眠れる森の美女
放課後、いつものように【あげは】に向かっていると、後からひかるに呼び止められた。
「優太君。今日はちょっと付き合ってほしいところがあるの。一緒に来て。」
そうひかるは言うと僕の前を歩いて行く。ひかると僕はバスに乗った。30分ほどバスに乗っていただろうか。『次はN大大学病院前』という車内アナウンスが流れた時、次に降りるとひかるが告げた。バスを降りると一軒の花屋に寄り花束を作ってもらい、僕らは病院へ入って行ったんだ。
「誰かのお見舞い? 」
僕は尋ねてみた。
「うん。優太君に紹介したい人がいるの。」
そういうとひかるはにっこりと笑うのだった。
僕らは病院の中のずっと奥の階段へ進んでいく。辺りには人気がない。異様なまでに静かだった。階段を上り三階まで来た。やがて一つの部屋の前に着いた。部屋の前には『五月あかり様』とプレートが掲げられている。ひかるはすっと扉を開けた。
「ご無沙汰してごめんね、あかりちゃん。今日は友達連れてきたよ。」
ひかるは部屋の奥に向かって話しかけた。だけど部屋の奥からは何の返事もない。寝てしまっているのだろうか。ひかるは気にした風でもなく部屋の奥へ進む。
僕が目にしたのは体から何本かの管が出ている少女だった。医療物ドラマの中で見るような機械にその管は繋がれていて『ピッピッ』と独特の機械音がしている。一見して意識のないであろう事を僕は理解したんだ。その少女は透き通るような色白で端正な顔立ちをしている。僕は『眠れる森の美女』を連想した。
「彼女はね、あかりっていうの。私の幼馴染なの。原因不明の病気でもう三年間この状態なんだ。」
ひかるは決して暗い表情では無く、僕に言ったんだ。
僕は何て答えていいか分からなかった。ただ黙って頷くしかできなかった。
「彼女はね。私達の倶楽部の一員でもあるのよ。」
ひかるは持参した花束を花瓶に移し替えながら話をする。花瓶に花を生け終わるとひかるはあかりって言う少女の横に椅子を二つ出して、一つの椅子に座った。突っ立ったままの僕を手招きして椅子を進めてくれた。僕は椅子に座った。
「優太君。ひかるの手を握って。」
ひかるはそう言うと僕の手を取りあかりの手を握らせたんだ。
≪優太君。こんにちわ。会えて嬉しいわ。≫
ふいに声がした。いや声では無いのだけれど感じるんだ。僕はすぐに目の前で眠るあかりの声だろうと思った。ひかるはちょこっと微笑んで僕を見ている。
「そうなの。眠っているように見えるけどあかりは起きているのよ。心で会話ができるの。」
僕はやっぱり何と言ってよいか分からずに黙って頷いた。
「彼女の超能力は念会話というの。一度彼女に触れて彼女が覚えてくれると会話ができるの。」
「うん。分かった。」
僕はようやく言葉を発した。
≪ひかるから聞いたわ。今、優太君は狙われているって。それでひかるは私に優太君との会話をサポートしてくれって頼みに来たのよ。≫
「どういうこと? 僕達はいつも話しているよ? 」
≪そうね。でも離れていると話できないでしょう? その時に私が二人の間に入って会話ができるの。昔の電話交換手のような存在かしら。あ、それと私と話をする時は声に出さなくても大丈夫よ。私に向かって心で話しかけるといいわ。≫
あかりの言う事は大体理解できた。僕は今度は心で話しかけてみた。
[えっと。もしもしあかりさん。聞こえますか、どうぞ。]
≪ははは。トランシーバーじゃないのよ。もっと普通でいいわよ。面白いわね優太君って。≫
脇を見るとひかるもお腹を抱えて笑っている。どうやら僕らの会話が聞こえていたらしい。僕はきっと顔を真っ赤にしていたと思う、耳も熱くなってるのが分かったから。
「もう。ひかるちゃん、笑いすぎぃ~。」
僕はひかるを睨んで膨れて見せたんだ。
「だってさ、もしもしって、どうぞって。ああ、おかしかった。」
まだ笑い足りなそうにひかるは言った。
「取り敢えず、そう言う事なの。だからあかりちゃんを通して私や舞さんと話ができるわ。覚えておいてね。あ、それから瞬ちゃんとは会話できないからね。」
「そうなの? なぜ? なぜ瞬君とはできないの? 」
「それが分からないのよね~。多分、超能力の相性の問題じゃないかしら。」
「そうか。分かったよ。」
その後しばらく心の会話を三人で練習してみた。
こうして僕は『眠れる森の美女』こと五月あかりと会ったんだ。これで僕は倶楽部のメンバー全てと会った事になる。




