18・さてとうとうだと思ってたら何でこんな厄介事が
―――その日、あたしは夢を見た。
夢の中で、おかーさまと話をしてた。
メーレがまだ『おおぐい』だった頃の、あの森にいた頃の。日常のひとコマだ。
『我等銀天琥はな、魔獣の中でも少し、変わり種なのだ』
『変わり種?なんで?』
『我等はな、良く縄張りから出るのだ。気に行った処があれば、そのまま移住もする』
『え。でもそしたら、力落ちちゃうんじゃない?だいじょぶなの?』
『まあ、力が落ちても其処等の人や魔物には負けんが……だから、我等は人と契約を交わすのだよ』
『けいやく?』
『そうだ。己に合った魔力を持つ人と契約を交わし、その魔力を食わせてもらう。代わりに、その人と周囲の人等を助けるのだ。ちなみに我の契約者も人でな。いや、あやつの魔力は美味かった』
『……おかーさま、しつもーん』
『ん?何だ』
『魔力食べられる人はどーなんの?寿命縮んだりとかしないの?』
『せんな。大丈夫だ、ただ少し、扱う魔術の威力が落ちるくらいでな。だが代わりに魔獣を使役する事が出来るのだ。損得で言えば得の方が多かろう?』
『んー確かに。だけど変わり種?他の魔獣はそんな事しないの?』
『そうだな。人を喰わんどころか関わりを持とうとする魔獣など、我等銀天琥と金天狼の一族のみよ。だから『まぬけ』、もし我等以外の魔獣に出くわしてしまったら、完膚なきまでに叩き潰すのだぞ?』
『……た、叩き潰す、って……』
『基本魔獣は歪んだ質の者が多い。青狂鳥や緑石蛇が良い例よ。彼奴等からしてみれば、我等の方こそが異端だからな』
―――― 特に灰餓犬の一族には容赦するでないぞ。彼奴が縄張りから出るのは激しい飢餓に襲われた時。理性の欠片も無く、たった1日で人の街を食い荒らすからな。 ――――
ぱち、と。
そんなおかーさまの言葉を最後に、目が覚めた。
寝起きの悪いあたしには珍しく、ホントにすっきりパッチリ。
………………懐かしい、夢だったんだけど。
なんか内容が、イヤンだった。
ちろん、と時計を見てみたら、5時40分……ををう目覚ましより早く起きたよ。
ぬーん、と背伸びして、枕元で丸くなってるメーレをひとつ撫でる。
ソレから、壁際でちっちゃくなって寝てる金髪を起こさない様に、そろーっとベッドを出て。
……仕方ないじゃんベッドひとつしかないんだから。ふとんも一式しかないんだから。
ゆっくりと洗面所に入り、ぱしゃぱしゃと顔を洗ってホッとひと息。
腕輪から某チョコボ頭の服を取り出し、ソレを着る。
そして、洗面所から出たら。
『う~ふぁよ~まぬ~』
「ん、おはよ」
メーレがのびーってしてました。
その仕草の可愛さに、思わず和んで――――ふ、と。何かが引っ掛かった。
もしかしたら、あんな夢を見たからかも、知れないけど。
なんか、ミョーにイヤな予感が、するんだよね。
……まあ、あたしの勘なんてメーレに比べたらゼンゼン当たらないんだけど。
ちっちゃく息を吐いて、ベッドへ直行。
見下ろした先には、ぬくぬくと眠ってる金髪。
コイツを買ったあの日から、今まで既に5日経ってる。
その数日の間、どんだけあたしが今までの主と違うか、身にしみて解ったんだろう。だからこその、この緊張感のなさ。
同じテーブルで一緒にごはんを食べて、同じベッドで寝て。
空いた時間は部屋でのーろのーろと荷物の整理しながらダラダラ。
たまーに本屋もしくは図書館に行って、買ったり借りたりした本をのほほーんと読む。
ごはん時以外は部屋から出ずに、のんびりまったり、時間を潰すあたしとメーレの傍で。金髪も最初の方こそ所在なさげにしていたけど、3日目には慣れてしまったのか、あたしが読み終わって積み上げた本を、部屋の端っこで静かーに読む様になった。
まあそんな、慣れたとゆーよりある意味開き直ったんだか解らない金髪を、あたしは見下ろし。
金髪が頭から被ってるシーツの端をむんずと掴んで。
「そぉーいっ、っと!」
一気に取り上げる!!
