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東京HEAVEN  作者: いとむぎあむ
Xの章
25/39

妖の覚悟

 決して、他人には理解されないこの想い。


 息をひそめて想うしかない僕ら。


 それでも、守ると決めたから。


 絶対に、守ってみせる!


 **** 回想 ****



 僕ら2人は、幼い頃からずっと一緒やった。最初は今まで独り占めしとった親の愛情を奪われた思おて、歩いて間もへん怪に意地悪して雪ん中に置き去りした。夕方になっても帰ってこんさかい、仕方なく捜しに行かはったら、怪は置き去りにされた雪だるまの隣で倒れとった。怪は、置き去りにされとったことも知らず、笑って“おかえり”と言った。その瞬間、胸を押し潰すような罪悪感が浮上し、怪を背負って家へと走った。

 怪は翌日、風邪をひいた。おじんにはめっちゃ叱られたけんど、おとんは僕の頭を撫でてくれた。

「よく頑張ったな。怪を助けてくれて、ありがとう、妖。流石、お兄ちゃん」

「啓祐! お前は自分の子に甘いぞ!」

「えぇ? 我が子に甘いのって普通でしょ? 和香、怪の具合はどう?」

「えぇよ。さっき起きて、兄ちゃんに会いたい、て言うてはるんよ。せやけど、風邪移っちゃあかんしなぁ」

「大丈夫だよ。ほら、行っておいで、妖」

 僕はおとんに言われるまま、怪の部屋へ向かう。怪は赤い顔をしてベッドに座っていた。それを見たおとんは、怪をベッドに寝かせた。

「怪、起き上がっちゃダメだろ?」

「えへへ。ごめんね…パパ」

 無邪気な怪の笑顔に、妖は胸が苦しくなった。

 すると、その笑みが妖にも向けられた。

「にーちゃん、おはよう」

「…っ」

 何も知らずに無邪気に感謝の言葉を自分へ向ける怪の姿に、妖は自分のやったことの重さがやっと理解できた。と、同時にこの笑顔を、この大事な妹を自分が守らなければ、という一つの決意が固まった。

 妖はベッドにいる怪を見つめ、ぐっと袖で涙をぬぐって笑みを返した。

「はよう元気になってな!」

「…うん! そしたら、またあそぼ!」



 **** ****



 嗚呼。自分はこの笑顔を守る為に、生まれてきたも同然なんや。怪はあの時から僕の世界のすべてやった。それを守るためやったら、僕は、鬼にも修羅にもなれる。

 大事な… 大事な… 俺の(・・)妹。



「はぁ… ハァ…  」


 無様に地面に這い蹲ろうと、


「ハァ… はぁ…  」


 無様に相手を見上げようと、


「かは…っ はぁ…」


 俺は、何度でも立ち上がるんや!


「孤陰ェ。もう容赦せんでっ、ぶちのめしたる!!!」



 **** 回想2 ****



 兄さん。私、実は知ってるの。あの時、兄さんが雪の中、私を故意に置き去りにしたことを。でも、置き去りにされたと知ってもなお、私は兄さんを待ってたの。きっと、兄さんはここへ帰って来ると、信じて。

 寒くて、もうダメかと雪に抱かれながらそう思った。けど、光の差す方から、兄さんの声がした。

「怪!? 怪!!」

 兄さんの手は温かくて、ほっとした私は消え入りそうな弱々しい声で、おかえり と言った。その後は、兄さんが必死に私をおんぶして走っているのを感じながら、意識は沈んでいった。

 気付いた時、私は見慣れた天井を目にし、ここが自分の家のベッドの上だと分かった。傍らにで、母さんが私の看病をしてくれていた。

「おはようさん。体の塩梅あんばいはどうや?」

「だいじょーぶだよ。…にーちゃんは?」

「隣の部屋におるよ。おじいちゃんに怒られてんの」

「…あっちゃ、ダメかな?」

「ん~。ちょう待ち。啓祐に聞いてくるわ」

 母さんは部屋を出て、数分後兄さんを連れて戻ってきた。申し訳なさそうに俯く兄に、目一杯の笑顔で、おはよう、と言った。その顔に泣きそうになった兄さんは自信なく笑って、私にこう言った。

「はよう元気になってな!」


 今思えば、私は兄さんによって生かされたのだ。兄に命を奪われかけ、兄に命を救われた。

 だから私は、せめてこの命を兄さんのために使おうと決めた。



「兄さん、お願い。勝って!」


 

 *** ***



「…そうだな。そろそろ決着つけようか、孤陰」


 傷口を抑えながら、青年は平静に、しかし瞳は冷たく、孤陰に今までにない殺気を向けた。



        ――――――――――お遊びはしまいや。本気でいくでェ――――――――――

*次回予告

 私たちと、アナタはきっと似ているんだ。自分のために、互いのために、守る。けど、私たちとアナタでは、一つだけ、違うとこがあるの。それはね…。


 次回『絶対氷結領域オブ・ビディオン

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