山賊との遭遇-2
作者の好きな嗜好を混ぜてしまった。
あまり後悔はしていない。
「はっ!」
妙才殿が穿った穴を押し広げるがごとく、
操は絶を大きく振るい、もう一人の馬上の賊の首を斬り飛ばす。
ああ、まるで映画のワンシーンを見ているかのように。
あんなに鮮やかに首は飛ぶものなのか。
これは、現実だ。そう自分に言い聞かす。
ともかく、道は開いた今、やることは決まっている。
「皆、行けっ」
「おうよっ! 姫、しっかりつかまってろよーっ!」
俺の合図に猪々子が勢い良く馬を走らせる。
戦場の恐怖を乗り越える為に、毎日打ち合いに強制的に付き合わされる中で、
彼女は本初殿や斗詩に弱い所は見せられないから、と必死に強くあろうとしていた。
それでも、彼女はまだ八歳の少女に過ぎず。
『怖いんだ、怖いんだよ、アニキ……。あたいは姫や斗詩を守らなきゃならないのに、
どうしても、どんだけ鍛えても夢に出てきやがるんだ』
二人だけの鍛練時に、繰り返し繰り返し、そう弱々しい声で訴える猪々子を、
俺はそっと抱き締めて、震えが止まるまでそのまま待ってやるしか出来なくて。
『お前もこっちに来いって。人殺しがのうのうと生きてるんじゃねぇ、って。
手を汚したあたいは、アニキに抱き締めてもらう資格なんか無いって、
慰めてもらう資格なんかないって』
自虐的なこんな言葉を聞いた時、俺は怒りを覚えていた。
猪々子にではなく、彼女を苦しめる環境・時代。
脈絡もないことだと判っていたが、確かに俺は憤ったのだ。
そんなことはない、と彼女の耳元で意識的に低い音で呟き。
自らを責め立てて内面を自身で削り落としていくような、痛ましい猪々子の身体を、
あえて痛みを感じられるように、息が詰まるほどに強く強く抱き締める。
痛いだろう、と。
猪々子が自らの意思で俺から離れない限り、悪夢に、死神にお前を呉れてやるつもりはない。
俺の意志を痛みとして刻みつけてやる、と。お前は俺の意志無く、消えることを許さない。
判るまで、この痛みはこのままだ。そう告げた。
『あたいは、生きなきゃいけない。それがアニキの命令……』
虚ろに呟くものの、猪々子から零れた声色は、暗い喜び。
心痛を身痛へ。自身ではなく、仮の絶対者から与えられたモノへと。
他の人の前では、主君と親友を気遣い、気強い自分を演じて絶対に弱音を吐かない彼女を。
俺と二人だけの時は、負の感情を抑え続けることも同時に禁じた。
この人だと決めた相手ならば、負の部分を堂々と曝け出せる性質の紗耶と斗詩は、
俺をうまく活用し、怒り、嘆き、理不尽とも思える我儘も、
それぞれやり方は異なるものの、
素直にぶつけてくることにより、徐々に乗り越えることが出来ていた。
俺が受け入れきれることも、聡い彼女達はどこかで感じ取れていたのだろう。
本初殿? あの人は別枠。
直接は手を下していないみたいだし、
私の為に死ねるなんて名誉ですわとか言っていたから、俺が理解できる範疇を超えている。
もしかするとただの強がりかもしれんが、突っぱね続ける態度の相手に優しくするのは、
紗耶以外には正直あり得ないので仕方ない。
『アニキの前では辛いことを隠さない……キタナイあたいを隠さない……』
猪々子の俺への敬慕をあえて利用する。
弱音を吐くのだって、どこか遠慮がちな彼女に、強制を植え付けていく。
軽い自損状態の彼女には、それは麻薬のようなもの。
反復の刷り込みを繰り返し、彼女は死の悪夢に魘される事を心から拒否するに至っていく。
反面、俺への依存度は高まるのだろうが、
彼女が自我を崩壊させる可能性を潰せるなら、それでも構わないと思った。
結局は俺のエゴだから。
知り合った俺を兄のように慕ってくれる彼女達を、力の及ぶ限りは守りたいと、
そう思った俺の我儘だから。
『いいね、猪々子。私の許可なく、お前は勝手に死ぬことも、壊れることも許されない』
『うん、アニキ……。ううん、わかりました。あたいの本当の……』
「アニキも早くついてこいよーっ!」
「判っていますよ、猪々子」
今は完全に陰が潜んだ猪々子の快活な掛け声に、俺は手綱を振るい、馬を走らせる。
すぐ傍を紗耶と斗詩が。
すぐ前を操と妙才さんが、呆気に取られた賊たちを走破しながら、包囲を脱出していく。
このまま引き離せれば。
そう思った矢先、ギュンッ! と聞き慣れぬ音と同時に、
俺は強烈な胸の痛みと同時に、宙を舞っていた。
「がはっ!」
強く地面に叩きつけられる。が、予想に反し、思ったよりも背中への強い衝撃は無く、
胸の中で何かが折れたような感覚と共に襲い掛かる鈍く疼くような鈍痛。
そして、胸には一本の矢がその存在を堂々と顕示していて。
「無、事だっ、た、んだ、ね、から───ごふっ!」
か細く聞こえた声で即座に身を起こした俺が見たのは、
俺と地面の間で肉壁となった、義母上の痛ましい姿。頭からは幾筋の血が流れ、
小さな唇からは血を吐き、片腕片足があらぬ方向へ曲がり。
射撃で馬上から吹き飛んだ俺の後ろにいた義母上は、
そのまま、俺の下敷きに、なってしまって、いた……。
「義母上っ!」
「私のあげた扇、夏蘭を守ってくれたん、だね。良かっ、た」
「ええ、鉄扇が矢を止めてくれました! だから、義母上、しゃべらないで!」
心臓を穿つはずだった矢じりは、鉄扇を貫き通し、俺の胸に浅い傷をつけ止まっていた。
鉄扇、五歳に義父上に護身の修練用に用立ててもらった品。
実際に見立てたのが、この女性であることは薄々分かっていた。
「私、の為に泣いて、くれる、の?」
横たわる母上の頬にぽたりぽたりと落ちる滴。ああ、俺は、こんなにも、泣いていたのか。
俺は、母上を然りと、特別な存在と認識できていたんだ。
ただ、そんな感覚に浸る余裕など、本当は許されるはずもなくて。
「ひーちゃん、銀花ちゃん、危ないっっっ!」
叫び声と同時に、完全に無防備な姿を晒す俺の背後に飛び込む影。
刹那の間の後、『ぐしゃっ』と何かが潰れるような音を聞く。
「ぐわぁああああああああっ!」
それは俺の中で、戦場が現実と同一した瞬間。
俺を庇った紗耶の左目を、先程の同じ形の矢が射抜いた瞬間だった。
物語もそろそろ進めていきたい。
異端の力をやらを見せてもらおうか、荀公達!(誰だよ