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神様モドキの異世界旅行  作者: ほえほえ
蹴り出された元オタク
8/40

8・この世界の知識なんかは無いモノでして




 イヌ耳くんもネコ耳ちゃんも戻ってくる事を待つ事なく、あたしはぽてぽて次の目的地に向かった。

 …………だって痛かったんだもの。主に周りの視線が。

 ちなみにメーレは『めしーめしー』煩かったので、近くにあったハンバーガーっぽいのを買ってやりました。


 で、あたしの次の目的地、だが。

 おかーさま、この世界の神様とか人種とか大陸とか暦とか人の世の一般常識とかは教えてくれたけど、ソレ等はホントに、5歳児でも知ってる様な常識、だけ。

 この世界の文字とか、どんな国があるとか、ココ最近の情勢とか、そーゆーのは全く解らないのだ。


 さてココで問題。知識を得たいなら?

 答え――――そりゃあ本だろう。


 とゆーワケで、あたしがグランギニョル商会の次に探したのは、本屋。

 ヒアリングは神様特典で補修か修正が入ってる所為か、何故か一度も不自由した事はないんだけど、読み書きはほっとんど解らない。

 他にも、この周辺の地図や、風俗、文化、宗教、歴史なんて知りたいし。


『むー。何でそんなメンドーな』

「いやいや。そんなバカにしちゃいけないよ?特に宗教」

『何でだ?』

「うん、地球……おれのいた世界であったんだけどね。とある神様を崇めてる人達がいたんだけど。ソイツ等が『自分達が崇めてる神様を崇めないヤツはみんな悪いヤツだー』つって、自分達以外の人、大量に虐殺したりって事が何回かあったんだよ」


 17・8世紀頃の異教徒・魔女狩りなんてモロその代表……裏事情はともかく、怖いねホント。


『…………うげ。何だソレ』

「まあ、この世界じゃ神様は実在するモノって認識されてるみたいだし?そんな極端な事はないだろーけど。念には念を、ってね」


 ソレに、この世界は種族が豊富だ。

 ドコぞの小説では、獣人は奴隷扱いだった。そして素のあたしは妖魔族そのものの髪と目で、他の人種とはウン百年も戦争するくらい犬猿の仲。

 宗教以前に人種差別の方が深刻かもしれない。


「あと、出来れば初心者向けの魔術の入門書なんかも欲しかったりするんだよね」

『ぅえ?マヌ魔術使えんじゃん』

「や、おれの使う魔法はこの世界の魔術とは別モンだから。誰も見た事ない魔法だーって騒がれるのイヤなんだよね…………っと。アレ、かな」


 きょろきょろと通りを見渡しながら探せば、道の角に本の絵の描かれた看板があった。

 ちょっとばかりオドオドしながら店内に踏み込む。

『…………うわ。すっげ匂い。何だ?』

 踏み込んだ途端、メーレが顔をしかめた。

 やっぱ獣。鼻が良い。

「多分、紙とインク……我慢してね、メーレ」

『…………後で串焼き』

「………………あー、はいはい」


 短く条件出してきたメーレに呆れながら、ぐるりと店内を見回す。

 そんな広くない店内に所狭しと、上から下まで本というのは圧巻だ。


「……さて」

 ふむ、とひとつ頷いて、取り敢えず見つけたお子様向けっぽい挿絵に単語いっぱいな本を何冊かぱらぱらと流し読み。

 こーゆー時、神様もどきになって良かったと思う。1回見ただけで丸暗記できるなんて。どんだけ優秀な瞬間記憶能力だ。英単語や漢字のテストに欲しかったよこのスキル。


 ソレ等を本棚に戻したら、今度は絵本。

 ところどころ読めない単語はあったけど、ソレはソレ。あーコレは多分あれだろーな、とかでほぼ問題なく読めた。ちくせう、やっぱ学生時代のテストの時に欲しかったなこのスキル。


「――――うし」

『うし、って。何だ、欲しかった本なのかソレ?』

「や。文字をね。覚えてたのさ」

『………………マヌって、時々ホントにあり得ねぇよな』

 んまっ、そんな事言う子には串焼き買ってあげないわよっ……自分でもそう思うけど。


 手にしていた絵本を本棚に戻し、さて今度こそ目当ての本を、と別の本棚に向かう。

 …………うん。でもドレから手を付けたらいんだろね。

 取り敢えず、近場の本棚から本を1冊。

 ……『隠し武器。身だしなみの教え』。どんな本だコレは。


 そっと本を棚に戻し、あたしは店主のおじいさんに声を掛ける事にした。

 あたしが入って来た時にはギョッとして固まって、何冊かぱらぱらしてる時にはうさんくさそーな目を向け、今さっきの本を手にした時にはキュピーンと目を輝かせてたおじいさんは、近付いてきたあたしにちょっと身構える。


