17・ノリとイキオイでまたメンドーなの買っちゃったよ
「ライラさんただいまー」
『……ただいまー……』
おやメーレ、テンション低い。
『低くもなるっての!俺の言う事さんざん無視しやがって!』
あっはっはでもあたしはあたしの稼いだお金で買い物しただけだしぃ?
『…………はー、も、イーよ…………買っちまったモンはしょーがないし』
がくーっと項垂れたメーレの頭撫でてやりたかったんだけど、生憎今のあたしは両手が塞がってる。
「あらマヌちゃんお帰り……って、マヌちゃん、その人……」
「うん、成り行きとノリとイキオイで買っちゃった」
近付いてきたライラさんが、眉をしかめた理由は多分、あたしが姫抱っこしてる金髪。
奴属の契約が終わった途端、すこーん、といっぺんに大人しくなった。もーあんだけ凄まじい殺気で睨み付けて来たとは思えないくらいに。檻から出してもあたしが担いでも、ウンともスンとも言わなくなったよ。魂抜けた人形、みたく。
ソレと同時に、あんだけビシバシ感じてたイヤンな予感がすっかり無くなって、あちゃーあたし早まったかも?なんて思ったけど。
まあ、メーレのさっきの言葉じゃないけど、買ってしまったモンはしょーがない。
捨てるのは保留にするとして、でも今後どーすればイイか考えないと。
「ってワケでライラさん。ココって奴隷を部屋に入れるのはアリ?」
「……まあ、マヌちゃんがそうしたいんなら。奴隷は荷物だけど生きた人だし、宿代に2000レジェ上乗せで部屋での寝泊まりはしてもらっても良いけど……普通の所有者は、奴隷にそんなお金使うのは勿体ないって、納屋とかにブチ込んでるよ?」
「他は他。おれはおれ。んじゃあ取り敢えず、1泊7000レジェって事で。あ、そーいや今日で宿代また切れるよね。あと5日はまたこの街に滞在する事になったから」
「って事は銀3枚青5枚だね。けどマヌちゃん、持ち合わせは大丈夫なのかい?ランカーの依頼だって、積極的に受けてはないだろう?奴隷の維持は結構掛か……ひぃっ!?」
って、イキナリ何ライラさんすっごい声出して……って、あ。
よっと片手で金髪を抱き上げて、ごそごそポーチを漁った所為か、金髪を包んでた布がはらりと落ちてた。
そして、ライラさんが凝視してるのは、無気力にぼーっとあたしに抱き上げられたままになってる金髪の、胸元。
ボロキレみたいな服の下から覘く、イレズミみたいな。
「……ま、まま、まぬっ、まぬちゃんっ、そそっ、ソイツッ、魔族じゃないか!!」
悲鳴じみたライラさんの声に、しぃん、と店内が静まり返った。
誰も彼もが、あたしを見る――――正確には、あたしが抱える、金髪を。
「な、なな、なんでそんな危ないのを買ったんだいっ!?!?」
顔を真っ青にさせ、ライラさんは云い募る。
だけどそんな危ないのかコイツ?……いやまああたしもコイツはヤバいって思って買ったけど。
「ライラさんライラさん。コイツ魔族じゃないよ」
「ドコがだいっ!?ちゃんと胸に紋様があるじゃないかっ、ソレに耳だって尖って……」
「魔族じゃないよ、奴隷だよ」
「…………っあ」
ハタ、とライラさんが声を切った。
どうやらあたしの言いたい事が解ったみたい。うん良かった。
だけどあたしは、まだまだ警戒してる目でコッチを見てくる周りの人達にも解る様に、ちょっと大きめの声で言う。
「『隷属の契約』は済ましてある。奴隷は首輪を着けた瞬間から人を害する事は出来なくなるし、指輪を持つ主の命令には絶対服従だ。この魔道具は、例え妖魔でも逃げられないし壊せない。だから大丈夫だよライラさん、ね?」
「……っそ、そうだね、うん、確かに。ソレは『奴隷』だったね。ゴメンよマヌちゃん、許しておくれね」
「ん、イイよ。いくら奴隷でもコレはサスガにビックリするだろうなって思ってたし」
引き攣った顔のライラさんに、苦笑いしつつお金を払って鍵を受け取って。
「あ、そうだライラさん」
「な、何だい?」
「後でお湯、持って来て貰っても良いかな。3桶分くらい」
「湯浴みには随分多い量だね。何に使うんだい?」
「ん。コイツ洗う」
「…………は?いやいやマヌちゃ」
「んじゃ、お願いしまーっす」
