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神様モドキの異世界旅行  作者: ほえほえ
蹴り出された元オタク
7/40

7・テンプレ的に発生した王道は逃走というナナメ上をいって




 びっくらこいた。

 宿屋1泊約1万として。1日朝昼晩の食事代に約3千円。

 この世界のひと月は25日らしいから、しめて40万くらいになればいっかな、なんて思ってたのに。

 あたしホントにそー思ってたのに。


 5千万ってナニ。


 しかもこの額、館長さんが渋って渋って、最後まで渋ったけどあたしに押し負けて最終的にはじき出された額だ。ホントはコレの4倍だった。


 そりゃあ、地球でも貴石は高かった。

 台座にもよるけど、1カラットのダイアの指輪なんて最低でも30万はかかる。

 しかも館長さんの驚きを見る限り、この世界での宝石加工技術はそんなに高くない。


 ソレでも全部で2億ってナニ。


 銀行、みたいなのがあれば良いんだけど。

 金貸し・換金所はあっても銀行はまだこの世界にない。

 だから売り買いは基本的に一括現金。ローンもあるけど、館長さんは一括で出してきた。

 あたし庶民すっごい庶民。そんな大金恐ろしくて持ってられません。


 ちなみにこの世界のお金の単価はレジェという。そして紙幣は無い。

 銅レジェ半硬貨っていう、5円玉みたいなヤツ1枚は日本で言うトコの10円くらいの金銭的価値。うん多分。

 で、この銅半貨10枚で、10円玉みたいな赤銅貨1枚に。

 赤銅貨10枚で、青銅貨1枚。

 青銅貨10枚で、銀貨1枚。

 銀貨10枚で、金貨1枚。

 そして、なんと金レジェ硬貨10枚で白金レジェ角硬貨1枚。

 な感じです。


 ……白金レジェ角硬貨1枚ひゃくまんえんです。そんなの50枚も貰ってしまったんです。


 しかもこの白金レジェ角硬貨、見た目はほぼインゴットなんだけど。

 でっかい商談とか王宮とかでしか滅多に見る事が無く。

 そのウチ2枚ホド両替して頂きましたが。


 …………あたし庶民すっごいしょみ以下略。


 救いなのは、四次元ポケットもどきのポーチがあたし専用な事だ。

 あたしが手ぇ突っ込めば亜空間に繋がるけど、他の人から見たら空っぽのポーチ。

 …………なくしたら一貫の終わり。薬とか素材とかも入ってるからソレナリに大事にしてきたけど、今後は肌身離さず着けとこう、うん。

 いや、ソレよりも肌身離さず着けておける腕輪をまた作った方が良いんじゃないかしら?


 そんな事を考えつつ、次なる目的地へとひた歩……

『なーマヌー。お金っての手に入ったんだろー。なんか食いモン交換、じゃねぇ買ってくれよー』

「ってまだお昼にもなってないでしょ」

『せっかく人の町に来たのにー。なーなーマヌー。買ってー』

 …………まったくこの子ってば。

 あんだけ妹弟に言われて、早速コレかい。


 右肩にべったり貼り付いて耳元でにゃーにゃー鳴くメーレの頭をぺしんと叩く。

 そして脚の向きを近くにあった屋台らしきトコへ。

 どーやら串焼き屋さんっぽい。焼き鳥よりはでかいけど、バーベキューよりはちっさいか。


「一本売ってくれ」

「っ!?はっ、はぃい!!」


 固まってたおっちゃんに一声かけたら慌てて動き出して……あ、落とした。

 あらら、また一本。ぶるぶる震えながら広げた紙の上に、あっまた。


「……そのままで良い」

「へっ、へいぃ!!」

 4本目の串焼きを落とす前に掻っ攫って、代わりにちゃりりんと青銅貨1枚と赤銅貨2枚をその手の中に落とす。


「……へ?……あのっ、お客さん!?」

「何」

「ひぃっ……い、いや、あの、お代が、い、一本、300レジェで」

「……アンタの足元の分込みだよ」

「へぇっ!?いや、あの……ちょっと!?」


 スルーだスルー。

 おっちゃんの声なんか何の可愛げもない。


「ほら、メーレ。今はコレでガマンして」

『…………』

「メーレ?」


 あれ?

 さっきまであんなに喚いてたのに。なにゆえイキナリ不機嫌?


