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神様モドキの異世界旅行  作者: ほえほえ
蹴り出された元オタク
6/40

6・世界が変わろうと先立つモノはいるモノなのです




 初めて見た異世界の街はおっきくて綺麗。

 そしてやっぱりふぁんたじーでした。まる。


『………………なーマヌ』

「何かなメーレ?」

『………………お前、気になんねーの。この視線』


 うん確かにグサグサ刺さるけどね。

 前方の人が気付いてギョッとしてそのまま硬直。

 擦れ違った人もえっウソ!?みたいに振り返ってそのまま凝視。


「大丈夫なのですよワタクシにはATフィールドがあるので」

『…………何だソレ?』

「心の壁、ってヤツです」


 それに元々あたしは鈍感だ。鋼鉄で分厚くて図太いくらいに。

 ジョブチェンジした事で、五感どころか気配なんかまですごい解る様になってしまったのはソレナリにイタイけど。


 仕事場で同僚の旦那がバイトに手を出して修羅場繰り広げてた時も。ちょっと思い込みの激しかった子が何時の間にか課長のストーカーになってた時も。

 事が終って笑い話に上がってきて初めて気付くよーなあたしだ。

 アンタほんとに平和でイイわよね、なんて何度言われた事か。


『………………ソレって単に鈍感って意味じゃ』

「だからそう言ってるでしょ」


 あの時の事を掻い摘んで話したら、メーレはげっそり溜息吐いた。

 …………ソレはソレで失礼な。


『……で。ドコに行くんだマヌ?』

「先ずは換金所。或いは質屋。若しくは宝石商、はたまたでっかい商会、ですかね」

『食いモン屋じゃないのか!?』

「あのねメーレ。人の世界じゃ、何をするにもまずお金が必要なのですよ」

『おかね?何だソレ?つか何でだ?』

「何で、と言われでも……メーレは、もし知らない人に今日狩った獲物をくれって言われたら。あげます?」

『何で知らないヤツにやんねーといけねーんだよ』

「食べ物屋さんもメーレを知りません。だからメーレに『食いモンくれ』って言われてもくれません」

『あ。』


 解りましたか解りましたね。


「じゃあ次に。メーレは今日ピールラビットを3体狩りました。知らない人が『ユニコーン狩ったんだけど、オレユニコーン食えないからそのピールラビット3体と交換してくれ』ってユニコーン1体持ってきました。さてメーレはどうします?」

『……んー。交換する。1匹でも、ピールラビットよりユニコーンの方がでかいし美味いし……っそうか!!代わりになるモン持ってけばいーんだな!?狩ってくぴゃうぐ!?』

「これこれ。早とちりしないの」

『けほっ、けっ、こんっ……~~~っっ、マヌ!!イキナリ首根っこ掴むなよ!!俺は猫じゃねーぞ!?』


 …………いや、お前今ドッカらどー見たって手乗りネ…………うをっほん。


「お前が人の話を最後まで聞かないのが悪いんでしょーが。……さて。代わりになるモノを持っていく、のは合ってます。でもソレだけじゃ正解はまだ半分です」

『…………何だよそしたら、後の半分って』

「ソレはですね。もし交換してくれ、って出されたのがドリアラキノコだったりしたら。メーレ交換します?」

『うげ。やだ俺あのキノコ嫌い』

「でしょ?そんなふうに、交換するのが互いに『コレでイイ』って思うモノでなきゃ、取引は成立しないんですよ」

『……そっか。そー言われてみればそーだよな』


 猫なのに、器用に顔をしかめてメーレが唸る。

 そんなメーレの頭をあたしはぽんぽん撫でて。


「うん。でもね、何時でも自分の持ってるモノと、自分の欲しいモノが直ぐに交換出来るか、って言ったら。そうでもないでしょ?だから、人の世界ではそーゆー事が無いよーに、誰でも好きな時に好きなモノを手に入れられる様に。誰であっても価値が一律一定なお金というモノを王様が作りました」

『いちりついってい?』

「そ。例えばおれが持ってても、メーレが持ってても、アソコのウサ耳の女の子が持ってても、この国の王様が持ってても。そのお金ってのはソコの露店で売ってるジュース一杯分の価値なのです」