「ふぅえあっ!?」
あ。しまった下のシーツまで掴んでたよ。
ベッドの下に転がすつもりなんてなかったの。ゴメンねvv
『…………いやゼッタイわざとだろマヌ…………』
いえいえそんな事はございません事よ?
「っ、なん、何だ!?」
転がされた金髪は、慌てて上体を起こしながら周りをキョロキョロと見回し。
見下ろすあたしにようやく気付いて、盛大に顔を顰めた。
……ゴアイサツだな、おい。
「オハヨウ」
『おはよーさーん』
「…………」
ふ、ムシですか。
「オハヨウ」
『……ま、マヌ、落ち着いて。な?な?』
うふん?あたしはちゃんと落ち着いてるよ?
『…………ぜってぇウ…………イヤイヤ何でもゴザイマセン』
ちょっと気にはなったがスルーしよう、うん。
「オハヨウ、は?」
「…………………………オハヨウゴザイマス」
人の寝床半分占領しておいて、ほんっとーにゴアイサツだな、おい。
まあイイ。
起きたんなら行動だ。
「おれ今から出掛けるから」
「…………?」
あ、なんか変な顔された……って、ああ。もしかして時間?
ココ数日のダラダラ生活、あたしが起きるのは早くても10時だったもんね。
今の時間はまだ6時。この世界の世間一般では早くない起床時間。寧ろ遅い。そしてあたしが起きるには、早過ぎる。
だけど今日は起きなきゃならない。何せ今日なのだ。
「闘技大会の会場に行ってくる」
「………………???」
あれ。なんか余計変な顔されたぞ?
あたしが大会の会場に行くのが、そんなに変?
「…………興味、無かったんじゃないのか」
まあ確かに興味なんてないけど。
「仕方ない。早めに出て着いておかないと、待合室にすら辿り着けなさそうだから」
どーせ今日も道はあの人間ダンゴに埋め尽くされる。そーなる前に動かなきゃ。
「………………まちあい、しつ?」
「今日1日、出場者は全員ソコで待機なんだと。進行速度とか突発的な何かとかで、試合の順番変わるかも知れないからって。しかも破ると負戦敗だってさ」
いやだから何でソコで唖然。
「…………しゅつじょう、しゃ?」
「うん」
あれ、言って……なかったよね今までマトモな会話ナシングだったんだから。
「………………闘技大会の?」
「うん」
「……………………お前魔術師じゃないのか?」
なにゆえ。
「まあ、人より上手い自覚はあるけど。どして?」
「……………………オレの狂戦士化を止めただろう。指輪と首輪を経由して、オレの魔力を鎮静化させた」
『え。マヌ何時の間にんな事してたんだ?』
うん?いやあたし指輪の石に血ぃ垂らした以外何もしてないんだけど。
そーいやあの時コイツの魔力霧散してたっけ。てゆーかやっぱり狂気化だったのね。しかもバーサークって。
「……ソレには、狂戦士化に費やした以上の魔力で抑え込まないといけない。オレは魔族としては魔力が少ない方だが、ソレでも普通の人間よりはある――――そのオレの狂戦士化に気付き魔力を抑え込んだお前が、魔術師じゃないというのか」
うげ。
もしかしてアレ、そんなに高度な魔術だったの?
『…………俺知ーらね』
あたしも知らんかったわ。
そして金髪の胡乱な目が痛いイタイ。
「……魔術だけで渡っていけるホド、世の中甘くはないんだよ」
ヒラヒラと手を振りながら、ベッドの下に隠れてるカゴを引っ張り出す……何かあった時の為に、腕輪に収納せずに置いといたふた振りの刀がこの中だからだ。
そして、あたしが手にした細長い得物を見た金髪は、変なモノを見た、とでも言う様に目を丸くした。
「…………棒?」
『……棒、って……』
……いや確かに見た目棒っきれだけどさー……コレってばどっかの神社に奉納されてる御神刀みたく鍔が無いし……でもせめて杖とかさー……
「いんや、刀っての。分類としては、片手剣、かな」
きん、と。腰に差した刀を少しだけ、抜く。
現れた白銀の刃に、金髪の目は更に丸くなって。
「…………剣…………」
「まあ、とゆーワケで。留守番宜しく」
「え?」
「朝と昼はライラさんに頼んどく。多分夕方まで戻って来ないから」
「待っ…………!!」
ひらん、と手を振りながら部屋を出ようとしたら、くん、っと引っ張られた……何が。腰布が。
振り返って視線を落してみれば案の定。布を掴む青白い手。
「なに?」
「…………あ…………」
……自分で引き留めといて何でそんなうろたえてんの。
「…………そ、の…………留守番?」
「そだよ」
ソレ以外の何をしろと。
「…………一緒に行くのは、駄目なのか?」
………………はい?
