ある節分の日に
唐突に始まり唐突に終わります。
何も始まらなかったので出来ればシリーズにしたいけど……。
鬼はーそとー 福はーうちー
「やってるねぇ」
こんなマンションでも季節を感じることが出来るなんてね。
聞こえてきた子供の声にしみじみしてしまう今年26歳になる悠里だったが、ちゃっかりその手には今日買ってきた豆がある。
しかも升に入った本格的なやつ。
「んー、掃除が面倒だしまくのはベランダだけでいっか」
福を呼び込まなくていいのかという内なる声を無視して悠里はベランダの窓を開けた。
その瞬間。
ブァッと風が入り込んできた。
風の強さに思わず目を閉じ、開けた時。
そこは室内ではなかった。
「えっ、どこ?」
まさに着の身着のまま。
裸足に芝生の感触。薄着の肌寒さ。
これは夢ではなさそうだ。
だけど尚更ここはどこなのか。
室内からいきなり見知らぬ風景の場所へ。
一言で言うなれば、森。
よくよくファンタジーな世界で出てくるような森の中といったところか。
キャパを超えたせいか、逆に冷静になって考えている自分がいる。
「こんな時って大抵、肉食系の動物とかよくわからないモンスターが出てきたり……」
あぁ、口に出したのがいけなかったの?
あまり認めたくないけど、なんか目が合った。3つも目がある摩訶不思議な生物と目が合ったんだけどっ。
手には鋭い爪、頭にはツノ。さながら鬼のような生物。
友好的という路線は……。
「ガァァァグギャッ」
喚きながら木をなぎ倒してる時点でまずないと思われる。
「ってえぇ!?こっち向かってきてる!!」
逃げ、きれるわけがないっ。戦えるもの、なんてあるはずないっ。
唯一手にしてるもの。
「鬼、豆……?いやいや無理でしょう。あぁでも時間ないっ。ええいままよ!!」
手にしていたものを鷲掴み。
「鬼はァァァ外ォォォ!!」
力の限りぶつけた。
結果。
無事鬼もどきの退治は出来た。
豆が鬼もどきにクリーンヒットした瞬間、まるで雷に打たれたかのような電撃が鬼もどきを襲った。
一撃必殺の最終兵器?
私は最強の武器を手にしていたらしい。
とりあえず人に会う事を目標に歩き続け、出てくる鬼もどきを豆まきで退治しつつ。
不思議なことにマメは使っても減らないらしい。
鬼もどき退治無双をはじめてアバウト3時間ついに人との接触に成功した。
割と見られたくない場面で。
だ、だってノリノリで振りかぶって大声出して豆を投げつけて。ドヤ顔してたところを見られるなんて!!
しかもイケメン!!
沈黙って、心に突き刺さるんだね。
「あのオニモドキをいとも簡単に……」
「あ、オニモドキって名前なんだ」
「…………」
「……ごめんなさい」
シリアス突入しようとした瞬間ぶち壊したよ私は!!
もう無理だよ、私居た堪れなさすぎて心臓がキリキリしてるよ。
なんとか会話をつなげた結果、イケメンな彼はラウルという名前でこの森に異常発生したオニモドキ退治に来たそうだ。
退治中に仲間とはぐれて歩きまわっていたら私の豆まきによりバタバタと倒れていたオニモドキを見つけ、後を追いかけてきたところさっきの場面に遭遇、今に至る。
「いつの間にかココにいたと」
「それはもうほんといきなり」
「その豆を投げつけただけであんな状態になるとは……」
「私も疑問なんだけど、もともと豆まきって風習があってね豆で鬼を退治するからそれによる効果かなって思ったり」
「豆で!?聞いたことないな。ユーリの持っている豆が特別と考えるのが妥当なところか」
情報交換中にタイミングよくオニモドキが出てきたのでラウルに投げつけてもらったが効果はなかったので、この豆を私が投げる事によってオニモドキ退治ができるようだ。
ちなみに、お腹が減ったので豆を食べてみたら怪我が治った。これはラウルにも効果があったようで、かなり安心している。
離れ離れになったラウルの仲間にも使用できるからね。
とりあえずラウルの仲間と合流するのを第一に考えて、オニモドキの親玉を退治する。
親玉さえ退治すれば現状なんとかなるらしい。
それから私の事をどうするか考える。
突拍子もないことだけどラウルは私の話を信じてくれた。
そして帰れるまで面倒みてくれるとまで言ってくれて、もうなにこのイケメン!!
ときめきが止まらない!!
でもお姫様抱っこはさすがに辞退した。
実は私裸足だったんだよね。
上着破いて巻きつけただけの応急処置しただけだったから見かねて申し出てくれたラウルはマジ紳士だけど、それだけは羞恥で死んでしまうから無理です。
そしてもうお約束というか。
仲間と合流する前に親玉登場!
もう予想してたけどねっ。
ラウルは庇おうとしてくれたけど、私には最強の豆がいる。
はたして親玉に効くかはわからないけどいっちょやってみましょう。
「鬼はァァァ外ォォォ!!」
結果、一撃必殺はマジですごかった。
「これまでの俺たちの苦労は……」
「……ごめんなさい」
なんかもう、肩を落としてるラウルにかける言葉が。
目元に水が見えるのは気のせいだよね、きっと!
「いや、これ以上の被害がなくてよかった。改めて感謝を」
あぁ、微笑むラウルは天使だ。
どんだけできた子なんだよ。
「いやいやむしろこれから私がご迷惑おかけしちゃう立場だし」
「それは任せてくれ。衣食住は保証できる。帰る方法はすぐは見つからないかも……ユーリ?」
「へっ?」
「足がっ」
「おわっ、なんだこれっ」
足が透けてるとかどこの幽霊!?
「ユーリ!!」
「き、きっと帰れるんだと思う!オニモドキ退治の為に呼ばれたんだよ。ラウルに迷惑かけずに済んで良かった!」
「迷惑なんかじゃ、いやありがとうユーリ。理由はわからないがユーリと、会えて良かった」
「私も何が何だかわかんないけどラウルと会えてよかったよ。これ、仲間と合流したら使ってみて!私がいなくなっても効果があるかわからないけど物は試しでっ」
豆を渡し終えたところで私は見慣れた部屋にいた。
まるで夢を見ていたかのようだけど、手元にない豆や足に巻きつけた布で夢じゃないとわかる。
「あーもーわけわからん!!」
なんで、とか。なんのために、とか。
いくら考えてもわからないんだからもうやめよう。
ただ、もしまたラウルに会うチャンスがあるのなら……なんてね。