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神様モドキの異世界旅行  作者: ほえほえ
最果ての 森
39/40

届く筈だったその手は 何も掴めず すり抜けた






 探して。捜して――――――さがし、続けて。


 其の光景を目にしたのは、恐らく同時。

 細い細い獣道を辿り。覆い茂る木々が左右に割れ開けた、場所。


 差して大きくも無い湖だった。

 本来ならば小波も、波紋さえ浮かばぬ、水底が見える程に透き通った水だった。

 しかし其の湖を淡く紅く染めて。幾重もの波紋を広がらせて。


 浮かぶ、幾重もの羽根の残骸。


 水面下に沈み霞む黒。

 けれど、其れだけ。其処に在ったのは、只、其れだけ。

 確かに、此処に一度。レイルは墜ちたのだろう。けれど彼の姿は、無く。

 揺れる、黒い羽根。


「………………レイル………………?」


 其の光景に足を縫い止められ動けぬルイの隣で、シインの足がそろりと水に浸る。

 揺れる波紋。小さな魚が逃げた気がした。


「………………レイル………………レイルッッ!?」


 其の光景に言葉も無く目を見開き青褪めるイサの傍らで、カインの足がぱしゃん、と水を弾く。

 小波立つ水面。浮かぶ葉が水の中に落ちた。


 美しい森の美しい湖。其の水面に、揺れる黒と紅。

 其れは、完成された絵画の様に近付き難い光景だ。

 だが侵してしまえば、後はもう只我武者羅に、墜ちた筈の異形を捜す、だけ。


「レイル、ドコだよレイル!?」

「おい、返事しろレイル!!」


 入水には未だ早い時期。冷える水位は腰まで在り。其れでも怯まず。重く纏わり付く水面を掻き分けながら。

 口から零れるのは、探し求めた大切なヒトの名。


 揺れる水面。たゆたい浮かぶ黒い羽根。静かに。只静かに。

 掴んだ其れは、ほろりと溶ける様に魔力の粒子となって、消え。


「………………レイ、ル………………」


 項垂れる、二人のランカー。其の姿に、兄弟は、村の者達は泣きたくなる。

 其の痛ましさに。其の哀しさに。其の存在の儚さに。

 そして何より、再び出会ったにも関わらず、其の手からすり抜けてしまった彼の異形に。






 なんて――――――なんて残酷な、現実。






 カインが、己の両腕を目の前のシインへと伸ばす。

 胸倉を掴み、其の胸元に顔を押し付けて。

 揺れる肩と小さな嗚咽に、シインは天を仰ぎ、カインの頭を強く、掻き抱いて。

 ぐ、と唇を噛み締めた。






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