舞先輩の怪我
いつものような放課後、【あげは】に舞先輩がやってきた。舞先輩は【あげは】には、あまり顔を出さない。
「ま、舞先輩。お、お久しぶりです。」
僕は挨拶したけど、緊張でやっぱりどもってしまった。憧れの人なんだ。舞先輩は。
「あれ? 舞先輩、どうしたんですか? 」
舞先輩は、左腕に包帯を巻いていたんだ。
「ああ、昨日ちょっとな…… 。」
舞先輩は少し苦々しい顔をした。
『からんっ』
今度はひかるが入ってきた。
ひかるはいつになく真剣な顔をしている。
「どうしたの? ひかるちゃんも元気ないの? 」
僕は聞いてみた。
「うん。あら!? 舞さん、珍しいね~。 」
少し笑顔を見せて、ひかるは席についた。やっぱり、ひかるには笑顔が似合うなぁ。
それから、僕達3人は、マスターが入れてくれたニルギリを飲んで、一息ついたんだ。一息ついた後で、ひかるが話し始めた。
「あのね、ここ見られてるの。 」
「えっ? この間の男の人? 」
僕は聞いたんだ。この間、カウンターに座っていたメガネの人かって意味でね。
「うん、そう、あの伊達メガネの人。」
僕は広くもない店の中を見渡した。僕らの他には、二人連れのおばあちゃんがいるだけだ。
「? あの人いないよ? 」
「うん、店の中にはいないわ。だけど、どこかでこのお店を見てるわ。」
「ちょっと待て! 君らは何の話をしている? 私にも分かるように説明してくれ。 」
舞先輩が、僕らの話の説明を求めたんだ。
それから、この間、この店に来たメガネ…… ひかるは伊達メガネだっていうけど…… の男性の話をした。僕もじっと見られているような視線を感じたって話をした。
話を聞いた舞先輩は、何か思案にふけるような面持ちになったんだ。
「で、今も見られているのか? そんな感じするか? 」
舞先輩は僕に訪ねた。
「う~ん。今は全然感じないんだけど…… 。」
「うん。外からお店を見てるわ。でもお店の中は見られないわ。ね? マスター? 」
ひかるの問いかけにマスターはにっこり笑ってうなづいた。
「じつはな、私の怪我なんだが、昨日、我が家の道場でなのだ。」
舞先輩の家は、なんかの武術の道場をやっているんだっけ。武術の練習、稽古だっけ? それで怪我するのは珍しくないんじゃないのかなぁ。
「自慢ではないのだが、道場で私に敵う者はいないのだ。父を含めてな。
それが、昨日、稽古をしているとふと視線を感じたのだ。その方を見てみると、一人の男がじっと見ていた。で、声をかけた。見学ですか? なら中でどうぞ、と。
最初は、黙って見学していた、その男は。だが、『お手合わせ願いたい』と言いだしたのだ。」
舞先輩は、一度話を区切ると、マスターにニルギリのおかわりとライムを絞ってくれるように頼んだ。
ライムを絞ったニルギリを二口飲むと、話を続けた。
「実は道場をやっていると、たまに時代錯誤な道場破りってやつがやってくる。私は今回もその類かと思って相手をすることにした。ところがだ……。
ところが、その男は強かった。いや強いと言うより、私の技が効かないのだよ。その男は一切、手は出さなかった。私は精神を集中し、男の腕を捕ったと思った時、目の前に壁があった。その壁に手を強くぶつけてしまって。このざまだ。
でな。その男なんだが……。メガネを掛けていた。黒ぶちの。」
僕はドキドキしていた。その男って、この店に来た男なんじゃないだろうか?
「間違いないわね。同じ男だわ。」
「うむ。私もそんな気がする。」
みんな同じ事を思ったのか。
「かなり力を持っているわね。舞さんを手玉に取るなんて。」
「いや、それは私が未熟なだけだろう。」
「ううん、違うの。必要がなかったから、今まで言わなかったんだけれど、舞さんの武術の才能は一つの超能力なの。」
ひかるはそう言って話し始めた。舞先輩もひかるの話に、疑問をぶつけたりしながら話をした。
ひかるの話を要約するとこういうことだ。
武術に限らず、一芸に秀でている人の中には、超能力と思われる人がいるのだそうだ。例えば野球では、投手が投げた球を止まって見えると言った人がいたらしく、たぶん超能力者だと思うと。
舞先輩の場合、やはり相手の動きが読めるというか分かってしまうらしい。それは超能力なのだそうだ。舞先輩の場合、能力がある所に、鍛錬を重ねて自分の物にしたってことらしい。たとえ殴られるって分かっても避けるだけの運動神経や反射神経がなければ殴られちゃう。そういう超能力を補う努力があって、今の舞先輩があるって言ってた。
「そうか、あの感覚は力の一つだったんだな。ようやく分かったよ。」
そう言った舞先輩はちょっと嬉しそうだった。
「でも、優太君や舞さんに目をつけてどうゆうつもりなのかしら? 」
ひかるは下唇を軽く噛んで、斜め上を向いていた。ひかるの考える時の癖なんだ。
次の日、あの男は学校にやってきた……。




