絆創膏
「物体移動能力と重力操作能力ね。」
ひかるは僕が出会った二人の『消えた生徒』について、そう言ったんだ。
「僕のはなんて超能力なの? 」
「優太君は物体加力能力だよ。物体移動能力も物体加力能力も念動力というカテゴリーに分類されるわ。舞さんは空間移動能力と超運動能力。私は自己消失能力と能力感知能力。瞬ちゃんは治癒能力。」
「ふうん、色々あるんだね~。」
「うん、ドイツの超能力を研究しているアウグスト・ケンベルという学者が、98の能力に名付けたのよ。彼によると殆どの能力者は二つ以上の力を持っているらしいわ。ひょっとしたら優太君も持ってるかもね。」
「はははっ。多分それはないと思うよ~。」
「あら、どうして? 」
ひかるは僕の目を覗き込むようにして言った。大分、女の子に慣れてきたけど、ひかるにこんな間近で見つめられると、どきどきする。
「だ、だ、だって僕の超能力なんて、スプーン曲げられるだけだし……。」
「優太は鍵も曲げたじゃないか。」
舞先輩が言う。
「お、同じだよ。スプーンも鍵も。」
まだ、どきどきしている僕は答えた。
「違うのよ。スプーンと鍵は。」
ひかるがにっこりと笑いながら言ったんだ。
「そうなの? 」
「うん、昔TVでスプーン曲げを披露していた少年は、決まったメーカーのスプーンだけしか曲げられなかったわ。多分、その材料? その何かに反応して超能力が出るのだと思うわ。優太君は色々なスプーンを曲げられるでしょ。最近では500円硬貨も曲げられる。それって凄い事なんだよ。」
ひかるに言われるとちょっと嬉しかった。
「でもさ、葉月健二にしろ、あの女生徒にしろ、急に超能力が使えるようになるものなの? 」
「そこなのよね~。」
ひかるは下唇を噛んで斜め上を見ながら言った。
「『能力増幅』さ。」
ふいにマスターが言った。
「あ、なるほどね~。さすがマスターね。」
ひかるの説明によると、多分、能力増幅能力を持つ何者かが、彼らの超能力を強めているのではないかと言うことだった。その増幅させる力の効力が切れれば、彼らの力も弱まると言っていた。
「ただし、その超能力が、増幅されている間に本当に覚醒する可能性はあるわね。」
「つまり、彼らの力が、本物になる事もあると言う事だな。武術でも同じような事があるな。師範の真似をしていて、いつの間にか自分のものにしている事が多い。」
「そ。そう言うことね。」
「僕はどうすればいい? なんか怖いよ……。」
僕が言うと、ひかるも舞先輩も考え込んでしまったんだ。
「なあ、ひかる。瞬はどうだ? 」
舞先輩が、急に言った。
「あ、そうね。頼んでみるわ。」
ひかるはすぐに電話をかけはじめた。
「あの、舞先輩。どういう事? 」
「ああ、瞬の能力は分かるな? 」
「うん、治癒の力でしょ。」
「そうだ。怪我をしている時は、怪我を治してくれる。怪我をしていない時に、瞬の力を与えてもらうと、ガードしてくれるんだよ。」
「? ? よ、よく分からないんだけど……。」
「うーん。私は説明が苦手なんだが……。 つまりだ、怪我をした時に絆創膏を貼るだろう? その絆創膏は傷を治してくれる。だが傷のない時に絆創膏を貼る。その後で、その場所をぶつけても怪我はしないだろう? つまり怪我しないように守ってくれるわけだ、絆創膏が。分かるか? 」
「舞さん、下手な例えね~。」
ひかるは電話を終え、笑って言った。言われた舞先輩は『だから説明は苦手だといっただろう』ってむくれてた。
「な、なんとなく分かったよ。つまり瞬ちゃんの力が、絆創膏なんだよね? 」
「そ。そういうこと。」
「あの、瞬ちゃんは力を使うと、成長が止まっちゃうんじゃないの? 大丈夫なのかな? 」
「大丈夫って、言ってるわ。傷を治すのは凄いエネルギーを使うんだって。でもガードするのはさほどじゃないみたいだよ。ひょっとしたら違う能力かもしれないわ。今度調べてみるね。」
「そう。なら良かった。」
それからほどなくして瞬がやって来て、僕に手をかざして言ったんだ。
「ほい、終わったよ。でも5日くらいね、ガードできるのは。」
「あ、ありがとう。」
「いいわ。ちょうど、マスターのニルギリ飲みたかったから。」
瞬はそう言って笑った。いい娘だな、瞬て娘はって思ったんだ。
次の日、登校中にやっぱり葉月健二が現れた。
「おはよう。君には仲間がいるんだって? 教えてくれないかな? その仲間の事。」
「だから、何の事だか分からないよ。」
「ふ~ん。とぼけるんだ!? 昨日より痛いと思うよ。」
葉月健二は冷たく笑った。
すると、また道の石がたくさん僕めがけて飛んできたんだ。僕はぎゅっと目をつぶって、顔を腕で覆った。体にばちばちと石が当たると思っていたけど、そんな気配がしない。
顔を覆っていた腕をどかすと、葉月健二の茫然とした顔があった。そして足元をみると、葉月によって僕に向けられたと思われる石が落ちていた。
この時、僕は絆創膏が守ってくれたんだなって思ったんだ。葉月の顔色が変わり、さらに石ころが飛んできた。今度はしっかりと目を開いてみたんだ。石ころは僕の直前で、僕に当たることなく地面に落ちた。
葉月は悔しそうな顔をして、呟いた。
「なるほど。それが君の能力か。僕の力はまだ強くなる。いつまで耐えられるか楽しみだよ。」
葉月はそう言って去っていった。瞬の力がガードしてくれたとは知らないで、僕の能力と勘違いしたままで……。




