先輩
「とりあえず、先生に訊いてみようぜ」
岳のやる気が満ち溢れて、部活動でもそれぐらい出せばいいのになと心から思っている。
「でも、どの先生に訊くんだ」
「五年前からいる先生だろ」
「そんなの分からん」
「じゃあ、担任からだな」
職員室に二人で入り、担任を見つける。
「先生、質問したいんですけど」
「なんだ?」
「先生ってこの学校来て何年ですか?」
「七年だけど、それが何だ?」
「七年ってことは、あのこと知ってるんですか?」
「あのことって?」
「五年前に男子生徒が事故死したやつです」
「ま、まぁ、知ってるっちゃ、知ってるな」
「その亡くなった生徒ってどんな人だったんですか
?」
嫌な話であるから、なるべく答えやすいものだけ質問をしようと考えていた。
「ど、どんな人って言われても担任じゃなかったからなぁ・・・」
「その時の担任って、今はいますか?」
「別の高校に赴任したよ」
これ以上訊けば何か探っていると勘付かれそうだった。ここで一旦切り上げることにした。
「結局、収穫はなしって感じだな」
俺がそう言うとそうだなと岳は返して、その場を離れる。五年前の事だから詳しく知ってるとなると、やっぱり同級生の方がそうなんだろうな。
「明後日、先輩が来たときに訊いてみるか」
「あの、先輩」
「あっ、どうも君たちは?」
「野球部二年の沢野秀です」
「同じく二年の深部岳です」
先輩は大学四年生で内定をもらっていて、大学のことや就職活動をテーマに約一時間お話をしてくださった。
「それで何か用かな?」
「あの、先輩って五年前の事故死の事件知ってますよね?」
「・・・知ってるが、今さら何だ?」
「ちょっと興味が湧いてきちゃって、少しだけ調べてるんですけど、亡くなった男子生徒はどんな人だったんですか?」
「ふーん、アイツは酷い奴だったよ」
「酷いというのは?」
「そのままの意味だよ」
「死んだ人にそういう事言うのはどうなんですか」
初めて口を挟んだ岳がもっともな事を言う。
「あまりあの事故には関わりたくないんだ」
「あの、これ連絡先です」
この人はまだ何か知ってると俺の中で確信した。
「あの人どう思った?」
「何か知ってる風ではあったかな」
知ってる風というのはある種「隠してる」という意味でもある。まだ調べたいという欲求が残る。