憧れの舞先輩
重い気持ちで僕が【あげは】に入っていくと、いつもの席にはもうひかるが座っていた。
「優太君、遅かったね~。」
「うん、日直だったから…。」
「ん?どうしたの? 元気ないな~。具合でも悪い? 」
「ううん、なんか緊張しちゃってさ。ねぇ、ほんとにやるの?」
「そうだよ。大丈夫だよ。任せて。」
と胸を張ってひかるが自信満々に答えた。
「よし!仕方ない頑張るよ!」
やっと僕は決心したんだ。
「ふふふ、じゃあ、少し訓練して、備えようね。」
「えっ! 今日じゃないの? 」
僕は今日捕まえに行くと思っていたのだ。
「ぷっ!それで緊張してたのね。きゃはは、でもちゃんと作戦を練って無理のないようにしなくちゃね。」
「そ、そうだよね。ふ~ぅ、そっか、今日じゃないのかぁ。」
僕は心の底から安心したんだ。
『からんっ』
誰かが【あげは】に入ってきた。僕はそちらに顔を向けて見ると…。
「あ、舞先輩だ! 」
そこには憧れの先輩がいた。舞…彼女は優太たちの1年先輩の3年生で日向舞、弓道部の部長だ。全国大会なんかにも入賞するほどの実力の持ち主なんだけど、ボーイッシュで可愛くて全校生徒の憧れの的なんだ。
「よっ! ひかる、なに? 話って? 」
舞先輩は僕の事など目に入らないようでひかるに話しかけた。
「まあ、座って、舞さん。あと、こちらが新しいメンバーの優太君だよ。」
と言ってひかるは僕を指差した。
舞先輩は、はじめて気付いたかのように、僕をまじまじと眺めるとこう言ったんだ。
「ふむ、よろしく。君は線が細いな。」
舞先輩に話しかけられて、僕のどきどきは最高レベルだ!
「あ、ああああの、もももも望月ゆゆゆゆゆ優太です! よよよよよよ、よろしくお願いしまちゅ! 」
緊張のあまり、吃音が激しくなってしまったうえに『ちゅ』ってなんだよ! 僕ってやつは…。僕は顔を真っ赤にして俯いた。
「はははは、面白いな、君は! 」
舞先輩は笑いころげた。
ともあれ簡単な自己紹介が終わり、3人は落ち着いて席についた。
この頃になると、ようやく落ち着いた僕は舞先輩に聞いた。
「あの、舞先輩はどんな力を? 」
「私か? 私は瞬間移動だが…。」
「す、すげえ!…じゃない、すごいですね! 」
「いや、すごくはないぞ。なにしろ5分の精神集中を必要とする上に移動できるのは僅かに30cmだからな。」
「え、でもすごいですよ! 」
「よく考えて見ろ。30cmを移動するのに君はどの位の時間を必要とする? 」
言われて考えると確かに、1秒もかからないや。
「だから、へなちょこな力なんだよ、私も。」
と舞先輩は照れくさそうに言った。
「で、でも、やっぱりすごいです。もし何処かに閉じ込められても抜け出せるじゃないですか。」
と僕は言った。
「ふむ、その時に壁の厚さが30cm以下ならな。30cm以上なら私は壁の中に取り残されてしまう……。 それに何処かに閉じ込められるような場面はあまりないだろう!? 」
といって舞先輩は笑う。
「舞さん、大丈夫だよ。舞さんの力も伸びてきてるわ。」
「だといいんだが…。ところで今日は何の話なんだ? 」
「あ、そうだ、実はね…。とその前に、マスター! ニルギリ3つ早く頂戴! 」
と紅茶を催促した。
紅茶が来て一口飲むと、ひかるは落ち着いて『万引き犯逮捕大作戦』を話した。
「そうか、久しぶりの活動だな。楽しみだ。でいつなのだ? 」
「うん。テストが終わって夏休みにしようと思うんだけど。舞さんは夏休みは忙しい? 」
「いや、部活は引退したからな、大学も推薦で決まりそうだし、とりたててやることはない。」
「そう。優太君は? 」
「僕も大丈夫です。」
「じゃあ、夏休みに決まりだね。」
こうして『万引き犯逮捕大作戦』は夏休みに決行と決まった。
テストの直前まで僕は【あげは】に毎日顔を出した。ひかるから毎日スプーンを曲げるように言われていたんだ。毎日、マスターがスプーンを出してくれる。
「優太。いいかい、数多く曲げればいいってもんじゃないんだよ。集中して、いかに少ない力で大きく曲げられるかなんだ。」
とマスターは言う。きっとマスターも力を持っているんだなって思うんだ。
さすがにテスト期間中は顔を出さずに自宅にすぐに帰ったけど、勉強の合間にスプーンを曲げた。
テストの結果は相変わらずだけど、ようやく終わって久しぶりに【あげは】に顔を出したんだ。
いよいよ大作戦がはじまる…・




