犠牲のもとで作られた結末(後編)
あの子は助かる。それならいい。宗助には最後まで迷惑かけちゃったな…。
「護柱の樋口乃輪!略奪者容疑の疑いで、拘束します!」
「!…………あぁ」
今日早朝、樋口乃輪、審判者の署に連行された。
そのことは、早くも桑田や護柱の全員の耳に入ってきた。
「なんてことだッ!まさか…っ乃輪が……――――!」
「…これはシャレになりませんよ、姉さん」
「フン。桑田、早まるなよ。まずは蘭星さんに任せな。必ず覆してくれる」
「ッ……」
怒りに震える桑田を冷静に説得するイサナ。しかし、もし本当に乃輪が略奪者で、自分の愛弟子を殺したのかも、と思うだけでイサナもいつ冷静さを失うから分からない。それが心配で仕方ないのは、弟の啓祐だ。
そして、もう一人混乱している人物がいた。
羅刹だ。
「…行かなきゃ。行こうよ、桑田」
「………――――そうだね」
桑田は護柱の全員を連れて、逆裁判所へ向かう。
*** …… ***
略奪者事件の裁判は早くも午後に執り行われることに。そこには、大魔人はもちろん魔王とその息子までもが出席していた。魔力を極限まで封じる特別な手錠をかけられ、乃輪が現れる。
「被告人、樋口乃輪。そなたの言い分を聞こう」
「……ッ」
乃輪は口を噤む。
――――どうしよう。今私が何を言っても信じてもらえない。結局は私が犯人になる。そしたら、絶対私は罪罰牢獄行き。……いや、でも、…………、
乃輪は他者に気付かれないように、蘭星の横に座る羅刹を盗み見た。
――――………いや。それも…、悪くない――――
乃輪の後ろで無罪を主張してくれることを信じる桑田達。
「……… 私が、略奪者です」
場が凍りついた。 そして、立ち上がり乃輪に駆け寄ろうとする桑田。
「乃輪!乃輪ァ!!!嘘だと言え!!」
「……、 目を背けるな。桑田宗助」
「!………の…、わ?」
「私が、皆を殺した」
混乱する桑田を殺意に満ちた瞳で、睨みつける。そして、瞳の奥で揺らぐ優しい眼差しに、桑田は気付かなかった。ただ、羅刹だけが気付いていた。
自分を庇った、のだと。
*** …… ***
判決は、自由刑。 特別な魔封じの檻に死ぬまで縛られ続ける。
裁判所から罪罰牢獄に連行される乃輪。 そんな彼女を引き止める声が響く。
「乃輪!!!」
「ら…せつ?」
短い足で走ってくる羅刹。そして、乃輪の前に立ちふさがる。
「?」
「羅刹様!危険です。お下がりください!!」
「最後に、抱き締めて、私の頭をいつも見たいに…ッ、撫でてよ!!」
「…… おいで」
乃輪はしゃがみ、手錠で広げられない両手を差し伸べた。すると、羅刹は目に涙を沢山溜めて飛びついてきた。その際、涙の雫がほろりと零れ落ちる。乃輪は右手で下から羅刹の頭を撫でた。
――――― 魂交換 ―――――
「!」
羅刹が乃輪の耳元で囁いた。その瞬間。乃輪の意識は異様な浮遊感に襲われ、気が付いたら自分の眼の前に、自分がいた。 目の前にいた自分は、立ち上がると用意された車に乗り、走り去っていった。
暫く呆然と立ち尽くしていた乃輪は、自分が羅刹になっていることに気付いた。
「ぁ……――――ッ あぁ…、 あぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
*予告
信じてた。 羅刹は羅刹だって。 でも、皆嘘だった。
桑田さんも、妖君も、羅刹も、皆…、大嫌いだ!
次回『少年はそれを、裏切りと言う』