『………………マヌ、さあ』

「うん?」

『なんであんなに怖がられてんの。何もしてねぇのに、なんで……っ』

「そりゃあ、見た目が怖いからでしょ」

『ドコがっ!?キレイじゃんっ、マヌ!!』

「キレイだからこそ、ですよ」

『…………?』

「キレイ過ぎるのを見るとね。逆に怖くなってくるんですよ」

『なんだソレ?』

「はは、じゃあ逆に聞くけどメーレ、おれが羽根出した時どんな感じがしました?」

『そりゃ、すっげキレイなのに身体の芯から震えが奔るみたいな…………あ』

「何となく解りました?」

『……おう……でも今のマヌ、こんなキレイなのに』

「ソレもまた、人と魔獣の価値観の違いですよ……食べないんですか?」

『食う食う食っ……えねぇ』


 ああ、そりゃ串に刺さりっぱなしですもんねー。サスガにニクキュウでは持てないよねー。

 ちょっとぎょーぎ悪いけど、まいっか。


 持ってた串を右手に持ち替えて、歯で左手の指無し手袋を脱がす。

 脱いだ手袋はポケットに突っ込んで。

 で。串に刺さった一番上。四角く切られた肉を串から抜いてころんと掌に転がした。


「ほら」

『ん。………………っっっんっめ!!ナニこれうっめ!!』

「牛の肉と玉葱の串焼き、じゃないですかね」

『ちょっとしょっぱいしピリってしてるっ!!マヌマヌ、その白っぽいのも!!あと肉もーいっこ!!』

「はいはい……あれ。猫って玉葱大丈夫だったかな」

『俺雑食!!魔獣!!だから大丈夫!!』

「あ、そいやそだった」


 言われるままに玉葱抜いて目の前持ってったら『コレもんっめー!!』って言いながらガツガツ食べる。

 そして玉葱がなくなったら今度はお肉2段目。

 コレまたぺろりと平らげ。


 そんなぎょーぎ悪い事を歩きながらやってたからだろう。

 どんっ、と誰かにぶつかった。

 しかも玉葱2段目を抜いてる最中で、串も玉葱も手から落ちちゃったりして。


「あ。」

『ぎゃーーー!!俺のくしやきーーー!!』


 誰が俺のだ買ってあげたのあたしでしょ。

 しかもいたたたっっ、肩に爪立てるな痛いってっっ。


「あっごめ―――っっ!!」


 ぶつかった人が、慌ててあたしを見て、固まった。

 背はあたしより少し下。

 ぴん、と立ったイヌ柄の耳、灰色っぽい髪。……なんか見た目某ワードで戦うコスプレイヤーの主人公のチャラ男ぽい、けっこーなイケメン。


 きましたよ奥さん!!イケメン!!しかも犬!!わんこ!!


 その彼の顔が、どんどん強張っていく。

 彼の服の裾をつんと引っ張って、怯えた女の子が泣きそうになりながらあたしを見て。


 きゃっほいコッチはにゃんこちゃんですか!!かわいーでございますお持ち帰りしちゃっていーですか!!


 ………………はっっΣ。

 いかんいかん。イキナリキレイどころ並べられてトぶトコだった。


 危うく猫被り取っ払っちゃうトコだったわ!!

 しかも猫取っ払っちゃったらあたしに残るのヘンタイだけじゃない!?

 人付き合いって得意じゃないから事無かれ主義でいきたいけどそーゆー意味での疎遠はされたくないの!!


「―――いえ、此方も注意を怠っていました。すいません」

「……い……い、え……そん、な……」

『……おーれーのーにーくー……』

 諦めなさい。

『…………にーくー…………くいもんー…………』

 だから諦めなさいってば。

『………………くーしーやーきー………………』

「………………後でまた買ってあげるから、アレは諦めなさい」

「「………………………………は?」」


 あ。

 思わず声が。


『えっまじホント!?』


 …………お前ホント単純だな。

 見なさいよあのイヌ耳とネコ耳のポカンとした顔元の作りがイイと間抜けな表情もカワイイのね。

 しかもおんなじタイミングで、てんてんてん、とあたしの足元に目を向けて。


 ………………うんこの顔で串焼きは似合わないとあたしも解ってる。

 だからそう何度も目をあたしの顔と串焼きの残骸に行ったり来たりさせないで。


『マヌ!マヌ!早く!早く買って!!』


 って、そーよね謝ったんだしもー行っていーよね。

 一歩横にずれてイヌ耳ネコ耳の横を通り過ぎる。


『マヌちげぇ!!アレ売ってたのアッチ!!』

「後で、って言ったでしょ。まずは用事を済ませてからです」

「……あっ、あの!!」


 ぐいっ。

 って、あっぶないな誰よ人の服引っ張るのって!!……て、イヌ耳?

 ちょ、イヌ耳すっげへたれてるんですけど!!ぴるぴるしてるんですけどカワイイんですけどぉぉおお!?

 何だお前そんなにあたしにお持ち帰りされたいのか!?!?


『串焼き買ってマヌー。くーしーやーきー』


 ……………………はっっΣ。

 ……ま、またまたぶっトぶトコだった……

 むぅうっっ、恐るべしケモ耳っっ。

 そしてメーレお前少しは食から離れなさいっっ。


 ってゆーか何この子あたしに

「何か」

 用でもあんの?もしかしてアレ?

 ぶつかったトコが骨折しちまった慰謝料寄越せやひゃっはーあ……じゃないですよね遊びすぎましたすみません。


 あ、あ、いや、凄んでないから。凄んでないからねあたしっっ。

 だからそんなカタカタピルピルしないでほらネコ耳ちゃんもっ!!

 取り敢えず要件言ってほらほら周囲の視線が凄くなってきてるでしょ!?


「―――なにか」

「っ、っっ、あ、のっ、オレの、オレのっ所為だからっ、そのっ……~~~買ってきますぅぅうう!!」

「ちょっシュア!?」

「え、おい、ちょ―――」


 い っ ち ゃ っ た 。

 ナニあれ凄い。文字通り脱兎の如く。


 ぽつんと取り残されたネコ耳ちゃんの中途半端に上がった手が寂しい。


「…………何事か?」

「ごっ、ごめんなさいぃぃいい!!」


 思わず素で呟いちゃった声は。

 静かな怒声に聞こえたらしいネコ耳ちゃんをガタガタ震わせ逃げさせたのだった。


 …………………うん。あたし強い子。泣かないわっ。




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