 うんキニシナイ。気にしないったら気にしない。


「あの、すみません。ちょっと、本を探してるんですけど」

「……どんな本だね」

「はい、えと、馬鹿でも解る魔術の入門書とか、なんですけど」

「……………………は?」


 あ。ココへ来て3度目の既視感。

 ナニその似合わなーいって感じの声と顔は。

「……お前さん、ランカーじゃないのかね?」

「違います。……この後登録しに行こうかな、とは思ってますけど」

「…………」


 あれ、絶句。

 何故だあたしどっからどー見たって優男でしょ。剣なんか振り回せそうに見えないでしょ。

 いや実際剣どころか大剣でも槍2本でもモーニングスターもどきな鉄球でも振り回すけどさ。

 けど元日本人としてはやっぱり刀。あとウケ狙いでハリセンなんかを良く使いますが。


「あの、ありませんか、そういう本」

「っ、あ、ああ、少し待っとれ」

 声を掛けたあたしにおじいさんはアタフタと動き出して、何冊かの本を出して来てくれた。

「お前さん、字は読めるんか?」

「はい、一応」

 さっき丸暗記しました。とは言わず。

 とゆーか勉強開始数分で大体の文字が解るなんてどんだけ。


 おじいさんの持って来てくれた本の題に目を通す。

 ……うん。ホントに『バカでも解る魔術入門初級編』なんて本があるんだ。

 他にも、『食べれる種類が解るモンスター図鑑』『ホントは怖い薬草の教え』『コレで君も剣士になれる!剣術技巧書初級編』『知って得するサバイバルのススメ』などなど。


 …………『先手必勝。それは人生の合言葉』て何だ。何を先手必勝するんだ。

 ………………ををう。しかもさっきの『隠し武器。身だしなみの教え』まで。


 しかも今手にしてみた本の題名は。

「……『証拠隠滅。それが至上の礼儀です』……」

『……何がどうなったら証拠隠滅が礼儀になるんだよ……?』

 思わずメーレと揃って首を捻ってしまった。


 取り敢えず『バカでも解る魔術入門初級編』と『食べれる種類が解るモンスター図鑑』と『ホントは怖い薬草の教え』を買った。

 指南書とゆーか武器の訓練方法は、知識として頭の中に幾らでも入ってるし。

 サバイバルはおかーさま方と一緒に森の中でイヤってほどやった。

 他の本は……うん。要らないでしょう。


 ちなみにこの本だけど。思ったよりも高かったです。1冊が約銀貨1枚。ソレナリの厚さではあるけど、いちまんえんぜんごって。

 でも『地球の中世ヨーロッパレベル』で考えれば、この世界、紙って普及率低いんだろうなぁ。


 断った時、おじいさんは目に見えてがっくりした。

 ……オススメだったのかアレ。凄いマニアックなオススメだな。

 思わず引いてもあたしに責任はナイ、はず。




     ~・~・~・~・~




 買い込んだ本をポーチの中に突っ込んだあたしは、次に依頼斡旋所、通称ギルド、なるモノを探した。


 ――――…………そう。この世界にはギルドがある。


 おかーさまのお話の中にちょろっとあったけど、ファンタジーノベルとかゲームとかに登場する、アレと多分ほぼ同じって思って大丈夫なハズ。うん。

 色んな国にあって、色んな依頼が舞い込んできて、色んな人が携わる。

 情勢を知りたいなら、多分ギルドが1番良いと踏んだのだ。


 そしてあたしが辿り着いたのは、さっき行ってきたグランギニョル商会よりでっかい建物。

 盾の前に杖と剣が交差した絵が描かれてる、看板。


『ココがそのぎるどってトコか、マヌ?』

「…………たぶん?」


 ……うん。傍で見てても、剣とか斧とか持った、そーゆー系の人の出入りが多い。

 ソレに看板にもちゃんと『依頼斡旋所・シュリスタリア本部』て書かれてる。

 でもなんか……イメージとだいぶ違う様な。


