逆東京という場所
いらっしゃい。また来てくれて嬉しいよ。実は、役者が集まったんだ。ほら…
僕は今、混乱中である。電車に乗っていたら、終点は「逆東京駅」。てか、どこだよ!?電車の入り口付近で悩む僕。すると、視界の端を誰かが通った。慌てて顔を上げると、そこには同年代くらいの女の子。セーラー服にポニーテールの黒髪。透き通るような翡翠の瞳が、僕を睨んだ。数分ダンマリが続いた。そして、最初に口を開いたのは、彼女だった。
「…あなた…ここがどこだか分かる?」
「あ…ううん」
「そう。…はぁ…、また不用意な客か…めんどくさい。着いて来て」
僕は彼女に呼ばれるまま、黙って着いて行った。着いたトコロは、古い木造の家。今時、木造とは珍しい。ドアを開けると、上のベルが鳴った。
「桑田!いる!?」
「あー。はいはい」
と、カウンターの後ろの階段を駆け下りてきたのは、茶髪に少し白髪があり、眼鏡をかけた20代くらいの男性。オレンジのトレーナーに茶色のズボンというちょっとダサい服装だった。
「どういうこと!客が来たことくらい知っていたでしょ!」
少女は、容赦なく男を怒鳴りつける。男は、さっきまでのヘラヘラ顔を歪めた。
「はい…すいません。忙しかったもので…」
「はぁ…ったく。異端者じゃない人間をひょいひょい引き入れるんじゃないわよ」
「しかたないでしょ。ワタシは、そこまで操作できないんですから」
「っ…。で?君、名前は?」
彼女は、ばっと振り返り、キツイ眼差しで僕に名前を聞いた。
「…高橋哲平」
「そう。アタシは、羅刹。歪羅刹。羅刹って呼び捨てでいい」
「え・・っと。ワタシは、桑田宗助です。桑田でいいですから」
一応名乗ったが、彼等に聞きたいことは山ほどある。此処はどこか?それで頭がいっぱいだ。
「えっと…突然なんですけど、此処は…どこ?」
二人同時に僕に注目した。
「逆東京。死んだ魂が生活する天国のようなトコ・・・っていうのが、分かりやすいよね?」
「そうよ!もうっ」
「し…死んだ…魂!?」
「そう。人間だけじゃないわ。動物の魂もここに来る。で、桑田はここにやって来る新しい魂と生きた客人を出迎える役目を持っている」
「え…?じゃあ、羅刹も?」
「全然違うわ。アタシは、魔女だもん」
「ま、ま、ま、魔女ぉ!!!???」
「…そんなに驚くこと?」
「だって・・どう見ても、普通の女の子にしか…」
その言葉に、羅刹は眉を顰めた。
「…ふぅん。アンタから見たら、アタシは普通の女の子なんだ」
怒っているわけではなさそうだ。ただ、明らかに否定している。“普通”という言葉に反応したトコロを見ると、その言葉は禁句らしい。
「…さてと。せっかくのお客です。ゆっくりと見物していくといい。羅刹さん、付き合ってあげたらどうです?」
「…別にいいけど」
少し剥れた顔で返事をした。そして、静かに店のドアを閉めた。
はぁ…。…え?どうしてため息なんかついてるかって?…それは、少し残酷な事があったからですよ。まぁ、今日は疲れたんで、またのお越しをお待ちしてます。