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神様モドキの異世界旅行  作者: ほえほえ
蹴り出された元オタク
2/40

2・そして初っ端からこんなのと遭遇だなんて



「とか思ってたのに何でこんな事にーーーーっっ!?!?」


大絶叫上げながら走る走る。

でも仕方ないと思うんだ。思わず声を上げたって。


走るスピードは落とさずに、ちろん、と後ろを見る。

ソコにはあたしよりも大きな白い虎。しかもでっかい牙付き。

進化の過程で牙が犬歯に退化する前の虎。サーベルタイガーと呼ばれる種類の肉食獣。

頭の中の知識からそんなんが出てくるけど今はどーでもイイ。

あんなでかいって何。多分クマよりでかいよアレ。


「ウチなんか食ろても美味くないてーーーー!!!!」


 あらやだ思わず幼少の頃の訛りが。

 ってソレもどーでもイイ。

 今はこの危機的状況を打破するのだ!!

 ってどーやって!?


 いち、体力限界まで鬼ごっこ。

 に、諦めて逃げるのやめる。

 さん、木に登ろう。


 ……ライフカードみたく言ってもダメじゃん!?

 体力尽きたら食べられるじゃん!?

 諦めても食べられるじゃん!?

 ネコ科動物だって木に登れるじゃん!?


 あ。

 知識内の剣歯虎の項目。

 豹やチーター、ライオン虎に比べて走るのが遅い。

 身体がずんぐりむっくりしてるので、木には登れない。


 …………何故ソレを早く出さない!!

 アレがホントに地球にいたサーベルタイガーと同種なんかは知らないがっっ。

 取り敢えず木!!あの巨体が頭突きかましても倒れない様な!!

 でっかいぶっといそして高い高い木!!


 ってあったあぁぁぁああ!!理想そのモノなでっかい大木ぅぅうう!!


 ぐ、と更に脚に力を込めてスピードアップ。

 そのまま突進!!タタタタッ、と幹を駆け登って、ていっ!!掴んだ枝で鉄棒みたく大車輪っ。

 上に着地、そのままてんてんっと幹を蹴って枝を蹴って更に上っ。


 ……こ、ココまでくれば、だいじょうぶか、にゃ?


 ちろん、下を見る。ををう、すっげ登ったねあたし。前に住んでたアパート3階くらいの高さはあるよ。

 しかもあんだけ走ったのに息切れてないし。疲れも感じてないし。

 なんつーハイスペックだこの身体。

 ……コレで木の根元であたしを見てるアレがいなけりゃ万々歳なんだけど……


 取り敢えず、枝の上でしゃがみ込んで下を警戒。

 どーやらホントに木は登れないみたい。

 コッチが降りる気配無い事を悟ったら諦めて次の獲物を探しに行ってくれるだろう。

 うん絶対。……きっと……たぶん。


 サーベルタイガーはコッチを見上げながらうろうろうろうろ。

 あ、座った……立った。あ、また座った。

 立って、またうろうろ。ふい、目が逸れた。

 後ろ向いて?いやいや振り返らなくてイイ。諦めて興味なくしてお願いだから。

 俯いた。顔上げた。あたしをじぃいっと見て。

 だからっ、いくら待ってても降りないからあたし!!

 いやいや見上げなくてイイって!!

 諦めて興味なくしてお願いだから!!


「おい、そこの人型」

 ………………は?

「ココはボク達の縄張りだぞ。お前なんか餌にされても文句言えないんだぞ。なのに何でいるんだ」

 …………え?

 だれ?このちょっと高めな変声期前の男の子っぽい声。

 誰がしゃべってんの?ねぇホント一体どなたが?


 ――――…………まさかあのサーベルタイガーですかいっっ!?!?


「にょおぉぉぉおおおお!?!?」

「をうっ∑?何だよイキナリ大声出すなよ」

「と、と、ととと、と、ととと、ととととと」

「と?鳥の真似か?」

「とらがしゃべってる~~~っっ!?!?」


 しかもタダの虎じゃないんだよ白い虎なんだだよしかも熊より大きいんだよ牙がすっごいんだよもしかしなくてもサーベルタイガーってヤツなんだよ!?!?