『……ふーん?かーさんが持っててもか?』

「うんおかーさまが持ってても。で、人の社会にはね、狩った獲物とか自分で作ったモノとか持ってくと、お金と交換してくれたり出来る場所とか、ココでは野菜と交換しますよー、とかがあるんです」

『うー……ああ、そっか!!欲しいモン持ってるヤツをいちいち探すの、メンドーだからか!!』

「そゆこと」

『けどマヌ、お前その、おかね?ってヤツと交換できるヤツ、持ってんのか?』

「うん、ソレはもうどっさりと」


 主にポーチの中とか腕輪の中とか背負ってるリュックの中とかに。

 ホントあの森資源の宝庫だ。もう出るわ出るわ、金の塊とか宝石とか色々。

 あの時は鉄が欲しくて欲しくて仕方無かったけど、スルーせずに集めといて良かった良かった。


 そんな事を話しながら歩いてるウチに、お目当てのお店らしきモノが見つかった。

 でっかい外観に重厚な扉。周りには乱雑に荷物を積んだ馬車達。

 看板に書いてある、ミミズののったくった様な字は読めないけど、多分ココで当たりのハズ。

 用心棒さんなんだろう、ソレっぽい格好の扉の左右に立ってた2人のイヌ耳さんとウサ耳さんがあたしを見て固まって尻尾をぶわあ!!と膨らませて。


『……マヌ、ここ?』

「はいな―――メーレ、今からこの建物に入りますけど。ココを出るまでの間、静かにしてて下さいね?」


 あたしは用心棒さん達を見なかった事にして、茶色いドアノブに手を掛けた。




     ~・~・~・~・~




 ちりんちりんとドアベルが鳴って、入った室内はけっこーな広さ。

 センスのいい調度品に、カウンターの前に座る品の良さそうな、鱗がうっすらと見え隠れする青白い肌の、紳士。確か獣人の、鱗人族、だったっけ。


「ようこそ、グランギニョル商、か、い、へ……」


 だけどその品の良さも、あたしを目にしたら驚愕に変わって。

 …………泣いてないわよあたし。コレは心の汗、そう汗なのよ。


「ど、どういった、ごようけん、でしょう?」

「……買い取りを、お願いしたい物が、あって」

「買取、ですか……紹介状は、お持ちですか?」


 うあ。

 いるのか紹介状。


「……いえ、何処へ持っていけば、買い取って貰えるのか、解らなかったものですから」


 しくった。

 こんな事なら、おっきいお店じゃなく、ソコ等のちっちゃい店に入っておけば良かった。


「売れるか如何か、解らない、ですか……恐れ入りますが、どういったモノを、お売りしたいので?」

「あ、と……貴石、です」

「きせき、ですか?」

「……あー」


 何だコッチの世界じゃ貴石って言わないのか。


 どうしよう、メーレに聞いて……魔獣が光りモノの事なんて知るワケないか。『ながお』はあたしの作ったアクセに興味深々だったけど。

 見せた方が早い、かな?


「……えと、こういう、モノなんですけど」


 ごそごそと、背負ってたリュックを胸の前に持って来て、中から手の平サイズの大きさの、臙脂色したフェルトもどきの巾着袋を出す。

 括ってた紐を解いて口を開けたら、まず最初に出てきたのは綿。

 その綿に、くるむみたいに入れてたソレを出す。

 青色の、丸い2センチくらいの大きさのサファイアルースを。


「……ソレは……もしかして、サファイア、ですかな?」

「はい」


 ころん、と手の平に転がした、ソレを見た紳士さんの目付きが変わった。

 ……なんかコワイ。


「……あの、こういったモノは、何処へ持って行けば売れるんでしょう?」

「しょ、少々お待ち下さい!!」


 あれ。何で奥に引っ込んじゃうんですか紳士さん。

 泣くよ?ホントに泣くよあたし?


『……行っちゃったぞ、マヌ』

「……だね。でもちょっと待って、ってゆー事は。多分直ぐ戻ってくるよ」


 ……てゆーか早く戻って来て下さいお願いします。

 とか思いながら所在なさげにする事約5分。

 紳士さんが戻って来た。

 ほっ。良かったサスガにコレ以上の放置プレイは寂しいからね。


「お待たせ致しました。当商会の責任者が奥で待っておりますので、此方へどうぞ」

 …………は?