着いてって何すんのアンタ。チケットも無いのに。てゆーか奴隷って入れんのメーレ?
『や。俺に聞かれても』
でーすーよーねー。
「…………確か、パーティの仲間などは、共に控えに入れた筈、なんだが」
ぐっ、そ、ソコで上目遣い……!!
何だコイツ良く見ればカワイイじゃないかバリタチなイケメンのクセに!!
『マヌ、マヌ。出てる。モーソー出てる』
いやだってメーレ!!ココで出さずに何時出せと!?
「………………駄目、か?」
ぐはっっ!!くりてぃかるひぃっと!!!!
お前ツンじゃないのかデレなのかそんなに襲ってほしーのか!!
『……あーハイハイちょっと落ち着こうなマヌー』
ぐさっ。
あうちっっ!?
てめこらメーレっっ、今思いっきり爪立てたっしょ!?
『何の事ー?ってゆーかほらほらマヌ。金髪が返事待ってんぞー?』
うむぐ……後で覚えてろよ。
ちろん、と視線を落としたら……うをう、じーっと見られてる見られてる。
……見るなあたし。コレ以上見るなあたし。視線を逸らせ。コレ以上メーレに爪を立てられない為に!!
「……ちなみに、何で着いてきたいの」
「…………興味がある」
「大会に?」
「戦いは好きだ……その剣、にも……興味が、ある」
ソレは観戦が好きなのかソレとも自分も混ざりたい派なのか。
「あー……妖魔族も剣を使うの?」
「…………其々だ。徒手で戦う者もいれば、魔導を得意とする者もいる……オレの得手は、剣だ」
え。じゃあコイツ剣士なのか。
あー、だったら。大会見たい、ってのも。解らない、でもない、かも。
「………………一緒に行きたい?」
「行きたい」
……そ、即答。
だだだだからそんな捨てられそうな仔犬みたいな目で見ないでぇぇえ。
『どーすんだマヌ?』
そしてメーレお前はその爪しまいなさいっ!!
…………でもコイツを人がたっくさんいるトコに連れてくのはなぁ…………
うーん……とりあえずー、は。
「……カゴん中に、タートルネック、襟の高いの入ってるっしょ。ソレ1番下に着て、紋様と首輪見えない様にして」
「…………この、黒いのか?」
「うんソレ。あと帽子被って耳隠してもらうから」
「………………解った」
あたしの言葉に、何を感じたのか。だけど文句も言わず金髪は赤香色のシャツを脱いで、あたしが部屋着として何枚か出しておいた黒のタートルネックに手を伸ばす。
心なし、嬉しそうに見えるのは気の所為か。
そんな金髪を横目に見ながら。
コイツをホントに会場の中入れて、あたしが大丈夫なのかしら、なんて思うのだった。
~・~・~・~・~
あたしは甘かった。
宿の近くはそーでもなかったけど、会場になる闘技場に近付くにつれて増えていく人、ひと、ヒト。
一般の席はみんな自由席だからって、誰よりも早くイイ席を取ろうと朝っぱらから開場時間を待ち侘びる人の群れ。
…………確かおっさんもおねーサマもアニマルカルテットも入場券は持ってるって言ってたから、きっとこの人の波のどっかにいるんだろう。
そんな事をゲッソリしながら考えて、ぎゅーぎゅー押される中を何とか掻き分け前へと進む。
そして途中で脇道に逸れて、ほんの少し……入場口向こうなのにホンットーにほんの少ししか減ってない、関係者専用の裏口に辿り着く。
ココで1回深呼吸。人の波に揉まれて崩れた身だしなみを整え、被ってた帽子を再び目深に被って。
ちなみに、被ってるのはつばのある円筒形のニット帽、オスローハット、なるモノ。服と同色。被ってる理由は、ちょっとでも顔を隠す為、だったり。
ついでに言えば、何故か荒事時はこの某チョコボ頭な服が定着しつつありますが。気にしないでおこう。
ちろん、と横に目をやると、金髪もおんなじ様に、ウンザリした顔で帽子を被り直してた。コイツの帽子も上着の色と合わせた耳当て着きのオスローハットで、上手い具合にあの尖った耳が隠れてる。
ソレを見届け、次にあたしは立ってる赤っぽい鎧の兵士さんに声を掛ける事にした。
うぬ、ナイスミドルのオジサマだ。ちょっと筋肉隆々だけど。こーゆー人が華奢な美少女風に押し倒されるってのもげふごふんっっ。
『マヌ。お前今何考えた?』
……イエイエ何デモ。だからその爪しまって~ぇ。
「す、すいませーん。今日の試合に出場予定の者なんですけどー」
「ん?ああ、本戦参加者だな。エントリーの番号札は持ってるか?」
「はい、コレですよね?」
ぴらん、とポーチに手を突っ込んで出したのはあの悪魔の数字入りのカード。
ソレを見て、赤い兵士さんは近くにいた茶色い兵士さんからリストっぽいのを受け取って、ペラペラ捲り……
「――――そうか。君が、噂の『至上最強の低ランカー』か」
何その噂って。てゆーか何その至上最強の低ランカーって。
思わず金髪と顔を見合せてしまった。金髪の方も、ワケが解らずあたしを訝しげに見るばかりだ。
「君だろう?バルグを倒したというのは。アイツとは旧知の仲でね。Aランカーを倒したGランカーがいると、私達騎士団の中でも話題に上がっているよ」
騎士団!!