何かライラさんが言い掛けてたけど無視だ。ムシ。
さっさとコイツ部屋に連れてかないと、周りの視線が痒いし何よりコイツ自身がクサイ。
どんだけ身体拭いてないんだ状態悪いってホンット悪いなあのおっさん。売りモノなんだからちょっとは身だしなみも整えろっての。
たんたんたん、と階段上がって部屋に到着。やっぱり片腕で器用に金髪を抱き上げながら、ドアの鍵を開けて室内へ。
そして、ベッドの上に金髪をぺいっと投げた。
『いやマヌ、サスガにソレは扱いが雑だぞ』
気にするな。あたしは気にしない。
………………てゆーかホンットお人形さんになっちゃったなコイツ。落とされたのに微動だにもしないよ。
と、見下ろしてたらコンコンとドアがノックされた。
「マヌさーん、お湯持ってきたわよー」
うをう早いなリチアちゃんっ。
「あ、ありがとーリチアちゃん」
「いえいえどーいたしまして。ドコに置いたら良いかしら?」
「うん。大桶のあるトコでお願い」
「解ったわ……ソレにしてもマヌさん、奴隷買ったんですって?しかも魔人族の。私驚いちゃった」
「あはは。ほら、おれって弱いからさ。強い奴隷とかいれば、ソイツに戦わせる事が出来ると思って。魔人族って強いでしょ?」
「ああ、そういう事なのね。ランカーって、パーティ組んでも依頼の報酬によっては仲間内で揉める事があるから、買った奴隷を戦力にするって、私も聞いた事があるわ」
よいしょ、なんて湯気の立つ桶を持ちながら、リチアちゃんとしばしの雑談。
やー、でも咄嗟に吐いた嘘がそのまま丸のみされるなんて。てゆーかそーゆー奴隷の使い方もあるんですか。
「ソレにしても、奴隷をぽんと買っちゃうなんて。マヌさん実はお金持ちだったのね」
「いやいや、お金持ちじゃないよ小金持ちだよ」
「小金持ち?お金持ちとどう違うの?」
「小銭をいっぱい持ってます、って意味」
「っぷ、あははっ、そっかー小銭いっぱい持ってる人なのねっ」
「そうそう……あ、ありがとねリチアちゃん、桶。はいコレ、600レジェ。あとコレ、チップ」
「あら、ありがと。遠慮無く貰っておくわ。じゃあ、ちゃんと夕飯食べに来てね?」
「あ、あはは。うんちゃんと覚えておく」
「ホントかしら。マヌさんってすぐごはん食べるの忘れちゃうから心配だわ」
『だよなっ忘れないでほしーよな俺のメシっ!!』
…………はいゴメンナサイ。
そしてメーレお前はホントにタマには食から離れなよ。
あたしは溜息吐きながら、金髪を大桶に放り込むべくベッドに向かった。
~・~・~・~・~
…………今更ながらに後悔してる。
あたしはなんつーモンを買ったんだ。
『だから言ったじゃんか止めとけって』
いやでもあの時はコイツ海か火山口にでも捨てた方が世の為人の為何よりあたしの為、って思ってたんだよ。
ボロキレ同然の服をひっぺがし大桶にブチ込んで、だけど金髪は全くなんにも反応しなかった。
逃げられても暴れられても首輪と指輪で強制出来るけどね。ホンットひとっつのアクションすら見せなかったよ。
で、ポーチから出した石鹸でわしゃわしゃする事数時間。
宿に戻って来たのは昼過ぎなのに、今はもう夕暮れ時だ。
リチアちゃんが持って来てくれたお湯だけじゃ足りなくて、魔法でぬるま湯作ったよ。
やっと綺麗になった金髪をコレまた魔法で温風作って乾かして。
再びベッドにペイってしたトコで、気付いた。
歳はあたし(の見た目)と同じくらい。背はレグレくらい、かな?長い金髪は腰まであった。こんな状態じゃなければもー妄想大爆発だってなくらいのイケメンなんだろーなぁって思う。ガリガリに痩せてるから魅力半減ですが。
けど、何よりも目を引いたのは。
『こーして見ると、けっこーヒデーなコイツ。脚も曲がってるし』
「……ソレだけじゃないよ……」
メーレの言う通り、酷かった。けっこー、って言うより、すっごく。
元々が青白い肌なのに、至るトコロにアザがある。未だに赤黒く変色してるのも多い。
脚の骨も曲がってた。折れたのに放置されて変にくっついちゃった、みたいに。
何よりその胸の文様だ。右半分が焼け爛れてる。ヤケドかコレは……いや、もしかして無理矢理焼かれた、とかか?
