表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せな人魚姫  作者:
2/2

幸せな人魚姫 side:sui

世界の海の全てを統べる、海の王国。

それが、私の生まれた場所だった。


海の、とか言ってる時点で察しているかもしれないが、私は人魚だ。下半身は鱗で覆われている。

私の家族も、人魚だ。海の王である父と、祖母と、たくさんの姉がいる。母は、いない。一度祖母に聞いてみたことがあるが、母は海の女神となり、今もこの海を見守っているそうだ。

また、たくさんの姉がいると言ったが、本当にたくさんいる。数えられないくらいだ。私は、今の時点では末っ子である。この先は分からない。

私は、一番歳の近い姉と仲がよく、姉様と慕っている。姉様は、妹の私より可愛い。美しい金髪には、姉様が好きなピンクが何よりも似合うと思う。


姉様には、“陸”に行ってみたいという夢があるそうだ。その気持ちはわかる。私も姉様と一緒に祖母の話をよく聞いていたが、とても興味惹かれるものだった。一度くらいは見てみたいと思う。


姉様の18才の誕生日がやってきた。少し前に見つけた、ピンク色の花の髪飾りをプレゼントしようと思う。きっと似合うだろう。

姉様の髪を結いながら、たわいない話をする。その中で、今日の夜抜け出して“陸”を見てくると言っていた。どうか気をつけてと言い、姉様の準備のため別れた。

パーティーは、壮大だった。私も成人するときはこんなに華やかなパーティーを開いてもらえるのかなと思うと、今からでも楽しみである。


姉様の誕生日の夜、嵐があった。姉様は抜け出していたはずだ。無事か心配だった。部屋を訪ねると、姉様は大丈夫そうだった。しかし、どうも様子がおかしかった。

父や、姉さんたち、女官たちも少し変だと思っていたが、本人に聞いてもはぐらかされると言っていた。私は、いやな予感がしていた。

姉様に直接聞いてみた。姉様は、あの日のことを話してくれた。

姉様は、人間の男に一目惚れしてしまったようだ。

私は驚いた。そして、異種族間の恋愛、それは幸せになれないのではないかと考えた。私は本が好きで、いろいろな本を読んでいる。その中には恋愛ものもあるし、異種族間の恋愛というのもあった。しかし、それは物語だ。現実であったなら、様々な障害があるだろう。そもそも、海の生き物たちは人間のことを嫌っている。

どうにか説得しようと思ったが、私の言い方では傷つけてしまったようだ。怒った姉様に部屋から追い出されてしまった。

嫌われてしまったかと、少し落ち込んだ。

しかし、落ち込んでいる暇などなかった。姉様はもう行動していたらしい。海の生き物たちから恐れられている海の魔女の元へ向かったようだ。たしかに、人間の世界に行きたいという願いを叶えてくれるのは海の魔女くらいしかいないだろう。


私は急いで後を追った。そして、暗く怪しい光に照らされた洞窟にたどり着く。ここが、魔女の住処だ。

中に入り、海の魔女と対峙した。魔女は、思ったより、不気味ではなかった。それどころか、どこか懐かしい感じがした。

魔女の話によると、姉様は人間の足を手に入れる薬をもらったらしい。姉様のあの美しい声と引き換えに。また、もし男と結ばれたなら二度と海の世界に帰ってこれず、もし男が姉様以外と結ばれたなら姉様は泡になって消えてしまうらしい。それを聞いて、怖くなった。姉様が男と結ばれたなら、まだいい。しかし、もし男が姉様以外を選んだなら…?


気がついたら、私は部屋にいた。茫然自失となっていた私を、海の魔女が送ってくれたのかもしれない。

私を心配して部屋に来てくれた姉さんたちに、私は話した。彼女たちは、姉様を救うために海の魔女のところへいった。私はここで待っていなさいと言われた。しかし、じっとしているなんてできなかった。

もう一度、海の魔女の元へ向かう。

今度は、私にできることがあるか魔女に聞いてみた。魔女は言う、あなたにしか出来ないことがあると。あなたの思うがままにすればいいと。

その言葉を信じて、姉さんたちの後を追った。


追いつくと、姉さんたちと姉様はお話していた。姉さんたちは、その美しい長髪が短くなっていた。人魚にとって、髪はとても大切なものだ。

姉さんたちが差し出したナイフを、姉様は受け取らなかった。彼を殺して生きながらえたくないらしい。意志は強かった。姉さんたちもそれを察し、涙を流しながら帰っていった。姉様は、彼女たちの後ろ姿を静かに見守っていた。


私は再び魔女の元へ戻り、私の水色の髪と引き換えに姉様の声を返してもらった。もうすぐ夜明けだ。はやく、はやく向かわなければ。


姉様の歌声が聞こえる。ああ、声が戻ったんだ。なら、きっと大丈夫だと、のんきに思ってしまった。きっと男も気づく、姉様が助けてくれたのだと。これも、海の魔女に教えてもらったことだ。男が結婚すること、でも姉様を探していたこと、いろいろなことを教えてもらった。行かなければ、日が昇りきる前に。


魔女は、私にしか出来ないことがあると言った。それが何かは未だに分からないけれど、ただ思うままにやってみようと思った。

自分の中に感じる熱い何か、それを解き放つ。日が昇る。姉様の髪の毛が、泡になっていく。はやく、はやく。

そして、光が満ちた。私の体が光に貫かれる。姉様は、男に抱きしめられていた。戸惑っている様子の姉様に、語りかける。

ー幸せになって どうか、幸せになって

姉様から、ありがとうと、大好きが聞こえる。

応えるように、私も思う。

ー私も大好きだよ

涙を流す姉様に、笑顔で応えた。



私の母は、海の女神だ。海の女神は、今もなお私たち海の生き物たちを見守っている。みんなに恐れられる、海の魔女として。

海の女神と、海の王との間に生まれる娘は、全て次代の女神としての資格と、力を持つらしい。ただ、そのほとんどは力が覚醒しないようだ。あの時私が感じた熱さは、その力だった。

私は、力を使い姉様の消えてしまう時間を少し止めた。時間に触れるには、とても大きな力がいる。引き換えに、私は人魚ではなくなった。

私は、光の娘となった。


一度、海の女神の元へ向かう。海の魔女の洞窟の中を進み、朝日の光が満ちる空間にたどり着いた。その中心に、大きな貝殻の寝床があり、そこに小さな命が眠っていた。傍らに、微笑む女神が寄り添っていた。

女神は、あなたの妹だと言った。そっと、小さな手を触れる。その小さな命は、ぎゅっと、握りかえしてきた。愛しい気持ちが溢れる。自然に笑みがこぼれ、額と額をくっつけて祈る。どうか、幸せになって。


海の聖域から、光に誘われ空に還る。女神に微笑むと、微笑み返してくれた。そっと抱きしめられ、短くなった水色の髪を撫でられる。愛しい子と、言われた。嬉しかった。

女神のように、優しく見守る存在でいたい。

私は、大切なひとたちがいる海に、陸に、降り注いでいく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