#1 喚ぶ声
雲一つない、よく晴れた空に澄んだ歌声が吸い込まれていく。
ほどよく高い歌声は、聴いた者すべてを癒す力があるとの噂だ。もちろんそれは、彼の発する歌声に彼自身が持つ癒しの力の相乗効果があってこそだったりする。
自室のテラス。そこに置いてある椅子に腰掛け心地よく歌を歌っている少年、ノエルはこの天界で唯一“聖天使”の称号を持つ天使だ。
彼の持つ癒しの力・浄化の力は天界随一である。
肩に届くほど伸ばされた綺麗な金の髪、空が溶け込んだかのような澄んだスカイブルーの瞳は、幼さを残すなりにも容姿端麗さを醸し出している。
ふと先程まで聞こえていたノエルの歌声がピタリと止んだ。椅子から腰を上げあたりをキョロキョロと見回す。それにつられ、純白の羽が数枚石造りの床に舞い落ちる。
「誰かいるのですか?」
彼がそう訪ねたのは、声が聞こえたからである。
ここは天界の中心部であり、ノエルの父――――天帝の城である。ノエルは聖天使という称号を持つ、大変希少な存在だ。天界の要そのものといってもいい。そんな彼の自室にはごく限られた者しか、立ち入ることは許可されていない。
その許可されたものではない声が、歌っている最中聞こえた気がしたのだ。だがいくら待とうとも、ノエルの問いかけに返事はない。不思議そうに首をかしげたノエルが再び腰を下ろそうとした時だった。
突然ノエルは眩しい光に包まれた。目を開けていられないほどの、とんでもない光がノエルを包む。そしてあったはずの床の存在が感じられなくなった。立っていたはずなのに、まるで宙に浮かんでいるような感覚すらしている。
手で顔を覆い、突然の現象にノエルはただ身を任せるしかなかった。
『――――を……か』
混乱する思考の片隅で、先ほどの声がまた聞こえた気がした。
先程までノエルがいたテラスには、数枚の白い羽が床に落ちているだけだった。
誰も知らぬまま、聖天使は天界から姿を消した。
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苦しい……。息が……できない……。胸が焼けるみたいに熱くて……、死にそう。ここはどこ……僕はこのまま……。
胸を抑え、ここがどこかもわからない場所で僕はただもがき苦しむしかできない。少しでもこの苦しみを和らげようと、癒しの力を使っても、なぜか力が使えない。何度も繰り返しても、今朝まで使えていた力が使えない。
あの眩しい光は収まったみたいで、目を開けることはできるようになった。でも視界が歪んで、周りの様子を知ることは無理だった。
だからこそ僕は自分に近寄ってくる存在がいるなんてわからなかった。
「お前は……なぜここに……」
もがいていた僕を誰かがそっと抱え上げた。もうほとんど見えないほど歪んでいる視界ではその誰かはもう歪んでいて見えない。再び意識が遠のき始めた。
そこでふとやわらかな感触を唇に感じた。それからすぅっと今まであった苦しさが消えていく。
意識の片隅にほのかに甘い香りがした。
そこで再び、僕は意識を失った。
天使と悪魔の話です。
結構長くなりそうです。(こういう予感は当たります……)
しかも天使はノエル君だけ……
ノエル君これから頑張るんでよろしくお願いします( ´ ▽ ` )