「むっ、何だよお前。ボクが喋ったら何か悪いのか」

「い、いえいえいえいえ。そんなメッソウモゴザイマセン。」

「じゃあ何だ。何でココにいる。ボク達を捕まえにでも来たのか?」

「イヤえーとソレは……」

「何だ。はっきり言えよのろま」


 むかっ。

 誰がノロマだお前なんかあたしに追い付けなかったクセにっっ。


「言えない事なんだな。やっぱりボク達を殺しに来たんだ。――――かーさまー!!ココに人型がいるー!!ボク達を殺しに来たってー!!」

「だっから違うっての迷子だってのコッチは!!」

「…………ふぇ?」


 何だよネコ科のクセにそのポカンとした顔!!

 正確には迷子違うしっっ!!

 でもココがドコか解らないしドッチ行けばイイかも解んないしそーいった意味では間違ってない……かも?

 うん。やっぱり迷子ですすみません。

 ……けどこの年で迷子……じ、地味にヘコむ……


「ほう。迷子とな」

「……や。迷子と言っても道に迷ったとか誰かと逸れたとかそーゆーんでなく」

「では何だ。地図の読み方でも間違えたか」

「いやいやそもそも地図持ってないからドッチの方角に何があってどんなのあんのかも解らないし……」

「で。誤ってこの森に入ってしまったと……ソレは迷子以前の問題ではないか?」

「……そーなんだよね迷子以前の問題なんだよねああああどーしよーう……」


 って、ん?んんん??

 さっきから返答の返ってきてるこの声は、何ですかな?

 男の子っぽいヴォイスとは違うんですが。

 なんかすっごい落ち着いた熟女の声なんですが。

 しかも随分と近くから。


 …………ってゆーか、背後、から?


 そろーり。そろーり。

 …………

 ……………………

 ………………………………はい?


「~~~~なんっでネコ科の肉食獣が空飛んでんのっっ!?!?」


 ちょっとねえ何でこの高さの足場ってホンット今あたしが座ってる様な枝しか周りに無いのに!!

 下にいるサーベルタイガーよりでっかいのが何でさもソコに地面あるかの様に浮いてるワケ!?!?


「何だ。お前魔獣を見るのは初めてか」

「はぁ!?魔獣!?」


 ぱらぱらぱら。

 頭の中で書庫にブチ込まれてた情報から、魔獣に関するのが引っ張り出されてくる。

 ゲームや漫画によって色々と設定は違うけど、その殆んどは魔力の籠った土地で生まれ育った突然変異。

 魔力に晒されてきた為か、知能が上昇。魔術も使える。中には人型を取れるモノも。

 そしてコレまた魔力のお陰(?)で性質も歪んで性格は残虐凶悪非道。

 文字通りダークサイドな生き物である、まる。


「ってその魔獣!?まぢで!?」

「その、と言うのがどういうのかは知らんが、魔獣だ。……まあ我等と遭遇して生きていられる人型など全体の1%もおらんからな。驚くのは当り前だろうが」

「のぉぉぉおおおおおお!!!!」

 はいビンゴォォォオオオ!!

 1%!!すっごい数字出てきましたよ!!

 コレはアレですね詰みとかゆーヤツですね今までホントにありがとうございました!!


「……み、短い人生だった……」

 ……そっかあたしココで食べられるのか……

 まだ生き返って(?)から1日も経ってないってゆーのに。

 こーなるならさっき1人ファッションショーやっとくべきだったよ。


 てかうおいこらギャル男にヤサ男ぉぉぉおおおああ!!

 落ちて早々即死フラグはないんじゃなかったんかい!?!?


「何だお前、食われたいのか?」

「…………へ?」


 いやだって。

 虎でしょ肉食でしょ追い掛けてきたでしょ人間なんてパクリでしょ。


「他の魔獣はどうか知らんが。我等の一族は人を食わん」

「え。そーなの?じゃない、そうなんですか?」

「ああ。人間は色々とクセがあるからな。特にお前みたいな成体の男は、骨張ってて筋張ってて硬くて食えたものではない」


 ……え。ソレって食べた事ある、んじゃ。


「他にも、薬だとか何だとかで人間の肉は汚れている。食ったら腹を下すのだ」


 化合物とか添加物、ですか。

 まあ確かに身体にイイもんじゃないよね。

 野生動物がそんなん食べたら一発でぴーごろごろだよね。


「だがお前は美味そうだな。蜜の様な匂いがするし、感じる魔力も清涼だ……齧ってみて良いか?」

「いやいやいやいや止めて下さいオネガイシマスそんなんされたら死んじゃいますからっっ!!」


 そんな馬鹿デカイ口に齧られたりなんかしたら腕一本どころか身体半分持ってかれる!!

