5・人生初の異世界の街はやっぱりふぁんたずぃ
…………だけど初っ端から挫折しそうになりました。
いちおー、森の南に人の集落がある、っておかーさまに聞いてはいたんだけど。
真っ直ぐ真っ直ぐ歩いても歩いても樹、木、き、キ。
まさかこの森がこんなにでっかいとは思ってもみなかった。
歩いて歩いてタマに食べれそうな木の実を齧りながらまた歩いて。
襲ってくる魔物を吹っ飛ばして捌いて食べてまた歩いて。
やっと木の無い、草原?を見つけた時には、10日経ってた。
…………しかもそっから先も長かった。
なんかサバンナみたいな平地を歩いて歩いて、こぢんまりした湖見付けて野宿して。
街道どころか獣道すら無い草ボーボー時々木の平地をたぶん南に向ってひたすら真っ直ぐ真っ直ぐ歩いて。
遭遇してしまった魔物をまたまたぶっ飛ばして。ちっちゃい川を見つけてホッと一息野宿して。
そしてまたまた草&木時々林な平地をたぶん南に向ってひたすら真っ直ぐ真っ直ぐ歩いて。
メーレ空飛べるんだし背中に乗って駆け抜けたら直ぐじゃん、とか思ったし実際言っても見たけど、困った顔されて断られました。
人の近いトコで空を飛ぶのはイヤらしい。
あの森は人如きが楽に攻略出来る様な魔物はいなくて、人は近付いて来ないから元の姿でも過ごせていたけど、森を一歩出たらドコで見られるか解ったモンじゃないからだ。
ソレにこの徒歩での旅、はあたしを鍛える為でもあるらしい。
魔力の総量はピカイチで、基礎体力も高スペック。知識と技術はこの世界のあらゆる分野を進歩させる事が出来る程だけど、戦い方や力の使い方に関しては経験のけの字くらいしかなくほぼ完璧ド素人。
その経験を少しでも身に着けさせろ、でないと万が一の時に困る、この世界は良くも悪くも弱肉強食だから。
……と、おかーさまにそう言われたそうな。
…………うん。解っちゃいたけどやっぱり弱肉強食なのね。
まあ、持ってるだけの力なんて宝の持ち腐れってのは解るし、今まで自分の書いてきた夢小説でも、自分が望む道を行く為に、望む望まないは二の次で、力はゼッタイ必要だって書いた事もある。だから鍛える事に関して不満はない。
ないけど、サスガに3週間近く出会った魔物全て悉く吹っ飛ばすのにはちょっと辟易した。
だから21日目にして、ソレを見つけた時はカンドーした。
「…………はー。でっかいなー…………」
ぽてぽてのほほん。大口開けてソレを見上げながら、歩く。
しかしソレにしても、とってもでかい。
端が見えない程に長くて高い塀。多分外の獣やモンスターが入らない為の、防壁。
歩いて一周するとしたらドレくらい時間が掛かるんだろう。5日?下手したら10日?
ソレくらい、でかい防壁。
コレくらいおっきい防壁に囲まれてるとなると、町というより街だ。
しかも国の要所、とか。流通の要、とか。凄い特産物がある、とか。王都、って可能性もある。
……イキナリビンゴですか?
『なあなあマヌ。コレが人の縄張りの町ってヤツなのか?』
「町、っていうより都市の部類に入るかな。町よりおっきいんだよ」
『町よりでけぇ!?じゃあじゃあ、食いモンもいっぱいあるか!?』
「まあ、種類は豊富だと思うけど。見てないから何ともなぁ」
『じゃあ行こうぜ早く早く!!』
あたしの肩に器用にしがみ付いた、メーレの言葉に思わず苦笑。
……ホントこいつ食う事しか頭にないな。
そのメーレは今、あたしの両手の掌よりちょっとおっきいくらいの、毛の長い銀色金目な子猫の姿になっている。
だって3~4メートルもありそうな本来の姿なんて、心臓の弱い人なら見ただけで死ねるわ。
ソレに、変わり種っていっても銀天琥は魔獣。
魔獣は残虐非道で人を食うってゆーのが世間一般の人の常識。
正体バレた途端討伐命令とかでも出されたりしたらメンドーです。
ちなみに見た目だけでなく魔術師対策もバッチシ。
『メーレ』とカタカナで彫った菱形のプラチナのメダルに、青いびろうどのリボンを通して首に着けさした。
そのメダルには魔獣の気配をふつーの猫の気配に誤魔化す魔法を刻んでる。
モチのロンでその魔法自体にも検索魔術なんかで引っ掛からない様なジャミングみたいな魔法が掛かってる。
この世界、検索探索の魔術はあってもソレを妨害する様な魔術はないらしい。
いやあホントチートってイイね!!
あと、リボンは刃物が欠けるくらい丈夫にして、コレを解けるのはあたしかメーレ本人だけな魔法も付属してる。
ちなみにこーいった形状記憶、固定化、物質強化に個人承認とかの魔術はけっこーあるそうです。
まあ、何はともあれ。
首輪を付けたメーレは、誰がどう見たってふつーの猫、でしかない。ハズ。うん多分。
『はー、ソレにしてもでっけーなー。良くこんなん作れんな。人型すげぇ』
「はは、そーだねー。ワタクシの世界なんか、月まで行ける空飛ぶ船まで作りましたからねー人間は」
『えっまじ!?あの月!?空に浮かんでるアレ!?』
「そーそー。」
ぽてぽてのほほん。防壁沿いに沿って歩く。
多分どっかに門がある。コレだけでかけりゃ東西南北複数にでも。
子猫ばーじょんのメーレの声は、メダルを通して直であたしの頭の中に響く。
だから傍目にはにぃにぃ鳴く子猫に話しかけるちょっとイタい人ですが。周りにゃ人の気配なんかないから気にシナイ。
で。そんな傍目にはイタい人しながら歩いて10分。
ようやく、入口みたいなのが見えた。
あたしの胸はもうドキドキだ。まるで東京に初めてやって来た田舎っ子みたく。
――――…………ようやく、だ。
ようやく、この世界の人と、ご対面!!
