#2 目覚めと出会い
苦しい。でもあの死ぬのを覚悟するほどの苦しさじゃない。ほんの少しの苦しさ。僕の上に……何かが乗ってる?
ゆっくりと目を開けると、すぐ目の前には黒い毛玉。いや、それはこちらをじっと見ながらゆらゆら動いてるから生き物だろう。
未だぼんやりとする頭で、僕はゆっくりと事態を飲み込もうとする。
「ん……此処は……」
「ニャー」
「黒い……猫?」
どうやらあの苦しさは、この猫が乗っかってたかららしい。それにしても、宝石みたいに綺麗な真っ赤な瞳。黒い毛並みはサラサラなのにふわふわで、思わずなでてしまった。気持ちよさそうにしているのを見て、自然と笑みがこぼれた。
辺りを見回すと、そこはどこか豪勢な寝室だった。僕が寝ていたこのベットは僕が余裕であと二人は寝ても全然大丈夫なほど広い。綺麗なレースのカーテンが揺れるその先には、大きな窓が有り、そのうちのひとつからはテラスに出られるようになっている。僕の自室もそれなりにだったけど、この部屋も負けてない。綺麗な装飾がされた家具が置かれているし、ここはどこなんだろうか。
ベッドから起き上がり、室内を歩く。素足でも柔らかな毛並みの絨毯が優しく包んでくれる。
とりあえず、見覚えがあるものは何一つなかった。家具とかはなんとなく似てはいるけど、細部の装飾とかは全然違う。
体の変化も特にはなさそう。服装も意識を失う前と同じ、いつもの服装。羽は今はじゃまだからしまってある。力も今はもう使えるようになっていた。なんであの時使えなかったのかは……わからない。
室内にあったソファに、腰を下ろした。これからどうすればいいのだろう。
何も言わず天界から姿を消して、きっと今頃は城中大騒ぎなんじゃないだろうか。
ふと考え込んでいた時だった。控えめにドアがノックされた。思わず身構えてしまった。そんな僕にはお構いなしに、ドアは開き誰かが入ってきた。
「失礼します。お目覚めになられたようですね」
「――――っ!?」
入ってきたその人は、ソファに座る僕に気がつき、頭を下げた。ショートカットの茶髪、綺麗なエメラルドグリーンの瞳。理知的な感じの人だ。でも……。
「流石に……あなたならすぐに、お分かりになられるとは思っておりました。ですが、ご安心ください。私は確かに、あなたの思ったとおり悪魔です」
そう、彼が放つ――――所持する気は悪魔の持つそれだった。
でもなんか違う。
少なくとも、僕が知ってる悪魔とは何かが違う。
「名はアグレアスと申します。お体の具合はいかがですか?体調が悪いようでしたら、すぐに薬師をおよびします」
「あ……いえ、体調は大丈夫です。あの、ここは一体、どこなのですか?」
「ちょうどそれを今、ご説明しに参りました。ただ今お茶の準備を致しますので、少々お待ちください」
そう言うと、アギュ……アグレアスさんは持ってきていたお茶をカップに注ぎ、美味しそうな焼き菓子とともに、僕の前に用意してくれた。
「お口に合うかわかりませんが、ここの者が作りました。毒など入ってはおりませんので、どうぞお召し上がりください」
「いえ、お構いなく……」
しかしやんわりとした笑みに促され、僕は遠慮がちに焼き菓子の一つを撮り口に含んだ。
正直、お茶もお菓子も美味しかった。ホッペが落ちちゃうくらいに、夢中になるくらいにおいしいお菓子を堪能しつつ、僕は本題を思い出した。
「あの……それでここは一体、どこなのですか?」
「ここはウェンヴァレン。ご存知ない世界だと思いますが、いかがですか?」
「ありません……。ですがどうして……」
「まずここは、もともとは二つの世界。天界と魔界、それらが融合して出来てしまった世界です」
「え?」
二つの世界が融合?どうして?
ノエル以外の登場人物は一部を除いて実在する悪魔等の名前を使ってます。




