核燃料施設の喪失
部隊長の下には、上官から煩いほどの催促がきていた。早く命令を遂行しろというのだ。部隊長の報告書には、
「初期任務は装備の誤作動により失敗」
と記されていた。
部隊長もそれなりに馬鹿ではない。斥候部隊の発信した信号記録から次の作戦を立てていた。
「信号が飛ぶのは一人ずつだ。そしてその間隔は5分程度だ。つまり、10の信号を飛ばすのに50分くらいかかっている。ここが重要だが、その50分で扉の位置を確認している。今度はその位置に直行すればいい。探すという手間が省ける。我が配下は40人余り健在だ。使い物にならないあいつらを除いてもだ。単純な掛け算で作戦は成功すると出た」
部隊長は自分の作戦に酔っていた。必ず成功すると信じていた。実はこの作戦にはいくつもの齟齬があったが、部隊長は気づいていない。例えば、扉が開かなかったときの対処を考えていない。
でも、いいのだ。人は過ちを冒して、それを修正していく動物なのだから。
上官に「今夜決行します」と報告した。
その頃、実験施設に四方が訪れていた。四方がここを訪れるのは5日に1度くらいだった。訪れるとここの仲間と様々のことを語らっていた。話しが弾めば、1泊していくことも珍しくなかった。
四方のいつもは村での生活だ。四方は半生体から生体になるべく努力をしている。とは言っても、それはほとんど1つの人格に任せ放しだった。日常は村人たちとの交流を大事にしていた。ついでに村の戸籍も作っていた。
日本の社会では考えられないことだが、村には戸籍がなかった。そもそも村人には戸籍など必要ないのだろう。誰もが誰をも知っている。通称とおよその年齢、そして能力と不便のないように知っていた。
村での娯楽の1つに能力の披露宴があった。新しい能力を得たものが、皆にその能力を披露するのだ。そういう意味でも四方は人気者だった。村人たちの持たない能力を持つ四方はいくつかの芸を披露していた。
村では戸籍を必要としていないから、それは四方の記憶に収められた。というよりは、戸籍は四方のためだけに必要だった。
四方はここの仲間12人を村に連れて行きたいと思っていた。早くここの処理が済めばいいのにと思っていた。だが、四方は経験上「焦りは禁物だ」と知っていた。
深夜、語らいがピークを過ぎた頃、ヌレが姿を現した。
「数十人の人間が潜行してきました」
「そうですか」
「今度は以前の作戦が使えません」
「当初の予定通り、明け渡しましょう。そうそう、扉は開けておいた方がいいですね。いたずらに壊されると、後で困るのは僕たちですから」
と言って四方は語らいに戻った。
特殊部隊は一人の欠落者も出さずに扉の前にたどり着いた。その扉は無防備にも開放されていた。中に入るともう一つの扉があった。ここで、特殊部隊もさすがに気がつく。
「この扉を開けると中が水で埋まってしまう」
そもそも、中が水で埋まっていることは予測していない。極常識的な判断だった。中に5人ほど入り、外の扉を閉じた。それから内側の扉を開き、奥へと進んでいった。中は予測通りに空気が充満していた。空気の解析を行い安全なことを確かめ、放射線検知器で測定を行い、パソコンにその情報を流して、地上へと送信した。他の隊員は襲撃に備えて火器を携帯していた。このとき、一人が気付いた。
「後続の隊員が来ない」
「しまった。外の扉の鍵を外すのを忘れていた」
慌てて戻って鍵を外したが、湖底の隊員たちの中には不安が充満していた。
「やはり、何かの罠だったのか」
鍵を外した隊員は、
「念には念を入れて調査していました」
特殊部隊は続々と核燃料施設に飛び込んでいった。こうして、核燃料施設は奪い返されてしまった。