この世界、人間、というのはひとつの種族だっておかーさまは言ってた。
人の形をした者は、他に純白の翼を持つ天使族。瞳孔縦長な金の目と皮膚の所々に鱗がある竜族。
妖精族のエルフにドワーフ、霊体に近い精霊族や、獣の耳や尻尾を持つ獣人族もいるという。
この壁の向こうには、そんな、人間じゃない人が、たくさんいるんだ。
防壁沿いにぽてぽて歩く。
緊張と不安からくるドキドキと、好奇心からくるワクワクを胸に宿しながら。
これだけおっきい防壁なら、何個か門があるだろう。
…………すぐ見つかると良いんだけど。
だけどそんなに時間も掛からず。
がっぱり開いた、入口みたいのが見えた。
『うわでっか。何でこんな入口でけぇの。巨人族でも住んでんのかココ?』
「れ?巨人族って東大陸の小島にしかいないんじゃなかったっけ?」
『かーさんもそー言ってた。けどソレっくらいでかいぞコレ。夜とかどーなってんの。危なくね?』
「人間って無駄なトコで見栄張る生き物ですからねー。危険はないでしょ、警邏の兵もいるだろうし夜になったら閉めるだろうし」
てゆーかソレって、コレを毎晩閉めるって事だよね。あらやだすっごい労力じゃない?
ほへー、と大口開けながらぽてぽてぽて。
進むにつれて、聞こえる雑音。
ソレは喧噪になって、近付くたびだんだんと大きくなる。
「……うーわっはー。」
『……遠目からでも十分見えてたけど、ホンット無駄なくらいでっけぇなこの門』
しかもずいぶんと賑やかですよ。
防壁見る限りでかい街だと思ってたけど、こりゃ本格的に首都王都の線が濃くなってきた。
門がおっきいだけあってか、色んな方向から広い街道が伸びてる。
そしてその門の前には、広々とした広場。全ての街道の終着点だからか。ホント広いよ。
そしてその広場にはホントに沢山、色んな意味で沢山の人。
露天開いてるトカゲの商人とか。
品物じっくりみてるウサ耳なナイスミドルとか。
でっかい大剣背中に担いだ虎耳尻尾付きのバン!キュッ!ボン!とか。
緑のローブを着てぴこぴこタヌキみたいな丸い耳動かしてるちっちゃな子とか。
2足歩行で服着て歩いてるクマさんとか。
オプション付けてない人も、色んな鎧とか武器とか。うをう、ハイレグ発見。
「……ふぁんたじーだ。」
本物だ。実物だ。夢みたいだ。でも夢じゃないんだ。
いや『ちいさいの』がしゃべった時点である程度思ってはいたけど。
魔力とか魔獣とか、もしココが科学の発達した世界だったらあるワケないよねぇ?なんて思ってたけど。
実際おかーさまに色々話聞いた時には、ああもうコレ確定だって思ったけど。
でも、実際。こーしてナマを見てみると、こう、なんか、うわあ。
だからあたしは気付くの遅れた。
あたしの周りだけ何故だかしーんとしてる事に。
『……なあ、マヌ。なんか、見られてねぇ?』
「そりゃね。こぉんな絶世の美青年がいたら誰だって見ます」
『…………自分で言うなよ自分で』
いやん何でソコで溜息吐くの。
ホントの事なんだから仕方ないじゃないっ。
『……けど、なんか嫌だ。この視線……みんな、まるで』
「怖がってるんでしょうねぇ」
『っ、マヌ?』
でもソレは仕方ないぱーとつー。
だって今のあたしの外見は。あたしが書いてた夢小説の主人公の姿は。
『世癒』ってキャラは、あたしがそう設定したのだから。
――――アレは本当に生きているのか。
――――人とは思えない。
――――近付きたくない。
そう思われる様な。空恐ろしささえ感じてしまう程の美貌を持つ、と。
………………中身あたしでごめんなさい。いやなんかもー、ホントにごめんなさい。
出来るだけキャラ壊さない様にするから許してお願い。
ちろん、と。右に視線を流す。
バッと誰もが目を逸らした。
ちろん。今度は左。
ザッと誰もが一歩引いた。
お子様連れのネコ耳おかーさんはお子様を抱えてぷるぷる震え。
狐色の尻尾と耳した兵士さんは顔を真っ青にしてる。
あたしに気付いた人は目に見て解る程に驚いて。声を失くしてあたしを見る。
綺麗なのに怖い。怖いのに目が離せない。そんなふうに。
『…………なあ、マヌ』
「………………大丈夫」
噛み付きませんよシツレーな。
あたしはそんな人の中、でっかい溜息吐きたくなりながら。
取り敢えず当座の生活費を稼ごうと、目当てのお店を見つけるべく門をくぐったのだった。