 ギルドってもっとこー、荒くれなおっさんなんかが屯する薄暗い酒場ってイメージがあったんだけど。

 でも、目の前の建物はなんてゆーか、キレイ。で、デカイ。

 酒場ってゆーより、なんか、そうそう、ちっちゃなビルって感じ。

 何となく。何となくだけど、威圧感、みたいなのが。


『入んねぇの?』

「…………うーん」


 入るべきか。入らざるべきか。


 ギルドのお仕事って言ったら、ファンタジーノベルとかゲームとか憶えてる限り色々だ。

 いなくなってしまったペットの捜索とか。農作物の収穫のお手伝いとか。薬草採取とか。武器やら装飾具やらの素材集めとか。手が足りない時の荷物運びとか。商隊の護衛とか。盗賊の討伐とか。魔物の討伐とか。


 …………盗賊や魔物の討伐、とか。


 うわぁぁあああん!!あたし戦えってったって戦えないよ!?

 そりゃ貰った知識の中には戦い方に関するモノもあったし技術なんて暗殺系の物騒なモノまであったしおかーさまから地獄の特訓受けたりもしたけども!!

 知識だけあったって身体がついてかなきゃ意味ないんだって!!

 魔物はともかく盗賊なんて無理むりムリ!!


 ………………いやでもお仕事内容は自分で選べるんだし。

 そーゆーのを避けてしまえば、ダイジョウブ、かな?かな?

 最悪、メーレに全部押し付けちゃえば……


『……マヌ、今なんか変なコト考えただろ』

「いえいえそんなメッソウモゴザイマセン」

 だからそんなジト目で見ないでーぇ。


 ――――…………ソレに、コレは本屋の店主さんが、本をオススメするのと一緒に教えてくれた事だけど。

 国の諜報機関を省いて、やっぱりギルド以上に情報が集まる場など無い、とか。その情報を見れるのは、ギルドの職員か証明証を持った者だけ、とか。

 それに証明証を提示すれば、引き取ってくれる素材の値段に色を付けてくれたり、武器や防具の値を割り引いてくれたりする店も多い、とか。

 証明証を提示すれば国境もすんなり越えられる、とか。


 ………………まあ、色んな特典付いてる代わりに、デメリットもあるんだけどね。


 登録者は、依頼のランクや期限によって異なるけど、ひと月でこなさなければならない仕事のノルマがある、とか。

 今は冷戦中だけど、ひとたび妖魔族と戦争勃発なんかしちゃったりしたら、国を守る為に戦争に強制参加しなきゃならない、とか。


「…………うしやっぱ作ろう証明証」

『やっと決まったのかよ』


 5分も10分も建物の前で悩んだ結果。

 あたしは中に入る決意をした。

 ……決して割引とかの特典に惹かれたワケでは……ハイ惹かれましたすみません。


 意を決し、目の前の扉に手を掛けた。

 きぃ、とちょっとだけ音が鳴って、開く。

 建物の中には、けっこーな人がいた。

 誰も彼もが武器を持ってて、カウンターで受け付けさんと話してたり掲示板みたいなトコで唸ってたり。

 ―――ああ、ココってホントにふぁんたじーなんだなぁ。思わずしみじみ思ってしまった。


 そんな人達が、あたしに気付いて固まって。

 …………ココでもそーゆー扱いですかあたし。


 一般市民ならまだ解るんだ、うん。

 でもギルドって傭兵やら冒険者の集まりでしょーよ。もっと肝が据わってても良くない?あたし氣当たりなんてしてないよ?見た目だけで露骨に怖がるって何。


 なんだかなぁ、な気持ちになりながら。

 あたしはキレイな……多分、エルフなおねーさまがいるカウンターに即直行。


「すみません」

「……ひっ」


 ――――何だその悲鳴は。

 しかも何で、あたしを凝視してそんなガクガクブルブルなんだ。

 ……変だな、目から塩辛い水が……や、気の所為気の所為。

 ゼンゼン、コレッぽっちも、悲しくも寂しくも泣きたくもなってないもんねっ。

 よしっ、もう1回だ!!


