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東京HEAVEN  作者: いとむぎあむ
Xの章
26/39

絶対氷結領域(オブ・ビディオン)

 きっと、私たちは似てるんだよ。


 お互いに、お互いを守りたくて、傷付いて、


 でも、一番守りたいのは、自らの誓い。


 私たちは、“約束”という2つの勾玉で、縛られて


 どこにいても、繋がっている。



 **** ****



 妖は懐からグローブの石と同じ、薄氷色アイスブルーの宝玉を6つ取り出し、孤陰の四方八方にまるで結界を張るようにして投げた。

 妖は石を設置すると、印を結び、何か呪文を唱え始めた。

「“我は氷に属せし者。その心は冷たく凍てつき、その身は氷そのもの。全てを捧げし我に、汝の冷たき氷雪を与えたまえ ―――――――――――― 」

「!その詠唱はっ まさか…!?」

 孤陰は何かを察して一歩、後退あとずさった。しかし、もう遅かった。石の置かれた場所まで来ると、見えない壁で退路を塞がれた。

「“――――――――全てを見透し、全てを切り裂く絶対の世界よ。道標を辿り、我が前に世界を創れ。我の敵を冷たき屍へと変えろ! 氷帝の王子が命ずる、『氷結限界“禁忌”その2・絶対氷結領域オブ・ビディオン』!!”」

 すると、散りばめられた宝玉から氷の柱が生まれ、孤陰を囲むように氷柱が立てられ、伸びた氷柱が孤陰を囲み空を覆い、氷のドームを作り上げた。

「くっ!絶対氷結領域オブ・ビディオン!禁忌とされる氷雪系最強の術式。囲むだけでなく攻撃にも特化している結界術の最強術。まさか、取得していたとは……っ!侮れんな、内海妖!!」

「散れ、孤陰」

 妖の冷たい言葉と鳴らした指の音が氷の中で響いた。

 孤陰の閉じ込められた結界の中で、背後の氷の柱が砕ける音を察した。それと同時に背に鈍い痛みを感じた。振り返ってみると、背中に鋭い氷の矢が刺さっていた。

 そして、背中に気をとられているうちに、いつの間にか自分の足は氷で動かなくなっていた。

 孤陰は焦りを見せながらも、冷静な口調で妖を称賛した。

「なるほど。私の足元を凍らせて動きを封じ、遠隔操作で中の氷を割って、その破片で相手に傷を付ける。…フッ。腕を上げたな、内海妖。父を超えたか」

「もちろん、それだけじゃない。これは親父の真似に過ぎない。こっからが、俺のオリジナルだ」

 妖が両手を前に差し出し、まるで何かを操るかのように計画的に指を動かした。

 一方、氷の中では、氷の壁がまるで液体のように揺れ、形を変えていた。

「なっ、なんだ!?」

 うろたえる孤陰に真下から、氷の柱の攻撃が襲い掛かった。その切っ先は孤陰の頬を掠めたが、驚愕する暇もなく、次の攻撃が降りかかった。ぴちゃっ と孤陰の頬に冷たい液体が落ちてきた。ゆっくりと上に目線を上げると、天井の氷がまるで溶けたかのように、水となって雫が滴り落ちていた。

「溶けている…?何故だ…」

 孤陰が呆然と天を仰いでいると、外にいる妖は差し出していた手を下に、立てた親指を地に向けた。

「“堕ちろ”」

 妖の言葉に従うように天井の水は再び氷となり、その形は矢となっていた。孤陰は慌てて避けようとしたが、雨のように降り注ぐそれは、エモノを決して逃しはしなかった。

 氷の刃は孤陰の腕や肩、体中に突き刺さり、鮮血を流した。

「ぐぁっ!!」

 孤陰はその場に倒れ、同時に氷の結界も砕けて散った。

 妖は地面に刺さっていた結界の残骸の氷を引き抜き、孤陰にゆっくりと近づいていく。

「に、兄さん… ?」

 怪のか細い声は妖には届かず、妖は氷の刃を振りかざし、孤陰に突き刺そうとした。

 意識がたゆたう中、孤陰は死を覚悟し、過去の走馬灯が頭の中をぎった。



 **** 回想 ****


「…かげ、水陰みかげ!起きて!」

 木陰で昼寝をしている青年に声を掛ける女性が一人。

「ん…っ。栞鳳しおん姉さん?」

「もう、こんなところで寝て!?ダメでしょ?」

「仕事は?」

「父様に任せてきたわ。今日も集会があるけど、どうせジジィたちのグチ話よ」

 栞鳳しおん水陰みかげの隣に座り、楽しそうに話しながら空を見上げた。

「ねぇ、水陰みかげ。この煉獄と逆世界は、本当に一つになることが出来るのかしら?私たちの先代の煉獄王の所業によって、この世界は周りから迫害されてきたわ。そんな私達が、本当に… 」