ソレに、アーグがおかしい。
普通アーグっていうのは、体内を循環してる力だ。なのにコイツは循環してない。変なトコロで分断されてる。詰まってる。逆流してる。
しかもコイツのアーグ……なんっか違和感が……何だろう……まあいっか。気にするホドの事じゃなし。
てゆーかアーグおかしいトコからなんか魔方陣みたいな跡が見えた。
まさかとは思うけど、魔術の実験か何か?
……ちょっと待てこんな危ない術を開発しようなんておバカがいるの?
しかもその所為でエーテルすらが上手く纏まらずに体組織が崩壊を起こし掛けてるし。
――――…………どうして、こんな状態でまだ人の形を保てて、生きてられるんだろう。
欠陥品で状態が悪い。あのおっさんはそう言った。あたしも、何だ障害者か、って思った。
だけどコレは、ゼッタイに後天的な障害だ。
コイツはきっと。きっと何人もの主の手を渡ったに違いない。
何人も、何人も。時にはサンドバックにされ。時には魔術の実験台にされ。ずっとずっと、虐げられて身体を壊されてそしてあたしの手に渡った。
今は硝子みたいな蒼い目。あの憎悪は、ただ奴隷に落とされたから、だけじゃない。
「…………メーレ」
『…………うん?』
「晩御飯はもうちょっと待って。コイツ治すから」
『…………おう』
肩から降りたメーレが金髪の頭の傍にちょこんと座る。心配そうな目で、金髪を覗き込む。
あたしはベッドの縁に腰掛けて、ゆっくりと金髪の右の手の先から肩を、撫でた。
口の中で小さく紡ぐのは、詩だ。姫巫女の、癒しの詩。
紡ぐ音に合わせてエーテルが、淡く緑に発光しだす。あたしを中心に広がって、2メートル程の魔方陣を形成しだす。
金髪に、僅かな変化があった。
蒼い瞳を瞬かせて、ゆっくりとあたしを見上げてくる。
「……無駄、だ……魔族に、癒しの、魔術は……」
開く唇を、人差し指で留める。そして、今度は左肩から、指の先へ。
戻って次は首から胸。ココは重点的に。焼け爛れた跡は見るからに痛い。
ソレから、腹部。ひときわ大きな赤黒いアザを辿って、曲がった右足。爪先まで行ったら、今度は左の爪先から脚の付け根まで。
「……っあ、く……っっ」
「我慢して。今流れを整えてるんだから」
『マヌの魔法はピカいちだ。絶対治るから、頑張れ』
小さく漏らした苦痛の声に、紡ぐ詩を中断してひと声掛けて。メーレがすり、と金髪の顔に擦り付いた。
「……ぅあ……っ」
詰まってるトコをゆっくりゆっくり通して。分断されてるトコを、繋げ。逆流してるトコロは元の流れに。刻まれた魔術の跡は完膚無きまでに消して。
「――――ふぅ」
息を吐く。同時に展開されてた詩の布陣が、蛍みたいな明かりを残して消えていく。
『マヌ、マヌ終わったのか?』
「うん、一応ね――――さて、身体の調子は?」
する、と頬を撫でてみたけど、金髪はボー然としたままだった。
…………目ぇ開けたまま寝てるんじゃないでしょーねコイツ。
「返事は?ん?」
ぺちぺち、と頬を軽く叩いてみた。
するとボー然、としたままぱちくりとひとつ瞬きして。
「…………痛く、無い…………何でっっ!?」
うをっとう。イキナリそんな、ガバッて起き上がらんでも。
思わず引いたあたしにもメーレにも、気が付かずに金髪は自分の手を見て胸を見て脚を見て。