「え、あ、の?」

「其方の宝石を買い取らせて頂く為にも、一度お話をお伺いしたいとの事でして」

「え。買って、くれるんですか?」

「はい。その様に責任者は思っております」


 まぢですか。

 ニコニコ笑顔な紳士さんに促され、首を捻る。

 そして紳士さんに着いて行った先にはやっぱりどどんと重厚な扉の前。

 合図、になってるんだろーか。面白いリズムで紳士さんがノックをして。

 すると中から扉が開かれた。入る方が開けるんでないんかい。

 しかも中には、数人の護衛っぽい人と、秘書さんみたいな女の人を背後に侍らせ、中央の机に座る白髪交じりな5~60代の、肌の所々にウロコが見える笑顔の男性。


「ようこそ、グランギニョル商会へ。歓迎致します。私はここの館長を務めます、グランと申す者です。以後、お見知り置きを」

「……はぁ」


 しかも笑顔のまま立ち上がって近付いて来て右手を差し出された。

 コレはアレか。握手しませう、って意味か。


 ……あれ?でも

「商人の人って、商談が成立した時に握手するんじゃ」

 なかったっけ。

 あれ、館長さん驚いた。違った?

 あ、笑った。

「いやはや、何処で商人の流儀をお聞きになったんです?」

「……えー、知り合い、から、です?」


 うん。仕事先の業者さんとか業者さんとか営業の人とか業者さんとか。


「そうですか。では、握手は商談が成立した後という事で。まずは商品を見せて頂きましょう?」

「え、あの、本当に買ってくれるん、ですか?」

「ええ、ええ。むしろ此方からお願いしたいくらいでございますよ」


 促されて、来客用なんだろう、黒い革のソファに座る。メーレも、あたしの肩から降りてあたしの隣にちょこんと座り。

 館長さんは近くにいた女の人にお茶の用意を、とか言って、あたしの向かいに同じ様に座った。


「さて、どちらをお売りになりたいのでしょう?」

「……え、と。コレを」

 さっき紳士さんに見せたサファイアルースを、巾着と一緒にテーブルの上に置く。

「あとコレと、コレと、コレも……売れる、のかな?」

 だけでなく、リュックの中からおんなじ大きさの巾着を9個出して。


「コレ……は。ダイアです。コレは、ああ、エメラルドで。コレはー、あ、ルビーだ」

「…………コレは、また…………」

「コレはジルコン。他にも、ガーネットに、アクアマリン。コレはトパーズ」

「此方は……もしかしてアレキサンドライトですかな?ほう、ペリドットまで」


 うん。こーして見るとけっこー集めたな。

 しかもリュックの中にはまだまだ、パワーストーンなるモノも入ってます。

 そしてポーチの方には研磨すらしてない原石がごろごろ。


 今出したヤツは、知識ひっくり返して、色々と練成でカットさせて貰ったモノだ。

 会心の出来はやっぱりダイア。ラウンドブリリアントカットはホントにむずかった。


「手に取っても宜しいですかな?」

「あ、はい」


 どーぞどーぞと言ってみれば、館長さんは傍に控えてた紳士さんから手袋を受け取って、ソレを手に嵌めてルース達をじっくり見ていく。

 窓の外から入ってくる太陽光に当てたり、逆にカーテンを一度閉めさせてランプっぽいヤツの明かりに当てたり、ホントにじっくりと。

 ……や、いちおー全部ホンモノですよ?解析魔法で調べたし、不純物は練成魔法で取り除いたし。


 出された紅茶をしずかーに啜ってると、ようやく納得したらしい。

 持ってたルースを元の場所に戻し、館長さんは天を仰ぎ見るかの様に天井を見つめて、次いで目頭を指で揉み解す。


「…………素晴らしい、としか言い様がありませんな」

 その声は、ドコかボー然、とした声で。

「大きさ、純度、そして何よりこの形……其々の宝石の特徴を生かし、そして最も美しく魅せる為の技術が詰まっている。長年商人として生きて来ましたが、これほどの物を見るとは思いも寄りませんでした……何方がこの研磨を?」

「あ、おれです」


 え。なんでそんな、ぽかーんとした顔してあたしを見るの。

 しかも護衛さん達や紳士さんや女の人まで。そんなにおかしい事かしらん?