 痛すぎて死ぬるよ出血多量でぽっくり逝っちゃうよその前にショック死するよ!!

「そうか……残念だ」

 いやそんなホントに残念そうにしないで下さい。心臓に悪いですから。


「まあ良い。トコロで迷子」

「……いやちょっとその呼び方は……」

「迷子を迷子と呼んで何が悪い」

「……忘れて。お願いだから忘れて下さいオネガイぷりーず。」

「注文が多いな。では此処が魔獣の住処だとも気付けず迷い込んでしまった間抜け」

「…………うんもーいーです好きに呼んで…………」

「そうか。では間抜け。もう直ぐ日も暮れる。此処は夜行性の獣の方が凶暴だからな。我等が塒へ招待してやろう」


 ……えー、と。


「いい、の?」

「お前を其処等の悪食な奴等に喰わせてやるには少々勿体無い」

 …………ソレって裏を読めばネグラにご招待→今晩のごはん?

「安心しろ。さっきも言ったが我は人は食わん。我が愛し子に食わせるつもりも無い」

「……あ。さいですか……」

「という訳で其処から降りろ――――『ちいさいの』。今からこの間抜けは我等が客だ。遊ぶのは構わんが噛み付くなよ。人の血肉は汚いからな」

「はーいかーさまー!」


 き、汚いって。

 なんかそんな言われ方すると何か月もお風呂に入ってない汚ギャルみたいな。

 しかもイイ子なお返事返して下さってますし。

 遊ぶって何あたし『と』なのかあたし『で』なのかそこんトコ具体的におせーて。


 ……はふぅ。


 まあ、取り敢えず今日の寝床は確保?……うん確保、とゆー事で。

 お邪魔してみますか、魔獣のネグラへ。




     ~・~・~・~・~




 その虎の母子は、銀天琥とゆー魔獣らしい。

 銀天琥、とゆーのは、この世界『ラグディシア』に生息する魔獣の一種でも、とってもレアな魔獣だそうで。

 特徴は銀の毛皮、象牙の様な牙。そして空を駆け吹雪と雷を纏うという特殊能力。

 世間一般の魔獣とは一線を画すくらいに強く、滅多に……というか殆んど人前に姿を現さない。

 そして、魔獣なのに人を襲って食う事はしない、っていう魔獣の中では異端な性質を持つ。

 故に、金の毛皮に翼を持つ、金天狼と呼ばれる魔獣と合わせて、伝説の双魔獣、なんて呼ばれているらしい。


 で。 


 どんだけ伝説級な魔獣でも獣は獣。寝床なんて洞窟か地面掘ったアナグラが定番だ。

 そして彼女等のネグラも例に漏れず岩穴だった。

 …………ついでにソコには既に2匹の魔獣がいなすった。


「ねえ『まぬけ』。あなたキレイな毛並みをしているのね。ほんの少しだけど花の蜜の様な良い香りもするし。いつもどんな手入れをしているの?教えて下さるかしら?」


 いやそんな事言われましても。

 この身体になってまだ1日経ってないし。匂いなんて解らん。


「なーなー『まぬけ』ー。人の縄張りってどんなんなんだ?美味いモンいっぱいあんの?」


 いやですから。

 コッチ来てまだ1日経ってないんですってば。

 村とか町とかまだ1回も見てないんですってば。


「『まぬけ』は色んなトコに行った事ある?どんなトコに行った事ある?ねえねえねえ」


 行った事も何も。

 この森が初めてでございますよ他なんか行った事もありませんよ。

 だから聞かれても何もお話し出来ないのでございますですよ。


「いいや、愛し子達。正確には『まぬけ』は人では無いよ」

「「「え?」」」


 ………………うわお。

 おかーさま良く解りましたね。

 てゆーか何で解ったんですか。


「『まぬけ』は人でないのお母様?」

「えー?でもちゃんと2本足で歩いるし指も5本だぜ?獣の耳も尾もないし」

「妖精族みたいに耳尖ってないし、竜人みたいな鱗もないし。前に見た人と同じ形だよ?」

「見た目は確かにそうだな――――だが愛し子達、『まぬけ』をよぉく見てごらん」


 ……あ。痛いイタイ。

 つぶらな瞳がじぃっと凝視すっごい痛い。

 やめてそんな純粋な目で見ないで!!

