16・あるとは思ってたけどナニユエにこんなのが混ざってるんだ
お兄さんとの攻防(?)をしばし繰り広げ。
とゆーか実際剣持ったお兄さんに追い掛け回され。
メンドーになってすたこらさっさと逃げ出したあたしは、その足で宿に戻った。
…………『黄昏の鋼』は鬼門に認定。もー二度と近付かん。
その日はそのままコレ以上一歩も外に出ずだらだら時間を過ごし。
次の日。ちょこっと復活したあたしは市場に繰り出す事にした。
そしていろんな露店をひやかしたり、武器屋に入ってみたり。
思ったのは、武器防具ってけっこー高いのね、って事だった。
試しに買ってみた何の変哲もない短剣が、何と金貨1枚もしたのだ!!
10万円だよ、じうまんえん!!
あ、あと傷薬とか毒消しとかも。地球の消毒液と同じくらいのだいたい円で500円くらいかな?って思ってたら、4倍の2千円。いっこにつき青銅貨2枚した。
街から出たら魔物なんてのがふつーにうろついてるこの世界。身を守る為の武器防具はわりとしっかり作られてる。
しかも年頃になれば街人でも護身用に短剣の1本は持つ様になるらしいし、ランカーの数がけっこー多いから需要が高い。オマケに鉱山は魔物多発地帯が多くて採掘が難しいとまできた。
薬草も似たり寄ったりだ。栽培してるトコが皆無ってワケじゃないけど、やっぱり土とか環境とかの所為で育ちが悪い。野山で群生してるトコはやっぱり魔物多発地帯が多い。魔物の臓物から作れる薬もあるけれど、その魔物が一般ぴーぷーには驚異。ランカーに依頼して狩って貰って作って、ってしてたら、やっぱりコストは高いワケで。
そんなこんなが重なって、武器防具類や旅の必需品はワリ高なのだそーでございます。
『けどマヌって魔法で色々作れるじゃん』
「まあねー」
『イロイロ作れるから武器屋も防具屋も道具屋にも用事ねぇじゃん』
「確かにねー」
『イミ無かったんじゃね?』
……ソレは言わない約束でショおっかさん。
でもメーレの言う通り。あたし基本何でも作れちゃえるから、ぶっちゃけ武器とかの相場なんて必要なかった。しかもあたしの作るヤツの方がイイときたら尚更だ。
武器とかを見てみたその後はテキトーに市場を散策。メーレにアレ食いたいコレ食いたい言われながら、タマにおやつを買ったげて。
……だけどあたしは異界の人ゴミを舐めていた。
大会はもう始まってるのに、右向いても左向いても前も後も人、ひと、ヒト。
あんまりにも多くて歩くどころか立ってるだけでゲッソリ。
即効でそのまま宿に帰らせて頂こう。
『んでもこの後どーすんだ?』
「どーするもこーするも……そのまま部屋でだらだらするに決まってんじゃん」
『えー』
「お前まだこの人ゴミの中で泳ぎたいの?」
『や、ソレは俺もカンベン』
「だしょ?」
『でもそーすっとヒマだなー』
「いーよヒマで。ってか荷物の整理したいって思ってたからちょーど良かったよ」
『ニモツのせーり?』
「うん。どーもイロイロやばかったりするんだよねぇ」
あたしは自分で作ったモノを売る予定なんて今んトコない。
売るのはせいぜい、前にグランさんに売った宝石のルースとか、狩った魔物の皮とか牙とか。
「例えばさ。あのずんぐりむっくり。本にも載ってたんだけど、ホントに個人Sランク相当の魔物だったんだよねー」
『前も思ったんだけどさー。アイツってすげーのか?』
「人の中では相当に」
前に買った『食べれる種類が解るモンスター図鑑』に乗ってたのはSSSからGまで。現在確認されてる魔物と魔獣全部。
