超能力、学園対決 前日
毎日、僕の通学途中に葉月健二は現れて、石をぶつけてくる。瞬のお陰で僕の体には一つも当たらないのだけれど、いい気分じゃないんだ。あと二日で蔵内は学校を去るから、もう少しの辛抱かもしれないと思っていたんだ。
学校に着くと、例の重力加重能力を持つ女生徒が僕を睨んでいる。きっと、僕には感じないだけで、僕に重力をかけているんだろうと思うんだ。瞬の力に守られているけれど、僕には不安があった。それは瞬が去り際に言った一言だった。
「一応ガードは五日くらいだけど、思った以上の負荷がかけ続けられたら、その効果は短くなるわよ。十分に気を付けてね。」
と言っていたのだ。
その予感は当たってしまった。それは体育の時間だった。隣のクラスと合同授業でバスケットをしていた時に、僕の足首に激痛が走ったんだ。足首を見ると、長い針の様な物が刺さっていたんだよ。凄く細い針だ。僕はぐっと力を入れてそれを抜いて見た。それは針ではなく、なんと人の髪の毛だった。体操服を見るとたくさんの毛の針が刺さっていた。僕は『ぞーっ』としたんだ。
僕は足を挫いたと先生に言って見学する側に回ったんだ。その時、冷たい視線を感じて、そちらを見ると一人の小柄な女生徒が僕を見つめてた。『ああ、この娘の仕業なんだな』って思ったんだ。
僕はすぐに『五月あかり』を通じて、ひかると話をした。
《多分、身体硬化能力ね。自分の髪の毛を硬くしたのね。それを葉月健二の物体移動の力で飛ばしたんじゃないかしら。葉月健二はいるの? 》
〈いや、いないよ。彼はクラスが違うと思う。〉
《そう。なら、もう一人能力者がいるか、その身体硬化の彼女に物体移動の能力もあるかどちらかだと思う。》
〈もう、瞬君の力は効かないんだ。どうすればいい? 〉
《とりあえず、凌いで。ごめんね、力になれなくて。どうしようもなくなったら、逃げて。》
〈分かった。ありがとう。頑張ってみるよ。〉
僕は頑張ってみると言ったんだけど不安で仕方なかった。僕は弱虫なんだから。僕は他に何も起きない事をただ願っていた。手の中に毛の針を十数本握っている。ふと思って、僕はその針を超能力で曲げてチェーンのようにつなげた。何故、そんな事をしたのか分からないけど、何かしていなくては落ち着かなかったからかもしれない。
体育館の時計を見るとまだ三十分以上も授業が続く。はやく時間が過ぎないかと思っていた時、ひかるがやってきたんだ。僕は嬉しかった。心配して来てくれたひかるが眩しかった。
僕は隣りに座ったひかるにだけ聞こえる小声で話しかけた。
「ひかるちゃん。ありがとう。でも授業を抜けだして大丈夫なの? 」
「ふふふ。優太君、私の力は? 」
そう言うことか。ひかるは存在を消せるから、いなくなっても分からないという事なんだろうと思う。
「これ。」
そう言って僕は髪の毛のチェーンを掲げてひかるに手渡した。
「これ優太君が曲げたの? 」
「うん。落ち着かなくて。」
「結構、細かい事も出来るのね、優太君の力って。凄いわ。」
ひかるがにこりと微笑んだ。やっぱりひかるの笑顔はとびきり可愛い!
