妖の覚悟
決して、他人には理解されないこの想い。
息をひそめて想うしかない僕ら。
それでも、守ると決めたから。
絶対に、守ってみせる!
**** 回想 ****
僕ら2人は、幼い頃からずっと一緒やった。最初は今まで独り占めしとった親の愛情を奪われた思おて、歩いて間もへん怪に意地悪して雪ん中に置き去りした。夕方になっても帰ってこんさかい、仕方なく捜しに行かはったら、怪は置き去りにされた雪だるまの隣で倒れとった。怪は、置き去りにされとったことも知らず、笑って“おかえり”と言った。その瞬間、胸を押し潰すような罪悪感が浮上し、怪を背負って家へと走った。
怪は翌日、風邪をひいた。おじんにはめっちゃ叱られたけんど、おとんは僕の頭を撫でてくれた。
「よく頑張ったな。怪を助けてくれて、ありがとう、妖。流石、お兄ちゃん」
「啓祐! お前は自分の子に甘いぞ!」
「えぇ? 我が子に甘いのって普通でしょ? 和香、怪の具合はどう?」
「えぇよ。さっき起きて、兄ちゃんに会いたい、て言うてはるんよ。せやけど、風邪移っちゃあかんしなぁ」
「大丈夫だよ。ほら、行っておいで、妖」
僕はおとんに言われるまま、怪の部屋へ向かう。怪は赤い顔をしてベッドに座っていた。それを見たおとんは、怪をベッドに寝かせた。
「怪、起き上がっちゃダメだろ?」
「えへへ。ごめんね…パパ」
無邪気な怪の笑顔に、妖は胸が苦しくなった。
すると、その笑みが妖にも向けられた。
「にーちゃん、おはよう」
「…っ」
何も知らずに無邪気に感謝の言葉を自分へ向ける怪の姿に、妖は自分のやったことの重さがやっと理解できた。と、同時にこの笑顔を、この大事な妹を自分が守らなければ、という一つの決意が固まった。
妖はベッドにいる怪を見つめ、ぐっと袖で涙をぬぐって笑みを返した。
「はよう元気になってな!」
「…うん! そしたら、またあそぼ!」
**** ****
嗚呼。自分はこの笑顔を守る為に、生まれてきたも同然なんや。怪はあの時から僕の世界のすべてやった。それを守るためやったら、僕は、鬼にも修羅にもなれる。
大事な… 大事な… 俺の妹。
「はぁ… ハァ… 」
無様に地面に這い蹲ろうと、
「ハァ… はぁ… 」
無様に相手を見上げようと、
「かは…っ はぁ…」
俺は、何度でも立ち上がるんや!
「孤陰ェ。もう容赦せんでっ、ぶちのめしたる!!!」
**** 回想2 ****
兄さん。私、実は知ってるの。あの時、兄さんが雪の中、私を故意に置き去りにしたことを。でも、置き去りにされたと知ってもなお、私は兄さんを待ってたの。きっと、兄さんはここへ帰って来ると、信じて。
寒くて、もうダメかと雪に抱かれながらそう思った。けど、光の差す方から、兄さんの声がした。
「怪!? 怪!!」
兄さんの手は温かくて、ほっとした私は消え入りそうな弱々しい声で、おかえり と言った。その後は、兄さんが必死に私をおんぶして走っているのを感じながら、意識は沈んでいった。
気付いた時、私は見慣れた天井を目にし、ここが自分の家のベッドの上だと分かった。傍らにで、母さんが私の看病をしてくれていた。
「おはようさん。体の塩梅はどうや?」
「だいじょーぶだよ。…にーちゃんは?」
「隣の部屋におるよ。おじいちゃんに怒られてんの」
「…あっちゃ、ダメかな?」
「ん~。ちょう待ち。啓祐に聞いてくるわ」
母さんは部屋を出て、数分後兄さんを連れて戻ってきた。申し訳なさそうに俯く兄に、目一杯の笑顔で、おはよう、と言った。その顔に泣きそうになった兄さんは自信なく笑って、私にこう言った。
「はよう元気になってな!」
今思えば、私は兄さんによって生かされたのだ。兄に命を奪われかけ、兄に命を救われた。
だから私は、せめてこの命を兄さんのために使おうと決めた。
「兄さん、お願い。勝って!」
*** ***
「…そうだな。そろそろ決着つけようか、孤陰」
傷口を抑えながら、青年は平静に、しかし瞳は冷たく、孤陰に今までにない殺気を向けた。
――――――――――お遊びはしまいや。本気でいくでェ――――――――――
*次回予告
私たちと、アナタはきっと似ているんだ。自分のために、互いのために、守る。けど、私たちとアナタでは、一つだけ、違うとこがあるの。それはね…。
次回『絶対氷結領域』