コレまたファンタジーには王道の単語が出てきた!!
てかこの人騎士の人?ふつーの兵士さんじゃなくっ?
何でそんな人がこんなトコで手続きなんてしてんの!?
「ソレで、君の後ろにいるのは仲間かい?1人かな?」
「は、はあ、まあ。1人です」
「そうか、知っているとは思うが、出場者と共に会場裏に入る事が出来る付添い人は4人までだ。後から通行証の発行は出来ないぞ。本当に彼の他にはいないのかい?」
あら、4人?そんな多くても大丈夫なの?
「いません。連れは彼1人です」
「そうか。ではコレが同行者用の入場許可証だ。首から下げる様にな。出場者である君はコッチ。カードの裏にエントリー番号を入れてくれ」
手渡されたのは……えー、なんか地球でも良く見た事ある、首から下げるカードケース。
言われた様に、黄色いのが入ったのを金髪に渡し、あたしは赤いのが入ったソレにエントリー札を入れて首から下げる。
ソレを見てうぬと頷いた騎士さんは、にっかり笑って
「今年の無差別級にはウチの若いのも1人出るんだが、もし当たっても遠慮無く叩き潰しに来てくれて構わないからね」
「……はあ」
『いーのか?マヌだったらホントにツブせるぞ?』
いやいやメーレ。ツブしませんしツブせませんから。
「君の試合を楽しみにしているよ。頑張ってくれ」
「…………どうも」
へこり、頭を下げて裏口を潜る。
中はやっぱり人がたくさんいた。まあ外よりゼンゼン少ないけど。みんな忙しそうにバタバタしてる。
…………そして金髪。視線痛いんですが。
「言いたい事があるなら言いなよ」
じー、っと。穴開きそうなくらいあたしを見てた金髪は。ほんの少し考える素振りを見せた。
そして。
「…………お前、Gランカー?」
……まあ確かに、最低位のランカーが本戦出場なんて、ふつーは無いよね。
「ずっと森にいたからね。実は街に来るのもココが初めてだったりするんだよ」
あ。ナニその驚いた様な顔は。
「………………お前、本当に何者だ?」
ナニモノ、って言われても、ねぇ?