 あたしの汚れた部分暴かないで!!


「……まあ。まあまあまあ。なんてキレイなのかしら、『美味しそう』だわ」

「っ何だお前?何で俺達より、母さんよりも魔力多いんだ?」

「うわあ。信じらんない。良くソレで身体破裂しないね」

「気付いたかい?――――我等魔獣と同等の魔力を持つ人間ですら数える程しかおらんのに。人間が有するには有り得ない魔力の量だろう?」


 お、美味しそう、って。破裂、って。

 魔獣一家の皆様より魔力多いって。

 なんか物騒な単語並びますね。


「其れに――――その目と髪の色。『まぬけ』、お前は妖魔族だな?」


 ――――…………はい?

 ようまぞく、ですと?

 ソレって、妖怪・魔物・魑魅魍魎エトセトラえとせとら、の事?


「えっ『まぬけ』妖魔族なのか!?」

「ゼンゼン解りませんでしたわちっともそんな感じしないのですもの!!」

「うわーうわー初めて見た!!人型の妖魔族!!」

「ちょっと待ってドコをどーしたらあたしが妖魔!?」


 あ、思わず一人称までポロっと素が。

 だけどドナタもソコんトコに気付かずに、あたしのセリフに首を傾げた。


「妖魔族でなければ何だと言うのだ。黒髪黒目と言えば妖魔族、しかも高位の魔人族や堕天族の一部にしか出ん色だぞ?」


 え。


「えええ、ちょちょちょっと、ちょっと待って」

「何だ」

「……黒髪黒目は妖魔族、って……黒髪黒目の人は、この世界にはいないの?」

「…………む?『この世界には』、だと?」


 ………………あ。しまったまたやった。


「『まぬけ』、お前まさか異界の者か」

 ……って、あんれぇ?

