#6 凶悪な獣
しばらくシャックスさんも交え、お庭を散策する。シャックスさんが何かと僕にちょっかいを出すので、その度にネネさんが怒っている。あまり女の子が起こったりするのは体に良くない事だと思うんだけど。
シャックスさんはおしゃべり上手で、最近あった面白い出来事や、アグレアスさんの愚痴を面白おかしくお話してくれる。それを聞いてるのはとても楽しいのだけど、165センチの僕からして189センチあるらしいシャックスさんとお話すると首が痛くなってきていた。
まぁ目を合わせなければいいのだけれど、それでは失礼かと思い、頑張ってるわけだ。
するとなぜか再び、僕はシャックスさんに抱え上げられた。今度はシャックスさんの腕に腰掛けるような格好だ。
「あのっ……」
「この方が話しやすいだろう」
「すみません」
「構わないさ。君のような美しい子が腕の中にいるのは、俺にとって至福の喜びだしね」
「だから美しいとか、言わないでください!僕そんなんじゃないですし……」
「またまたぁ。そんなこと……チッ。厄介なのが来たな」
庭園の更に奥の方を見つめ、悪態をつくシャックスさん。その雰囲気は先程とは少し異なっている。ネネさんもどこか不安そうな表情を浮かべている。
僕だけ事態が飲み込めてない。護衛の騎士さんも、警戒している。
「シャックス様……」
「お前ら、今すぐ王宮に戻っ――――危ない、伏せろ!!」
そう叫ぶと同時に、ボクと傍にいたネネさんをかばうように、地面にしゃがみこんだシャックスさん。
それと時同じく、辺りに爆音が響き、何かの獣の遠吠えのような声も聞こえた。
シャックスさんに押さえ込まれながら、その体の隙間から見えた光景に僕は息を飲んだ。
城を囲む外壁だろうか――――それらが砕かれた残骸と共に現れたのは、異形の姿をした獣だった。見たこともないその獣は。空へと雄叫びを上げた。それは空気を震わせ、あたりの木々がざわめく。唸り声を上げながら、あたりのものを壊していく。
「城の警備は、どうなってるんだか。二人共怪我はないか?」
「はい」
「ありがとうございます」
「あの……あれは一体……」
「あれは魔獣さ」
「魔獣、ですか?」
魔獣という名の獣から、目を離すことなくいうシャックスさん。その表情は先程までとは打って変わって真剣だった。護衛として付いていた騎士さんに、シャックスさんが一言告げると、騎士さんは魔獣のいる方へと走っていってしまった。
「もともとこの世界にはいなかった存在だ。この世界が元は二つの世界だった、ということは知っているかい?」
「はい。少しですがお聞きしました」
「二つの世界が融合した後に、あれは確認された。元々この世界には魔物という生物はいた。だが魔物と魔獣ではものが違う。魔獣の強さは魔物の遥か上を行くんだ」
「恐ろしい生き物なのですね」
「だけど、こんな首都のど真ん中に現れるなんて、なかったはずだけど……」
訝しげにそうこぼすシャックスさん。そして今の状況は危険であることに変わりないことを思い出した。