「タダの歌えて踊れて戦える旅人さんだよ」
「……………………」
『………………いや確かにマヌの歌も踊りも上手いけどさー………………』
あ。痛いイタイいたい。その白々しい視線が痛いわっっ。
しかも何メーレまでそのジト目はっっ。
~・~・~・~・~
「誠に申し訳ありませんが、大会は無期限延期となりました」
闘技場の内部、ちょっとした広さの部屋の中。
あたしと同じ様に集まった出場者達の前、出てきた大会執行役員みたいな人が、開口一発そう言った。
途端、ザワリとざわめく出場者達。あたしもイキナリの事に開いた口があんぐりだ。
「ど、どういう事だっ?」
そんな中、役員さんに1番近いトコにいた、赤毛の戦士が声を上げる。
役員さんは彼を見て、それからくるりと他の人達を見て……鎮痛そうに、口を開いた。
「先程、当国の情報部から、報告が入りました」
情報部……こんなふぁんたじーな世界でもあんのかそんなんが。
「シュトラの森方面より、グレイドッグの群れがシュリスタリア付近に移動中との事です……その規模、凡そ準S級」
絶句。
役員さんの言葉を聞いた誰もが、そんな感じになった。
てゆーか、準S級ってナニ。
「…………そ、それは、まさか…………キングが、いるって事か?」
ウサギの耳つけた厳ついおっさんが、聞く。その声は掠れてた。
「……定かではありませんが……恐らく、番いであるかと」
あ。今度は沈黙だ。
「じょ、冗談だろ!?準S級の群れに、番いだと!?」
「クイーンまでいんのか!?」
とか思ったら、イキナリドッと騒ぎ出した。
『…………なあマヌ。じゅんえすきゅうって何だ?』
知るワケないじゃんあたしが。
『じゃあキングとクイーンって?』
だから。あたしが知るワケないって。
「……金髪。準S級ってナニ」
「…………お前知らな…………いや、等級に準が付くのは魔物が群れで行動していた場合だ。規模としては、グレイドッグの場合10体程の小規模ならC。準S級は……およそ数百」
げっ。そんなでっかい群れがあんの。
『じゃあじゃあ、キングとクイーンって?』
メーレそんな無邪気そうに聞かないで。すんごいイヤンな予感しかしないのに。
「…………因みに、キングとクイーンって?」
「………………グレイドッグは魔獣の眷属だと言われている。しかも、とても厄介な魔獣のだ」
うん。予感が確信に変わりそうだ。
「………………まさか灰餓犬とか、言わないよね?」
「………………」
何その無言!?そして何故視線逸らすの!?当たりなの!?ねぇ当たりなの!?
「正規軍は既に編成を終え、討伐の為進軍致しました。正騎士団、並びに魔術部隊の準備ももう間も無く整います」
コソコソとあたしが金髪と話してる間にも、役員さんの声は続く。
「ランカーの皆様にはコレより、グレイドッグ討伐隊に是非とも参加して頂きたく存じます」
ま。そらそーですな。
ココにいるのは流石本戦に出場するってだけあって、かなり腕の立つ人達ばかりだ。
何百っていう数の魔物が押し寄せてくる。そんな時に、悠長に腕試しなんてやってる間なんてありゃしない。
「……け、けど、キングなんて」
「か、かないっこねぇよ!」
だけど皆さん及び腰。
……確かに、ね。魔獣なんて災害級、相手にしたいなんて思うのはドコの酔狂モノだ。あたしだってやりたくない。
まあ、でも。
「仕方、ないかなぁ」
『だなー』
だからって、街を見捨てるワケにもいかんでしょー。
今朝の夢、きっとコレの事指してたんだろーなー。
ココにはライラさんもリチアちゃんも、トマさんだっているし。
グランさんだって、利益を追求する商売人にはあり得ないくらい、バカ正直なイイ人だ。
あたしはちっさく息を吐く。
そして、ぴ、っと手を上げた。
「質問いーですか?」
「はい」
「ドコで迎え討つんですか?」
「リュリスタリアの東門、直ぐ開けた平地で陣を組む予定です」
速攻で返事が返ってきた。
「って、街の直ぐ真ん前じゃねぇか!!」
「…………仕方が無いのです。魔物の群れは、このままいけば明日の早朝にもシュリスタリアに到達してしまいます。準備を十全にするだけの時間も無く、陣を敷いて迎え討つに適した場所も、あそこ以外に無いのです」
誰かの叫んだ言葉に、役人さんは鎮痛な面持ちで説明を付け足す。
てゆーか、明日の早朝って。ホント早いな。
――――何で、そんなに近付かれるまで、誰も気付かなかったんだろ?
数百単位の魔物の群れ、なんて。移動するだけでもすごい目立つだろうに。
……ま、いっか。終わり良ければ全てヨシ。その魔物の群れを潰しさえしてしまえば、問題ナイ。
あ、そだ。
「もひとつ、質問」
「はい、何でしょう?」
「おれらランカーはスタンドプレイでイイの?ソレとも誰かの指示に従うの?」
「ソレは俺から話させてもらおうか」
役員さんに向いていた、あたし達の後ろから、声が飛んできた。しかも何かどっかで聞いた事のある声だ。
うーわー、とか思いながら振り向く。
しかして、ソコにいたのは。
「イキナリで悪いとは思うが、アンタ等は取り敢えず俺に着いて来てくれや」
コワモテさんと、銀髪の褐色美人さん(しかもウサ耳付き!!)を引き連れた、あたしの近付いちゃいけない人ランキングのナンバーワン。
『黄昏の鋼』団長、ゲイザー・シアーズ、その人だった。