「って、言う事は。この世界には『異界』って概念があるんですか?」

「まあな。召喚術の事故やら失敗なんかで異界の人を喚んでしまうというのは、昔は多々あった事だからな」

「……そ、そうなんだ……」


 ………………てゆーかあたしの名前『まぬけ』で決定なのですか決定なのですねおかーさま。


「――――ふむ。其れでも、人が内包するにはその魔力はあまりに膨大過ぎる。『まぬけ』、お前は一体『何』だ?」


 なに、と。

 言われましても。


「……あー。いや、実はかくかくしかじかで」

「かくかくしかじかって何?」

「意味わかんねー」

「話せない事なんですの?」

「噛み付いて良いか?」


 はいスミマセン。

 謝りますジャンピング土下座だってしちゃいます。

 だからおかーさま牙剥きだすのやーめーてーぇ。


「………………元、人間です」

「「「もと?」」」


 あらお子様達一斉におんなじ方向に首を傾げてかわゆらしい。


「……さて。人間を元にした者など、ゾンビやスケルトンといったアンデットか、妖魔族との契約に失敗して異形になった者しか聞いた事が無いが」

「ヤメテ下さいそんなんになった覚えはナイです」


 某ヨミヨミの実を食べた鼻歌おじさんは愛すべきキャラだが。

 自分があんなんになりたいとは微塵も思いません。


「じゃあ何ですの?」

「………………いちおー、階梯は神位、らしいです」

「かいてい?海の底?」

「しんいって何ですかかーさま?」


 きょとん、とする様が愛らしい。

 抱き付いてイイですかまふまふしてイイですかお子様方。

 ……うわ。しかも何でおかーさまそんなに驚いてるんです。


「――――…………人が神になる?死後に亜神に祭り上げられるのなら兎も角、生きた人が神になど、聞いた事が無いぞそんな事」


 ですよねー。

 さっきアンデット系か契約失敗の異形しかいないって言ってましたもんねー。


「へ?」

「は?」

「かみ、さま?」


 いやんお子様方見つめないで。

 あたしコレでも恥ずかしがり屋なの。

 ……って冗談はおいといて。


 説明、やっぱ必要ですか必要ですね。

「ぢつはですねー……」


 あたしが元いた世界で事故死した事。

 その事故が、本来なら起こるハズじゃないモノだった事。

 その所為で、あたしが文字通り『消滅』しなきゃいけなくなった事。

 そんなあたしに責任感じちゃった(?)神様の最高位の管理者ってのが、あたしを神様にしてくれた事。

 神様になった上に起こった事故の所為で、元いた世界にはいられない事。

 そして穴っぽいのにイキナリ蹴り落とされて、気が付いたら森の中だった事。


「……そっか。ソレで『まぬけ』はアソコにいたんだ」

「……イキナリ蹴り落とされてって。なんつーか、すっげ乱暴なんだな。神様より上ったら創造神様だろ?」

「……災難、でしたのね」


 うんもうホントに。

 一生分の災難だったと思うよコレ以上の災難はのーせんきゅーだよ。


「……異界があるというのも、時折召喚事故で異界のモノがコチラに跳んでくるというのも知ってはいたが。まさか神となった者がやってくるとは、な」


 しみじみ言わないでおかーさま。

 神様っても成り立てとゆーかベースは人間だったりするんだから。


「……なあ、『まぬけ』」

「んえ?はいはい何です?」

「……その、あの、な?」

「うん?」

「…………悲しく、ないのか?」


 ふえ?

 一体ナニが?


「だ、って。お前、イキナリ死んじまった、んだろ?」

「うんまあ。即死だったらしいのですよ」

「……行き成り、神様になったんですわよね?」

「うん。拒否は却下で実力行使されましたよ」

「…………いきなり。コッチの世界に蹴り落とされた、んだよね?」

「ソーデスネあんにゃろうドモ今度会ったらタコ殴りにしてやるもー2度と会えないでしょーけどね」


 ……あれ?

 なにゆえお子様方ソコでしょんぼり?


「……お前、親兄弟は」


 ―――ああ。

 そーゆー事、ですかおかーさま。


「父親は小さい時に余所に女作って蒸発しました。母親とは色々あって関係悪化して今じゃ絶縁状態です。弟が1人いましたけど、仕事の関係で引っ越し繰り返してるウチに疎遠になってもう10年以上会ってないですね。友達、も。関心ないというか上辺だけというか何というか。深い付き合いあったのなんて1人もいないし。とゆーか自分存在してた事すら消去されてるしもう2度と戻れないんで」


 だから、ってワケじゃないけど。対人関係で悲しいとか寂しいとかはあんまり思ってない。

 ゲーム出来ないとか漫画読めないとかネットサーフィン出来ないとかはすっごく悔しいけどね!!


 あれ?

 あれれれ??

 何故ナニどーして沈黙?


「……お前、ほんとに、悲しくないのか?」

「そーですね。然程思ってません」

「……会いたいとは思いませんの?」

「そーゆー欲求は浮かんでこないですねぇ」

「……『まぬけ』は自分のとーさまやかーさま、嫌いなの?」

「嫌いじゃないですよ?ただ、別にコレと言って何とも思わないだけで」


 うんだからソコでなにゆえ沈黙。


「――――随分、殺伐としているのだな、異界の人は」

「いやいや自分はまだまだ可愛い方ですよ?親が子を捨てる、子が親を殺す。人間社会にはそんなんけっこーありますからねぇ。まあ、人間皆が皆そんなんばかりじゃないですけど」


 けど、同種で殺し合うのは人間だけの特性だ。

 少なくとも地球ではそうだった。

 イイ人も優しい人もいるけど、ムカつくヤツも屑みたいな悪人もいる。


「ソレに、多分神位に上がった副作用も、あるんだと思いますよ」

「……副作用、だと?」

「ええ。物事の捉え方とか、人の魂に上位の神様の力を混ぜた事で、多少変わってる、みたいです」


 そう。そう思わないとおかしいと思う事が満載だ。


 生前あたしはふつーのおばちゃんだった。

 小学生の時にいじめにあって不登校、その頃本屋で出会った男の子同士のアレなアンソロジー本で腐った女子の道を一直線。

 中学時代は厨二病持ちのイタい子にまで発展し。

 トーゼン現実の男なんかにゃ…いや、ちょっとはあるけど、漫画やゲーム程には興味が沸かず。

 仕事先ではあたし生粋のヲタクです、と同僚はおろか上司にまで暴露して。


 だけどソレでも、ふつーのおばちゃんだったのだ。


 趣味がアレな所為で、引きこもりとまではいかないけど人間関係は薄かったし、事無かれ主義でもあったし、熱しやすく冷めやすくもあったし、元々淡白でもあったし、多分世間一般な考えからはかなりズレてるんだろうけど。


