襲ってきたと思われないようにするためですね。

 国はベルの姿をちゃんと分かってる攻撃はされないんですが、さすがに一般市民が全員知っているわけ無いので。

 下からみたときに国のドラゴンだって分かれば混乱しなくてすむでしょう?」

「はぁ〜なるほど〜〜〜」

「砦から森まではほぼ無人なのでいらないんですが、さすがにここから城まではそうはいかないんですよね」


 確かに突然上空をドラゴン飛んだらびっくりするもんなあ。

 関心して頷き、ついでにベルが不機嫌な理由も訪ねるとフリッツが吹き出した。


「プッ……ふふ、すみませ……ふっクク……」

「えっ聞いちゃいけない感じでした?」

「いえ……ただ単にそのエプロンが窮屈で嫌いなだけみたいです。ふふっ」

「ははっ、なるほど」

「ふりっつ……」

「おっとスミマセン、では出発しましょうか」


 笑う二人を睨むベルは非常に面白くなさそうな顔をしていた。段々とドラゴンの表情も分かってきた、気がする。


 笑ってゴメンという気持ちを込め、ベルの首筋を撫でてみると驚いたのか勢い良く振り返えられたのでニッコリしてみた。

 彼は丸くした目をキョロキョロさせると、気まずそうに視線を落とし前を向いてしまった。


 今の表情はどういう意味だろうか、ちょっと不安になってしまう。


「ベル様、すみません。お嫌でしたでしょうか?」

「イエ、アノ……違イマス。ソノ……オ気ニナサラズ……」

「ごめんなさい。もういたしませんので」

「……オ好キニナサッテ下サイマセ」


 どういうことだろうか、珍しくキョドっているし投げやりな返事だ。

 もう一回やれというフリだろうか。再び首筋を撫で、鱗のツルツルした触感を楽しむとビクリと反応した。


 好きにしていいとは言ったけどまた撫でるか?と目で訴えられたので、口元を抑えていたずらっぽく笑った。

 森から乗ったときより距離が縮まってる気がして、それも嬉しくて自然と綻んでしまう。


「ベル、行きますよ!」


 フリッツがこちらにかけ声がすると、騎獣達が駆け出し助走をつけて飛び立った。それに続いてベルも翼を羽ばたかせる。

 少し慣れたクディは後ろを振り向き、見送ってくれる第三騎士団に手を振り砦を後にした。


 森から砦まではけっこう近かったようで、あれから1時間経つがまだ王都には到着しない。

 遠くにうっすら高い建物が見えてはくるが中々近づかないものだ。


 もう小さな街や村の上をいくつか通り抜けている。住民達は上空を騎士達やベルが通るのに慣れているようで、上を見上げこちらを指差しているだけだ。


 意外と低めに飛ぶので家屋にぶつかりそうで怖いが、安全性アピールの為しかたない。下手に遠くを飛んで魔獣が襲ってきたのかと不安に思われて問題になるよりいい。


「それにしても皆さんこっち見て驚いてますね、ベル様が飛ぶのはけっこう珍しいんですか?」

「……いやそんなことないですけどね。月に一回はどっかしら飛んでますし」

「ふぅん」


 行く先々で皆が指を指してくるので斜め前にいたフリッツに聞いてみるが、彼も心当たりが無いようだ。

 腑に落ちないが、クディではこの速度だと聴覚を身体強化しても住民の声は聞こえない。


 ただ一人、人族や霊人族の何倍も聴覚が優れている獣人族のティーダには聞き取れたようで、冷や汗をかいていたのをユーリが目ざとく見つけた。

 前に座るフリッツにジェスチャーで伝えると、ティーダの顔色に気づいたらしく騎獣をよせる。


「ティーダ、聞こえたんですか?」

「あぁー……うん。どうやらベルの上に乗ってるのは誰だって皆気にしてる」

「「あっ」」


 この国にいる数少ない龍人族であり、国に勤め空を飛び回るベルは市井のあいだでもそこそこ有名人だ。


 そんな彼の背中に人がいるのを初めて見た者達は驚くだろう。龍人族の背中に乗れる条件はこの世界での一般常識だ。

 すでに祝福子だと知っている三人からしたら違和感なかった。端から見たらベルの伴侶である可能性が一番高いことに誰も気づかなかったのである。


 あの(・・)ベルンハルトがついに結婚かと、村人たちが口々に言っているとティーダが情報を付け足したところで、ユーリが怖々確認した。


「じゃ、じゃあ……さっき砦の人たちにも見られたってことですかね……」

「そ、そうですね……」

「あ〜あ、俺知らね〜」


 口には出さないが、三人は同じ事を考える。おそらくベルはこう思われることを分かっていたはずだ。


 龍人族は独占欲や縄張り意識が強く、伴侶には自分がいるとアピールし他者を遠ざける習性があると聞いた事があった。しかしまさか、伴侶だけでなく祝福子もその枠に含まれるとは。


 ベルは下からみたら誰かが乗っていることがバレると知った上で、気づかない四人に黙っていたのだ。


「龍人族怖い……」

「こらっユーリ君」

「おい、ベルには聞こえるぞ」


 ほらとティーダが顎しゃくる方に顔を向けるとベルが睨んでいる。

 ヒソヒソ声でも聞こえるのかと焦ったユーリは半笑いで会釈を返し、あとでどんな目に会うのか想像して身を震わせるのであった。


(なにが怖いって……まだ出会って一日も経ってないんだぞ……)


 昨晩あの出会いがあってから、日を跨いでようやく午後を過ぎた。高々半日過ごしたくらいで、この執着心。確かにこの短期間とは思えないくらい仲良くなってきているが。


 龍人族は主人なんて滅多に作らないから自然と伴侶だと思われるはずなのに。

 つまり伴侶だと思われてもいいから自分のものだと、自分には大事な人が出来たと言いたいのか? それを他人に主張してどうなる? そもそも龍人と祝福子の関係は他種族とはそんなに違うのか?


(いやボクも祝福子がなんだかよくわかってないのが悪いんだけどさ……。

 というか授業でちょっと習っただけでピンとこないし。確かに魔力も魔術も凄かったし神の国の人だし。でもボクそんな信心ないから『神』という概念の凄さもよくわからない……だめだ……)


 ぐるぐると考えを巡らすユーリだが、祝福子の知識が少ない彼には答えにたどり着けない問題だった。それは他の二人も同様で、騎獣組は一気にお通夜モードになる。


 幸か不幸か景色を楽しむクディはその様子には気づかず、ベルは鼻をならし無視していたのだった。

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