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[未完]荀公達の憂鬱~真・恋姫†無双  作者: 夏蘭
公達くんの幼少期
18/20

山賊との遭遇

連続話の導入部分です。

「夏蘭。囲まれてるよぉ~」


「ええ、どうにもそのようですね」


緊迫感の無い、私的な時のいつの通りの声で、義母上が注意を促す。


左右を森に囲まれているこの街道で、情けない話、義母上が訴える内容である、

つまり、何者かの接近に俺は気づくのが遅れていたんだが、

操が『絶』───原作に準するわけだが、一言でいえば『大鎌』を、

妙才さんが『餓狼爪』───こちらは『長弓』を、

それとなく構えた時点で、流石に気づきました。

つーか、既にこの歳であの武器扱うのかよ、おっそろしいなほんとに。


「華琳さまに、成長に合わせて打ち直すように手配してもらってるの」


「なるほどね。それは贅沢なことだ」


同じく、馬を並べながら、俺の隣でやはり愛剣が振るえる状態にある紗耶が囁く。

彼女の愛剣はもちろん、『七星餓狼』───原作でも、春蘭が愛用した、いわゆる長刀である。

ちなみに俺はとても扱える重さじゃありませんでした。

構えるだけで身体がふらつきまくるという。この世界の女性補正、改めて恐るべしである。

それなのに、表向きは筋肉むきむきじゃなくて、華奢にすら見えるという。

なんで持てるんだろうね、って前世ではむしろ非力だった紗耶が、

自分でも心底不思議そうに感じているのだから、よっぽどだ。


考え出すと、色々と理不尽だとは思うんだが、言っても詮無きことだ。

今は、この事態をどう切り抜けるか。


「黒山賊、だろうな。操、数は読めるか?」


「ざっと三十ぐらいじゃないかしら。ただ、乗馬してるのは五人以下といったところでしょう。

ただ、私ももっと感覚を磨かないと。ここまで接近を許しているとはね」


妙才さんや、斗詩も、短く頷いて同意を示しているから、そう狂いは無いとみる。


「な、なんなんですの、いったい! 説め……ふがふが」


「あー、ちょっと姫は静かにしてて下さいね。アニキ、どうする?」


叫び出そうとした本初殿の口を素早く塞いだ、猪々子が対応を問いかけてくる。

君の主君はそちらだよ、とは思うが、これも信頼してくれている証なのかもしれない。


「私や義母上がかえって足手まといですね、これは。

それに、猪々子や操も、本初殿や文若を庇いながら戦うのはしんどいと思いますし。

同じ馬の上に乗っていますから、どうしても動きが制約されてしまう」


「アニキも護身という意味では何ら問題ないと思うけどなー」


「猪々子にそう言ってもらえると自信がつくが、私は命の奪い合いの経験が無いからね」


既に、操や紗耶に妙才さん、本初殿一行は、コネやツテをフル活用。

直接、乱の制圧などに出たわけではないが、

死体が打ち捨てられた戦場跡などの雰囲気を既に経験済。

間接的にではあるが、戦場の空気は味わっていて、

独特の異質さに飲み込まれ、固まってしまうことは無いと思われる。


紗耶や斗詩が体調を崩したり、夢で魘される為に、

なぜか幾晩も付き添いや添い寝を強要され、俺がいろんな意味で睡眠不足になったり、

操や妙才さんがお互いに乗り越える為に、遂に原作通りの関係になった、とか、

自分の中で吹っ切る中に、猪々子に毎日打ち合いに強制的に付き合わされたり、

まぁ、色々と逸話や思い出話もあるんだが、

ともかく、彼女たちは戦いに身を置くことを、既に肯定している。


一方、俺は護身の意味合いで鍛練はしているが、始めた大元の理由が理由だから、

命のやり取りとなると、正直、委縮してしまう予感がする。覚悟が足りないのだ、結局。

紗耶が傷つけられるような事態にならない限り、俺は恐らくヘタレそのものでしかない。


ただ、現実感が未だ薄い為に、緊張していないだけのことだ。


「だから、逃げる、と言いたいんですが、それでも一点突破は必要でしょう」

……よし。文若、こちらに移りなさい。操が全力を振るえないから」


「な、なんで、あんたの命令なんかっ!」


「行きなさい、桂花。私が全力で貴女を守れるようにね」


「……わかりました」


操が少し強引に差し出させた桂花の手を、俺も少し強引に引く。

暴れられたら大変だと思ってのことだったのだが、彼女の身体はとても軽く感じた。

桂花はとっさに馬体から、自分で飛んでいたのだろう。

会話の間に、俺の背中へと移動を終えていた義母上の代わりに、

俺の腕の隙間を埋めるがごとく、桂花は滑り込むように身を預けてきた。


「本当に、仕方なくよ、公達」


「判っています。今はこの場をまず切り抜けなければ」


左右の森から、筋肉を隆起させた人の皮を被った獣たちが、次々に姿を見せる。

そして、あまりにお決まりの前口上をご丁寧に謳いあげてくれた。


「へへっ、兄ちゃん姉ちゃんたち。

大人しく金目のもんと、その着ているもんも全部置いていきな。

馬だからって逃げられると思うなよ? こっちにも馬があるんだからな」


細い街道を塞ぐように、前後に二頭ずつ。その隙間を徒歩の連中がきっちり埋めている。

だが、重要なのはそこではない。


「これはなんというテンプレ。くそっ、ビデオカメラが無いのが惜しすぎる」


「わかるよ、ひーちゃん。ちょっと私もクルものがあるよ。様式美って大事だよね」


「夏蘭、私もわかるよ~。お約束って奴だよね?」


「ちょっと貴方達。この状況で、流石に緊張感は持って欲しいのだけど?」


俺、紗耶、義母上の三人組に呆れながら突っ込みを入れてくれる、操。

彼女は自然とこういう役割になっているんだが、いつもお役目ご苦労様である。


「あまりに、あちらの素晴らしい前口上に感動してしまった。反省はしていない」


「へへっ、ほめたって逃しゃしないぜぇ?」


いや、褒めてはいないんだがな。まぁ、いいや。油断してくれている方が楽だし。


「では。妙才殿、狼煙を上げましょうか」


「ああ、任せてもらおう」


これだけで通じる妙才さん、やっぱり名将軍。


妙才さんが最小限の動きをするだけで、

前方の乗馬中の賊の額に風穴が空き、吹き出した血が空に虹を描く。

相変わらず、それを映画を見ているかのように、現実感が薄い。

漂う血の臭いが、背中や腕の中に感じる荀親子の温もりが、

これが現実だと認識させてくれていた。


それが、俺の初めての実戦の合図だった。

初実戦です。書きたいことがちゃんと書き切れるといいんですが。

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