本当の真実
「何でお前が・・・」
「秀が調べてくれたお陰で、ちゃんと全部分かったんだよ。この事件の全容」
「階段事故の犯人は・・・」
「そう、十三件とも俺だよ」
「でも、お前には犯行動機がないだろ」
「犯行動機ならあるよ」
俺には想像できなかった。近くにいて何も感じることはなかった。ただ、必死な感じだった。
「実はな、俺・・・弟なんだよ。こいつらに殺されたのは俺の兄貴なんだよ」
「え・・・でも、名字が違う」
「兄貴が死んで、両親が離婚して名字が変わったんだよ」
「嘘だろ・・・でも、何のために階段から突き落とすなんてことしたんだよ」
「殺した人間に身内が危険な目に合うということの悲しみを味わせてやりたかった。何で俺だけがこんな目に合わないといけないんだよ」
「なら・・・お前は」
「岳君といったか。君は何か勘違いをしている」
自分が言おうした言葉を遮られ、先輩が口を開く。
「俺たちはあいつを殺さないといけなかった」
「はぁ!? 俺の兄貴はいじめられてたんだぞ。殺されるべきなのはお前らなんだよ」
「そこが違うんだよ!!」
「は?」
「お前の兄貴はいじめられてたんじゃない。俺たちをいじめてたんだ」
「何言ってんだよ。あの女から聞いたんだよ。兄貴がいじめられてましたって。嘘つくなよ、ボケ」
俺はあの先輩の女子の言葉を思い出す。
「いじめられてたんです」
俺はあの時、田中さんがいじめられていたと解釈したが、実はあの先輩の方だと解釈も出来る。
俺が感じていた違和感。
被害者がいじめの被害者という感覚が、この事件を少し狂わせていた。被害者が加害者という可能性を無意識に捨てていた。
「あのクラスは本当に酷かったよ」
「田中さん、もうやめてください」
「喋っていいなんて俺は許可してないぞ」
俺はすぐに殴られ、踏みつけられて心が折れそうだった。こんなやつ早く死ねばいいのにと。
「本当にすいません」
「だからー、喋るなつってんだろ」
そして、何度も殴られ、顔に痣が出来ることもあった。そして、計画した・・・あいつを殺す方法。
何度もシミュレーションをし、あいつを窓の外に突き落とした。俺たちは願うだけだった。
警察で事件扱いされたら確実に俺たちが疑われる。
そして、事故と判断されクラスに平和が戻った。
「兄貴がいじめの加害者?」
「これが真実だ」
「嘘だああぁぁぁ」
その後、傷害事件として岳が逮捕され、野球部はまた活動停止をくらった。
しかし、一つだけ謎が残った。
それは胆試しのときに起こった先輩の転落死。これに関しても岳の犯行だと思われた。
だが岳自身がそれを否定しており、結局先輩がどうして転落死したのかは未解決のままだった。