 感情希薄、ってワケじゃないんだろうけど、ソレに似たよーな、事は起こってる気がする。


 でないと今のあたし自身のこの状態の精神状態が納得いかん。例えあのギャル男ドモにあたしの死んだ理由とか神の上位に上がってもらうとか異世界に落っこちてもらうからとか前置きされていても。


 ふつーなら、色んな意味でパニクるハズだ。


「――――確かに。神々の精神構造は、生物とは違うのだろうな」

 だからと言ってあたし神様の自覚全くナッシングですが。


「………………かーさま!!『まぬけ』をおとーとにしてもいーですか!!」


 ………………はい?

 一体ナニ言ってくれちゃってんのこのお子様。


「あら、宜しいんではなくて?毛並みのお手入れ方法も聞きたいし。私からもお願いしますわお母様」

「元々人だったんだよな?料理ってできるか?出来るよな!作ってくれよ明日!!」

「いやいやいやいや。ちょっと待って下さいよお子様方」


 なぜなにどーしてそーなる?

 そりゃもー人間じゃないけどさ、あたし。

 だからってもふもふ様とは違うのですよ。町に出てみたいのですよ野宿よりもふかふかベッドが恋しいのですよ。


「ふむ。異界の神を養子にか。面白そうだな、中々無い経験だ」

「……って。おかーさままでそんな事」

「じゃあおとーとにしていいんですねかーさま!?」

「まあ、そうだなぁ」

「ちょ、だから待っ」

「『ちいさいの』の弟なら、俺にとっても弟だな!!」

「私の事はお姉様とお呼びなさいね?」

「いやだからですね」

「「「イヤなの(か)?」」」


 ………………あう。

 コレはどーやって遣り過ごすべき?

 っておかーさま。おもしろそーに見てないで助けなさいよ。


「………………ちなみに、お子様方のお年はお幾つで?」

「後1年もすれば成体、独り立ち出来る事になりますわ」

「とゆー事は。現在人間で言うトコの、未成年、大人の一歩手前、なワケですね?」

「ああ。けど『まぬけ』はまだ幼体だろ?身体は成体に近いけど」

「人型って、一人前って言われるまでだいたい15年くらいかかるんだよね?」

「そーですけど……お子様方、忘れてません?」

「「「何を(かしら)?」」」

「ワタクシ人間から神様モドキにジョブチェンジしてるのですよ。」

「「「ソレが?」」」

「……ジョブチェンジして若返ってる、のはいちおー自覚してるんですがね。ワタクシ死んだ時の年齢は32歳。自分で自分の世話が出来る成人になって12年。世間一般じゃ中年のおじちゃんおばちゃんと呼ばれても仕方ナイ年頃なのですよ」

「「「………………え?」」」


 えってちょっとナニその反応えって。


「『まぬけ』って素でボク達よりも年上なの!?」

「ぜってー15、6年くらいしか生きてねぇって思ってた!!」

「しんっじられませんわ!!如何してそんなに若くいられますの!?」


 いやだからソレはジョブチェンジの所為ですって。

 つかおかーさま何故ソコでブハッて吹くの。


「くっくく……い、愛し子達、良く覚えておおき。人は見た目によらぬのだよ。魔術師と呼ばれる人の中には、『まぬけ』と変わらぬ見目でありながら3百年を生きる者もいるからね」


 ……いやそれはちょっと若造りし過ぎなんじゃ……


 ちょっとツッコミさせてもらおうかと思ったけども。

 そんな事を面白そうに言うおかーさまにお子様達が「はーい」とイイ子な返事を返して、あたしはしゅるしゅる小さくなるのだった。




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