「……治っ……脚も、胸も……っ?如何して……神聖魔術は、魔族には効かないのに……!!」
「ソレって光属性じゃない治癒魔法なら効くって事でしょ」
「なっ……治癒系統は全て光属性の神聖魔術だ!!あり得ない!!」
「いやだから現実を見なさいな。アンタの傷は古いのも含めて全部治したし、さっきのは光属性じゃないよ」
あら、絶句。
だけど詩魔法はホントに属性関係無い。敢えて言うなら『想い』が属性。まあこの世界じゃきっとあたしにしか使えないんだけど。
金髪があたしを睨み付ける。相も変わらす視線が凶器ならあたし今無事じゃ済まないって思う様な目だ。
だけどその中に確かに見えたのは、困惑。
「……お前、一体……」
何が聞きたいのかなんて、大凡は解る。
「アソコ、メインストリートなんだよね」
「……は?」
すっとぼけたあたしの言葉に、金髪は眉を顰めた。
「良く通るんだよねあの道。んでもってけっこー、顔馴染みになった屋台のおじさんとか、いるんだよね」
『あ、そーいやあの串焼きのおっちゃんトコ、今日まだ行ってねーぞマヌ』
あーそーですね今日は諦めなさい。
て、そーじゃなくて。
あの通りはメーレのお気に入りがとっても多いのだ。
店の人も、ほぼ毎日買いにくるあたしに最近は慣れたらしくて、なんとオマケだってしてくれるおばちゃんだっている。
貴重なんだよあたし(の顔)に慣れてくれた人って未だにヒィイって腰抜かすの多いんだから。
「…………」
「なのにアソコで大量無差別虐殺なんてされたら、目覚めが悪いんだよね」
「っ!?」
金髪が顔を強張らせた。
困惑を灯してた目が変わる。今度は盛大な警戒だ。
「…………お前、何で…………」
「何をどーするつもりだったのかは知らないけどさ……まあ多分バーサーク化、だったんだろうけど。ほっとくワケには、いかなかったんだよねぇ」
ぐ、と噛み締められた唇。睨め付ける蒼は、徐徐に負の感情を滲ませて。
――――その、目だ。
爪を砥ぎ、息を潜め。獲物に牙を立てる時を待つ獣の様な。しかもタダの獣じゃない。残忍で凶暴な手負いの獣の。
このあたしに警笛を鳴らさせる程の、強い靭い目。
ソレは同時に、強く惹かれずにはいられない、芯の通った意志を持つ命の煌めきだ。
あたしは片手でその首を柔く掴んだ。ビクリ、と跳ねる肩。だけど叩き落とされる事は無い。奴隷は、主には歯向かえないから。
「全てが憎いなら憎いでイイさ。復讐大いに結構。勝手にやって勝手に狂って勝手に死ねば?――――でもね」
にぃ、と笑う。
金髪の目は固まった様に、あたしの顔に固定されたまま。
「おれやメーレの『お気に入り』を巻き込まないトコで、やってよね」
『…………マヌお前今けっこーすっげー事言ってんぞ』
イヤそうは言うけどねメーレ。
所詮人間なんて自分本位だ。自分良ければ全てヨシ。総理大臣……例えば王様が誰になったって、日々の生活がガラリと変動しないんなら興味もない。
ソレと同じ。見た事も聞いた事もない人がドコでどーやって殺されようが、あたしは何にも思わない。話で聞いても「へぇふぅんあっそう気の毒に」程度の感想で終わる。
「……勝手な、事を……っっ」
ギラリ、と蒼い目が再びあたしを睨む。
はっ。勝手、ねぇ?