きっとまた僕の顔は赤くなっていると思う。
「望月君。大丈夫? 顔が赤いわよ。熱があるんじゃない? 」
ふいに声をかけられた。明菜だった。ひかるは明菜の手を取って隣りに座らせたんだ。
「あら、星野さん? どうしたの? 」
ひかるに手を握られて、明菜ははじめてひかるを認識したんだ。
「しーっ! 」
「し~っ! 」
僕とひかるは同時に唇に人差し指を当てて、静かにという意味で言ったんだ。明菜はこくりと頷くと、小声で言った。
「また何か起きてるのね。私も相談があるの。聞いてくれる? 」
僕らは頷いた。ひかるは僕らに言った。
「ねえ。今日、これから授業サボっちゃおうか? 」
僕は即座に反対したんだ。
「駄目だよ。怒られるよう。明菜ちゃんは体が弱いから早退できるし、ひかるちゃんは問題なし。だけど僕は駄目だよ。」
ひかるは悪戯っぽく笑うと
「大丈夫。マスターに電話してもらっておくわ。」
と言って僕らの手を引いて歩きだした。
ひかるに触れていると僕らも存在が消せると言っても、どきどきする。ひかるは例の毛針の女生徒の前を通る時、彼女の膝に、僕のいたずらした毛のチェーンを落として行った。その女生徒は眼を見開いて驚いて辺りをきょろきょろしている。その髪の毛がピンとしたのを見た。きっと硬くなっているに違いない。
僕らは職員室に行き、明菜は早退届けを出した。
僕はすでにマスターから電話があったらしくて「気を付けて帰るんだぞ。おばあちゃんが元気になるといいな。」と担任教師に送りだされたんだ。
僕らは昼前と言うのに【あげは】に来ていた。僕らから二十分くらい遅れて舞先輩までやってきた。舞先輩にもあかりを通じて連絡したんだと思う。
「まずは南さん。話って何? 」
ひかるが単刀直入に尋ねたんだ。
「うん。実はね。私、最近変なの。手の先が熱くなるの。私はあの研究所にいた時の記憶はほとんどないんだけど、うっすらと私が何かを燃やしていたのは分かっているの。その時の感覚なの。」
ひかると舞先輩は顔を見合わせて頷いた。
「多分、南君は覚醒しなのだな。恐れる事ではないぞ。君の超能力についてはひかるが説明してくれるが、発火能力が覚醒したんだ。ようはエネルギーをコントロールできるようになれば問題ないと思うぞ。そうだな、例えば私は口笛が吹けるが、それは意識して”口笛を吹こう”と思って吹く。口笛と同じだよ。」
舞先輩が下手くそな例えを交えて説明した。その話しにひかるが加わって、明菜の現在の力何かを聞いている。僕はマスターに手招きされてカウンターに座った。
「優太は超能力で硬くなった毛を曲げたんだってな。なかなか器用なんだな。」
マスターは僕の隣に座るとニルギリを僕に出しながら言ったんだ。僕にはひかるやマスターが驚いている事が分からなかった。だって髪の毛よりスプーンの方が硬いでしょ、どう考えてもって思うんだ。
「優太。これを曲げてごらん。」
マスターはスプーンをカウンターの上に置いた。僕が手を伸ばそうとすると、手を押さえて首を横に振ったんだ。
「手を使わずに曲げてごらん。きっと、できるさ。」
「だから、マスター。そんなことできないってば。僕はへなちょこなんだからさ。」
僕がそう言うと、マスターはにこりとするとこう言うんだ。
「優太がそう思えば、それまでだ。でも優太は今、いろんな奴から狙われているんだろう? なら、自分の身を守る努力をするべきだと思うがな。男としては。」
僕には最期の『男としては』と言うのが心にぐさっときたんだ。確かに僕はひかるや瞬、あかりに助けてもらっている。男としては情けないと自分でも分かっているんだ。
「どうすればいい? 」
僕は強くなりたくてマスターに聞いた。マスターは僕の気持が分かったのか、一つ頷くと説明してくれた。それによると紙を手の平であおいで動かすのと同じ感覚らしい。テーブルの上の紙を動かすとしたら触って動かすけど、触れないで動かすとしたら手であおぐ。なるほど理屈は分かる。理屈は分かるけどできるかどうかは別問題だよなーって思う。
言われたとおりに、いつもスプーンを曲げる時のようにスプーンを手にとって超能力を込める直前でストップして、スプーンから少しだけ離れた。スプーンをイメージしたまま超能力を込めて見た。
『ことんっ』
小さな音がして目の前のスプーンが反転した。
よく見ると、曲がっている。できたんだ。
「やったな。」
「やるじゃないか。」
「当然よね。」
「すごい! 望月君! 」
気付いたらみんなが僕の周りで見ていたんだ。僕は照れ臭かった。
その日、僕は数メートル離れた所からでもスプーンを曲げられるようになったんだ。これで少しは彼らと対抗できるようになるのだろうか。僕にはまだ分からなかった。
次の日、僕達は彼らと闘うことになる………




