15.ベルンハルトの思惑
「ワイバーンのステーキ、ガルググのハンバーグ、バイヤルフォンの生姜焼き……」
目の前にある『本日の定食』メニューを読み上げるが、食べたことない肉ばかりで味の想像が全くつかない。というかモンスター食うんだ……。
食事にも祝福子の活躍はあったようだ。ハンバーグや生姜焼きは先人達の功績に違いない。ここでも美味しいものが食べれるとはありがたいことである。
「クディ様、何になさいます?」
「えーと……どれも食べたことない肉で、味の想像がつかなくて……」
隣に並ぶベルがメニューを読み上げ熟考するクディに聞いた。食堂は広く、六人程度が囲めるテーブルがいくつも連なっている。
食事の注文はカウンター式で、お盆を持って順番が来たら厨房に申告し、最後に会計をするタイプだ。
ここに来るまでの間、耳にタコとイカが出来るほど『目立たない』『小声で喋る』ように言われ続けたので、ちゃんと小声で返事をしている。
聞き取れるように顔を上げたらベルも体を折って近づけてくれた。
「おや、そちらに魔獣はいないんですか?」
「まったくいないです」
「それは安全でいいですね」
「ええ、だから皆様のような騎士様はいないですね。ああでも昔はいたのか」
日本の場合は武士だけど。
「ではそちらの昔の騎士は何と戦うんですか?」
「人間です。国同士の戦争ですかね。陣取り合戦みたいな」
そういえばこの世界の戦争問題はどうなっているんだろう。もし自分が巻き込まれるようなことになったらどうしようか。
いやそんな杞憂より今は何を食べるかの方が大切だ。
「ベル様は何にしますか?」
「っあ、……私はハンバーグにしようかなと」
見上げて問いかけたら少し切なげな顔をしていたのは気のせいではないはず。もしかしたらヌーフォンにはない設定だったのかもしれない。迂闊だったが懸念してもどうしょもない。
「じゃあ私もハンバーグにします。真似っこしていいですか?」
「は、はい、私は全然……」
えへへと無邪気に笑うクディは特に何も考えずに、ベルが選ぶなら美味しいものだろうと踏んで決めただけだった。
(……なかなかどうして)
厨房の奥を眺めるクディを盗み見るベル。新しい感覚にむずがゆく緩む口元を、自然な仕草で隠した。
小事であれベルからすれば見知らぬ土地で自分が一番に頼られているということが、喜ばしくてしょうがないようだ。
部下に懇願されようと切願されようともピクリとも動かなかった心がこんなことで揺れるとは。
(なるほど、これが主人を持つ感覚か———)
助けになりたい存在から寄りかかれることがこれほど感慨深いとは。
未来への熱望に少し胸が膨らむベルだった。
◇ ◇ ◇
祝福子としてバレないよう帽子を目深に被ったものの、戦士だらけのこの場にふさわしくないほど小柄なクディは目立つだろうと気がかりだった。
が、それはとんだ杞憂ですんだ。
第三騎士団の現副団長と元副団長、第一騎士団の団長と副団長が一団となって固まっているほうが大いに目立っていた。
ちなみにアルバンは仕事があるからとここには不在だ。この砦にいたときのベルの話しを聞きたいなと思っていたクディは少し残念に思う。
「すいません、B定食2つお願いします」
ようやく順番になったので、厨房の職員に注文をする。女の声にビックリしたのか顔を跳ね上げた調理師に、自分とベルを指差し二人分とジェスチャーした。その仕草に誘われ指の先に視線を流してベルの顔を確認すると、明らかに狼狽していたのは面白かった。
注文を受け付けたという合図なのか、職員は戸惑いを残したまま奥に向かって指示をだしたので列に沿って進む。
「クディ様……」
「ベル様たちが悪目立ちしてるから大丈夫ですよ」
「……」
クディはどっからどうみても女にしか見えない体つきだ。発言を控えたところで性別はばれているし、ちょっと喋ったっていいだろう。さすがに祝福子とはバレまい。
それよりも前に並んでいるティーダ達を第三騎士団の男達が複雑な顔をして遠巻きに注目している。木は森に、不審者は場違いな集団の中だ。
食事を受け取ったユーリが、先に行って席を取ろうと彷徨いていると自然と道が開けていく。まるで十戒。おかげですんなり座れたらしく、笑顔でこちらに手を振っていた。
クディは出来上がった食事を受け取り喉を鳴らし眺めていたが、会計になったところでお金がないということを思い出した。ちらりとベルを見上げると、一歩前に出てくれたので彼のお盆を預かり素早く身を譲った。
「ありがとうございます。あとで……いつかちゃんと返しますんで……」
「いえ、これくらい大丈夫ですから」
いつかとはいつだろう。借金を返せる程、お金に余裕を持てる日がちゃんとくるのだろうか。
などと悲観している場合ではないのでせめて役に立たねばと思った矢先、会計が終わったベルにお盆を二つとも奪われてしまった。
「べ、ベル様、私が持ちます!」
「クディ様には重たいでしょう」
「どんだけ非力だと思ってるんですか!」
取り返そうとするが高く上げられ全然届かない。こんな小賢しいやりとり小学生以来だ。
じゃあせめてとばかりに、食器コーナーへむかいフォークとナイフをとりに小走りする。二人分持って戻ってくると呆気にとられるベルが棒立ちしていた。
お使いをすませて満足げなクディに嘆きたくなるが、頭を抑えるにはあいにく両手は塞がっていた。
「クディ様は私にそのようなことしなくていいんです」
「せめてこれくらいしないと。ベル様も私が祝福子だからってそんな気を遣わないで下さい」
遣うに決まってるでしょうとの小言がベルの口から出かけたが、渋々お盆を差し出し食器を乗せてもらった。
こちらの知識が全く無いとはいえ、自分の立場が分からないクディをもどかしく思ってしまう。
だからこそ、あとで分かるようにすればいい。
彼女だけじゃなく、彼女を狙うであろう者達にも分かるよう。
(きちんと、な)
やり慣れた不適な笑みを浮かべ、ユーリ達が待つ席に向かうのであった。