「自分の勝手で暴走しようとしたヤツに言われたくない。てゆーか、人なんてみーんなエゴの塊でしょーが」
「……貴様等、人間と、俺をっ……一緒に、するな……!!」
「同じだよ」
ってゆーかドコが違うのよ。
産まれて、育って、生きて、死ぬ。死んだ後は土に還る。
種族云々以前に、タダおんなじ星の上で生きる命だ。
「美味いモン食べたら美味いって笑う。意味も無いのに殴られたら痛いって怒る。聖者じゃ無いんだ、思うのは誰だって大半が同じだ。大切な人が死んだら悲しくなるし、ソレがもし殺されたってんなら殺したヤツを憎みもするだろう。おれだって、何もしてないのにイキナリ捕まえられて首輪着けられて檻に入れられたりなんかしたら、奴隷商みんなブチ殺してやる、くらいは思うだろうさ――――ほぉら。趣味だの価値観だのは兎も角、心の在り方は種族関係無く、みんな大方一緒でしょ」
ぺい、と。軽く掴んでた首を押す様に放した。
金髪は抵抗無くポスンとベッドの上に逆戻りして、ほんの少し眉をひそめてあたしを見る。
そんな金髪の顔目掛け、バサッと投げたのは、腕輪内のあたしの練成した衣類一式。
檜皮色のズボンに赤香色のシャツ。黒色の靴下に、雄黄色のジャケット。
ちなみにあたしはボクサーパンツ派だ。ブリーフなんて誰が穿くモンか。トランクスも収まりが悪いから却下。この世界の一般的なカボチャぱんつなんて言語道断。
イキナリで慌てたんだろう。ワサワサと服を抱えて丸める金髪の頭に、トドメとばかりに朽葉色のアーミーブーツもどきを放り。
ごいんっ。
「……い゛っ~~っっ~~っっっ!!」
『……なあマヌ。あの靴お前のと同じか?底に鉄板入ってる』
うん、そのとーりでございますが。
『……うわアレは痛ぇ……』
うん確かにイイ音したね。
でもあたし悪くない。避けなかったアイツが悪い。
『…………なんか、マヌに買われたアイツが不憫になってきた…………』
シツレイな。
「買っちゃった以上最低限の手入れと維持はするよ。ってワケで早くソレ着て。ごはん食べに行くから」
……あら。何でソコでそんなきょとんと。
「…………着る?コレを?…………何故?」
「えっお前露出狂なの?」
止めてよあたしそんなんと一緒に食事したくないよ。
『俺もヤだなー』
「違う!!…………というか一体何を考えているんだ貴様は」
特に何も考えてませんが何か。
「オレが元々着ていた服は。アレで充分だろうオレには」
「あ。アレ汚かったから捨てた」
『てか服っつーよりボロキレだろアレ』
「っ、オレを同じテーブルに着かせるつもりか?」
「え。なんか問題あんの?」
『ないよなぁ?』
メーレと揃って首を傾げた。
あ。ワナワナしてる。なんかワナワナしてるよ金髪。
「…………お前、奴隷の意味は解っているか?」
解ってるに決まってるじゃんか。
一体何が気に入らんのだコイツは。
「兎に角着て。コレ命令」
あたしがさっきしたのは身体を整える事だけだ。コイツの体力は回復してない。
だからしっかり食べさせないと……まさか人とか食べない、よね?
ぴしゃりと言い放ったあたしに何を思ったのか。
金髪は、ビミョーな顔をしながら渋々と。ホンットーに渋々ノロノロと服に腕を通し始める。
…………丈がちょっと長いな。横もけっこーがばがばだ。
でもまああたしんだし、取り敢えずコイツにはどっちゃり食わせて、少しでも早く肉付けてもらおう。脱ガリガリ。
そして思う存分イケメン堪能するんだっ!!
『………………マヌ………………』
……うっ、イイじゃないかせっかく安くはないお買いものだったんだしっ。ソレっくらいの楽しみがあったってっ!!
じとー、とあたしを見るメーレにさりげな~く視線を外しながら。
あたしは、ノロノロと金髪が服を着終わるのを待つのだった。