「……貴方が、コレを?」

「はい。全部おれが手掛けました」

「ほう……では貴方は、加工技師なのですか?装飾品の類は、作られるのですかな?」

「ええ……いえ、確かに指輪とかネックレスとかも作りますけど。旅の合間の手慰み、程度で始めたものなんで、コレが本職、とかじゃないです」

「旅の……何と勿体無い」

 ぅえ?もったい、ない?

「コレ程の腕前、このまま野に埋もれさせるには実に惜しい。如何です、ウチの専属加工技師として働いてみる気はありませんかな」


 …………まさかこんなトコで勧誘を受けるハメになるとは。

『……マヌ……なんかこのおっさん目がやべぇ……』

 ちょこん、と座ってたメーレがあたしにすすすと寄ってきた。

 うん真剣ですね目が怖いですね。


 や、嬉しいんですけどね?ホント。でも。

「……すみません。行かなきゃ、いけないトコロがあるんです」

 きゅう。テーブルの下で手を握りながら、俯く。


 メーレのおとーさま。ドコかの国の王様と、契約してるそのヒト(?)に、あたしはメーレを会わせてやりたい。そしてメーレはちゃんと一人前になったぞって認めさしてやりたい。

 ソレに、あたしはあたしで行きたいトコがある。


 ――――ルーデルディア、神の庭に。


 お伽噺かもしれない、実在するのかどうか解らないトコだけど。会ってみたい、この世界の神様に。そして聞いてみたいんだ、あたしはホントにこの世界にいて良いのか。


 俯いてた顔を上げ、あたしはしっかり顔を上げて、じっ、と館長さんの目を見る。

 そしたら館長さんは、仕方ないなあ、みたいな感じで、溜息吐いた。


「―――そうですか。決意は固い様ですな」

「…………ホントに、すみません。せっかく、誘ってもらったのに」

「いえいえ、此方こそ行き成り勧誘してしまい、申し訳ありません……もし気が変わる様でしたら、何時でも私を訪ねて来て下さいね。歓迎しますから」

「はは、ありがとうございます」


 謝ってみたら軽く謝り返されて。

 しかもお茶目にウインクまで付けられて言われて、思わず笑う。

 なんだか和やかムードでございます。嬉しいね。


「さて、ソレでは商談に入りましょうか―――私としましては、此方の宝石全て買い取らせて頂きたいと思っているのですが、お幾らでお売り頂けますかな?」

「ああ、それなんですケド。おれ、こーゆーのの相場、とか解らないんで。館長さんの言い値でお願いできませんか?」

「………………………………は?」


 え。なんでそんな、ぽかーんとした顔してあたしを見るのぱーとつー。

 しかも護衛さん達も紳士さんも女の人も、さっきよりも口開いてませんか。


「……ちなみに、コレ等の元手はお幾らで?」

「ほぼゼロですね。原石は旅の途中に自分で採掘したモノだし、加工道具も全部自分の手作りですし」


 実際の採掘はお子様方に手伝ってもらったし、加工は練成魔法一発で事足りるのですが。

 あ。今度は沈黙しちゃった。


「…………参考までにお伺い致しますが」

「はい」

「…………幾らで売れれば良いと、思ってますか」

「そうですねぇ……取り敢えず1月くらい、普通に安い宿屋に泊れて3食食事が出来るくらいの値段になれば良いな、とは思いますけど」


 あれ。あたし達何か変な事言った?

 何でみんな固まるの。


「……………………取り敢えず、コレ全てでひと家族が約一生遊んで暮らせるだけの額にはなりますな」

「え゛」

 まぢですか。


 思わず固まったあたしに、館長さんは深々と、ほんっとーに深々と重い溜息を吐いた。


「……知らないのは仕方ないとして、ソレでも馬鹿正直過ぎます。そんなでは何時か足元見られますよ?」

 ………………………………す、すみません。ホントにすみません。




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