「姉さん。そんな弱気になっちゃダメだよ。姉さんは逆世界と和平の道を辿るために、今まで頑張ってきたじゃないか」

「……そうね。もう煉炎病れんえんびょうで目は殆ど見えない。けど、まだ出来ることがあるわよね」

 栞鳳しおん水陰みかげに優しく微笑んだ。


 この時既に、栞鳳しおんは煉炎病によって、ほとんど体を動かせない状態だった。それでも、和平のために、必死に煉獄王を演じていた。

 そして、姉は志半ばで命を落とした。死に際に、姉は苦しそうな表情で、私に言った。

水陰みかげ。私の愛しい弟。私は世界を変えられず、志半ばで朽ちる。だけど、アナタがこの世界にいる限り、アナタが私の思いを受け継いでくれる。だから、お願いね。水陰みかげ…」

 弱々しく告げた姉。私はその温かさをもう一度感じたくて、私は“水陰みかげ”を捨てて、孤高に生きる“孤陰こかげ”として生きることを決め、『蘇生の魔人』を捜した。

 姉のために、自分のために、



 *** 現在 ***


「す、まない… 栞鳳しおん…」

 孤陰が静かに目を閉じ、刃を受け入れる覚悟をした。

 しかし…


「妖!やめて!!」


 怪の叫び声が響いた。妖はその声に我に返り、孤陰に突き刺そうとした刃を首元寸前で止めた。妖の後ろには、泣きそうな表情の怪が立っていた。

「怪…」

「もういい。もういいよ、兄さん!」

 妖はその表情に心が痛み、氷の刃を投げ捨てた。そして、孤陰の胸倉を掴んで、上半身を起き上がらせた。

「何死のうとしてんだよ、お前」

「な…っ」

「勘違いすンな。俺はお前を助けたわけじゃない。孤陰、お前にはこの世界の法で罪を償う権利がある」

 呆然とする孤陰に、妖は構わず続けた。

「…俺は、お前のやろうとしたことを全力で否定することは出来ない。俺もきっと、怪を不合理な形で亡くしたら、お前と同じことをすると思う。けどな、お前と俺じゃあ、決定的に違うとこがある。それはな、俺は道を踏み外しても、必ず俺の中の怪が止めてくれるんだ」

「っ…」

「“それは間違ってる”って言ってくれる。俺の中の怪は、思い出として生きているから。孤陰、お前の姉は今でも、お前の中にいるか?」

 その問いに、孤陰は答えることが出来なかった。

 姉を生き返らせる。その事だけ考えていた時は、姉のあの笑顔を忘れていた。自分は、姉のために行動したんじゃない。自らのために行動したのだと、知った。

「フッ…。 結局、私は何も果たせなかったか…」

 脱力した孤陰に、ゆっくりと近づき、その手をとったのは怪だった。

「確かに、アナタのやり方は間違っていたわ。けどね、いつか必ず、アナタのお姉さんの正義感が証明されたら、私が蘇らせます。…次回は、無理やりではなく、礼節を持って来てください」

 怪の温かさに触れ、優しさを感じた孤影は、静かに涙した。


 そして、間もなくして魔人警察が到着し、孤陰を捕縛した。他の仲間たちは、隆樹や羅刹によって倒されたらしい。

 車に乗せられる際、孤陰は一度振り返って、やわらかく微笑んで、一言告げた。

「内海妖、内海怪。お前達に会えて、よかった」

 そう告げると、孤陰を乗せた車は去っていった。


 残された妖と怪は、少し2人で歩いてると微かな潮の香りが漂ってきた。海が近いようだ。

「終わったね」

「せやな」

「なんか、寂しい感じ」

「せやな」

 怪はそっと、妖に問いかけた。

「ねぇ、兄さん」

「ん?」

「兄さんは、この後どうしたい?」

 その問いに、妖は一瞬戸惑ったが、少し笑って答えた。



             ――――――――――僕は…――――――――――

*次回予告

 決して、ずっと一緒にはいられなくても。

 決して、結ばれることがなくても。


 この切ない想いが消えることは… ない。


 次回『エピローグ』

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