「…………すみません」

「……あ、あ……あ……」


 もっかい声を掛けても、おねーさまはガクブル。

 ……………………うん。

 決意は早くも崩れ去った。

 泣いてもイイかな。


「お、客様っ、私が、代わりに対応致しますっっ!!」

 うをっとう。おねーさま押し退けて真打ち登場。

 うわっほい、男の子なのにケモ耳なのですねケモ耳っ。あ、尻尾茶色と黒のシマシマだー。虎かしらっ。

 あ。おねーさまへなへなって。座り込んだへなへなって。

 …………腰抜かすホド怖かったんかい。

 ををう、ケモ耳くんの尻尾が……ぶふわ、って。膨らんでますがな。

 …………見た目…………やっぱ見た目がダメなのか。ネックレス手抜きするんじゃなかったのか。

 コレは後で、どーにかしよう。つか作り直そう……作り直せる、かな?


 兎に角今はサクッと用事を済ましてココから出るんだ!!


「……ギルドの、登録手続きを、お願いしたいんですが」

「……………………は?」


 ふつーにサラッと言ってみた。

 ら、なんか変な顔された。

 あれ、何だか既視感。しかもつい最近……ああ、商会の館長さんだ。

 一体ナニをしたあたし!?今度はどんなおバカを出したんだ!?


「…………あの、申し訳ありませんがお客様」

「……はい?」

「既に登録された方が2度登録する事は出来ないんですが…………」

『え。マヌってもー登録してたのか?』


 いやいやいやいや。そんなハズないない。

 あたし初めて。1回も登録した事ないない。初心者初心者。


「あ、紛失・破損によるランカー証の再発行手続きですね。ソレでしたら……」

「いえ、再発行手続きじゃなく。登録手続きです」

「……いえ、ですが……」

 いやだから。

「おれは初心者です」

「……………………は?」

「おれは、初心者、です」


 びしぃ!!と。

 空間に亀裂が入った様な、音がした。

 …………や。だから何で。


「ランカーじゃない!?初心者!?アンタが!?マジかよ!?」


 おっひょおぉい!!

 トラ耳くんイキナリ身を乗り出して来ないで!!大声出さないで!!

 しかも言葉使い崩れてるよソッチが素なんだね!!


「しんっっじらんねぇ!!ホンットに初心者なのかよ!?」


 あ。なんだかそんなに力いっぱい否定されると。

 何だかムカッと。


「――――――おれが初心者である事に、何か問題でも?」

「「「……………………イエ、メッソウモゴザイマセン……………………」」」

『…………ま、マヌ怖ぇ…………』


 ををう、何故トラ耳くんだけでなく周囲の皆様まで大合唱。

 あとメーレ。あたしのドコが一体怖いっていうのかにゃー?


「……で、では、コチラの登録用紙にサインと、あと手の模様を取らせて頂きます……」

「あ、はい」


 ぎこちなーく出された紙と羽根ペン。そして青いインク。

 紙に書くのは名前だけでいーそーだ。

 他にも出身地とか色々欄はあるけど、ギルドという仕事の性質上、あと登録者の中には色んな理由で書きたくない人種もいるからって。

 良かった。出身なんか根掘り葉掘り聞かれたらどうしようって内心心配してたんだ。


 ちなみにさっき言ってた、1度登録された人は2度登録出来ない理由も聞いた。

 本人認証が必要な時の為や、紛失や強奪されたランカー証を悪用されない為なんだとか。

 登録申請用紙と青いインク、そして羽根ペンに秘密があるらしい。


 何でも、魔力を帯びた特別な鉱物を粉末にして、ギルドで開発した特殊な魔術液を混合してインクを作成。

 ソレで登録書に両手の文様、いわゆる指紋、を取る。そうする事で個人の魔力の波長を保存するとか。

 また同じインクを使って、特殊な材料と製法で造られた魂の伝導率がもの凄く高いペンで、登録書の記入欄を埋める事で、魂の情報すら用紙に刻むと。

 ギルドのこのシステムは今まで一度も間違いがあった事は無いらしい。

 スゴイね魔術。下手な科学より正確だ。


「……えー、はい、大丈夫です。ありがとうございます。では、登録証の作成、発行には3日掛かりますので、3日後にまた起こし下さい……」

「はい、解りました」


 むう。3日後か。

 まあソレだけ手の込んだ(?)登録証なら、作成にソレくらいの時間が掛かるのは解る、かな。

 うんならココでの用事はもう終わった。サクッと出ようサクッと。

 だって何時までもこんなぐさぐさぐさぐさっっ、針のムシロみたいな気持ちを味わっていたくない!!

 そう思ったあたしは、そそくさとギルドを出る事にしたのだった。


 …………コレは逃げてるんじゃない。そう、策略的撤退だ、なんて考えながら。




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