管理者の掟
俺は、兄貴に憧れていた。
優しくて、でも時に厳しい、俺の誇り。
でも、普段すべてを我慢しているから、
あの関係と、あの生活だけは、
何が何でも、守りたかった。
それなのに…。
*** ***
灰華は何事にも一生懸命で、宗助にとって姉のような存在だった。他人から見たら、親に見えるだろうか? 俺が子どもで、兄貴がお父さん、灰華がお母さん。別にそういう風に振舞っているわけではないのだが、自然とそうなった。
兄貴は、修業がうまくいけば褒めてくれるし、失敗したら灰華が優しく慰めてくれる。大好きで、大切な俺の家族。
最初は独りぼっちだった。孤独に耐えられず、自分の寿命を縮めてまで、宗助を造った。普通の人間として生きてほしくて、俺は苦労すると知りながら、宗助を赤ん坊から育てた。宗助は普通に育ち、今がある。
そして、彼女がやってきた。清楚で優しく、宗助もすぐ懐いた。この優しい家族を壊すわけにはいかない。
*** ***
逆東京
評議会 議院
今日は、評議会の全員が集まり、ある議題について話し合っていた。
評議会会長、樋口音輪が、結論を少々口を濁しながら出した。
「管理者の3つの掟『1.感情的に行動してはならない』、『2.人、霊魂と交わることを禁ずる』、『3.心身共に魔王、神に捧げる』。この仲の2の掟を破りし者を、捕縛し、尋問致すことにする!」
後に、樋口乃輪を産む、前評議会長の音輪は、魔人に命令を下した。
逆東京
桑田邸宅
いつも通り掃除をしていた宗助、灰華。すると、灰華が掃除する背後から、仕事しているはずの宗明が近寄り、灰華の体を軽々と抱き上げた。
「きゃ! 何事!?」
「灰華! 雪が降ってるから、外に行こう!」
「えぇ!? まだ掃除の途中…」
「いいから!」
宗明は灰華を抱えて、雪の中へ飛び込んでいった。
残された宗助は溜め息をつきながらも、2人の楽しい時間を邪魔することなく、灰華の乗っていた車椅子を隅に移動させると、掃除を再開。
暫くすると、宗助だけの家に武装した魔人が何人か突入してきた。胸をバッチを見て、彼らが政府の者であることは理解できた。
「なっ何の用だ!!」
「我々は、評議会により派遣された魔警団だ。桑田宗明、並びに宇治島灰華を拘束する!」
「兄貴を!?」
政府の警察機関、魔警団と宗助が会話していると、楽しそうに話す宗明と横抱きされた灰華がタイミング悪く帰って来た。
それに逸早く気付いた宗助は、2人に向かって叫んだ。
「! 兄貴! 灰華さん! 逃げてっ」
「いたぞ! 捕まえろ!!」
2人の声が同時に響く。
宗助は指揮をとる男を止めようと飛びついたが、振り落とされ、頭を壁に強打した。
薄れていく意識の中、その男が自分を横切って車椅子を持っていくのが見えて、次に雪の中で灰華を庇いながら必死に抵抗する宗明の姿が見えた。
しかし、灰華は捕らえられて乗せられた車椅子と共に連行され、宗明も拘束され連れて行かれた。
家の中に一人残された宗助は、朦朧とする意識の中で、必死に外へ、あの雪景色の中へと手を伸ばした。
「ま…って。つれて…いかないで…。 おれたちの…しあわせを……こわさないでっ…!」
冷たい風に晒され、徐々に体温を奪われてゆく。
そんな中、玄関には一人の青年が立っていた。その顔には、見覚えがあった。
「行松…桐雄…? 逆神奈川の… 管理者の…むすこ…」
「あぁ、そうだ」
「なんで…?」
宗助の質問に答えず、行松桐雄は宗助を抱き上げ、家の中に入ってきた。そして、倒れて動けずにいる宗助を抱き上げて、ベッドの上に寝かせた。
「……さっきの問いに答えてやる。宗明さんたちのことを評議会に通報したのが、俺だからだよ」
「なっ…!?」
「だって、これは立派なルール違反だ。同じ管理者として、正してやるのは、当然だ」
「っ…! 許さない…っお前を絶対に、許さない!」
「…あぁ。恨んでくれてかまわない。それじゃあな」
行松は冷たく言い放って、去っていった。
宗助はシーツを握り締め、必死に怒りを抑えようとした。しかし、口から出てくるのは、怒りの言葉だけ。
「許さない…っ。 一生、恨んで…やる!」
――――――――――行松桐雄! 俺はお前を許さない!!――――――――――
*次回予告
灰華とずっと一緒にいられる方法はあった。しかし、それをしなかったのは、兄貴の優しさ。
もう一度、生まれ変わって、彼女に元気に、歩いてもらえることが、
兄貴の願い…。
次回『届かない手』