魔獣は全部SSSだった。子供でも被害でいったら天災級らしい。人なら万の軍勢で対抗しても満足に相手に出来ない相手。一番の対処法は、見つからない様に縮こまって隠れていませう、だ。
…………なんか全然そんな感じしない、うん。主に今あたしの肩にはっ付いてるメーレのおかげ(?)で。
いやでもこいつすっごい食欲旺盛だからな。違う意味で天災級……いやいや、考えるのよそ。
で。次に恐ろしいSSランクの魔物は亜竜。純粋な竜じゃなくて、進化の過程で竜に似たヤツとかの事。コレまた熟練者ばかりの一個師団ばりの戦力がなければどーにも出来ない相手らしく。
次のSランクにくる魔物は、少数精鋭が挑んでようやく始末出来る、ってくらいだから、あのずんぐりむっくりの強さもホントはけっこー相当なモノだ。
…………おかーさまには尻尾巻いて逃げたけどね。
まあ、そんな世間一般ではゲキ強で知られてる魔物。討伐されるのなんて滅多にないし、だから素材も滅多に手に入らない。とゆーか、滅多にないから大変貴重で、市場に出る前に貴族とか国軍とかに持ってかれる。
そんなモノをお気軽に売っちゃったりしたらどーなるか。
『うえー?ミンナが喜ぶ?』
「おばか。悪目立ちしすぎるっての」
ずんぐりむっくり以外にも、あたしが何かの時の為にって採っておいた魔物の毛皮や牙や爪は、図鑑見た限りSランクの魔物のが多かった。
そんなのどっちゃり売り込んでみろ。何だかんだ色々と、ホンットーに色々と探られる。
いや、ソレだけならまだ良い。下手すりゃまだ貴重な素材持ってんじゃないの?って盗賊まがいな奴等が狙ってくるかもしれない。
「そんなのに負けるホド弱くはないつもりだけど、メンドー事には変わりないからね」
『たしかにメンドーだなー』
まあ、幸いルースのお陰であたしは今お金持ちだ。ポーチの容量はまだまだ余裕だし、無理して今売る必要もない。
『んじゃ売らねんだな?』
「うん。……ま、気が向いたらまた何か作るし」
元材料が何か解らないくらいにしてから売った方がまだマシだと思う。
そんな事を話しながら宿屋へ向かってた時だ。
――――…………あれ。
何だか今、視界の端に変なのが映った。
思わず足を止めてぐるりとソッチに顔を向ける。
はたして、ソコにあったのは。
『…………獣人?』
「檻?」
四方が鉄格子で出来た檻の中。ボサボサ髪でボロボロな服で首輪を着けた狐耳の女の子がいた。
しかも、その子の檻を先頭にズラッとおんなじ檻が全部で10個。
そしてその檻の中には、女の子と似たよーな、ボサボサでボロボロな首輪を着けた人とか獣人とかがいる。
………………コレ、って。もしかして、もしかしなくても。
「――――…………奴隷?」
『ドレイ?って何だ?』
「……うん……商品になった人、って言ったら良いのかな」
やっぱいるんだ奴隷。
まあ、あんまり文明発達してないしねこの世界。人権とかあやふやだもんね。
でも目の辺りにすると何とゆーか。狐耳の子なんてまだ10歳くらいだし。他の人等に関しても……って、あれ?あれれ?
『…………なあ、マヌ』
「…………うん?」
『……アイツ、何か変だ。あの、向こうから3番目の』
「……メーレもそう思う?」
メーレと一緒になって見てみたのは後ろから3番目。体育座りで顔を膝の上に埋めて座ってる。汚れた長い金髪にズタボロな服の。
「ふつーの人……にしては、魔力が濃いね」
『でも、エルフとかマーメインとか、妖精族っぽくもないんだよなぁ。何だろ?』
「まさか妖魔だったりして」
『いやソレはサスガにないだろー。妖魔族っつったら他の人型種の天敵だぞ?』
「そーだよねーあはははは」
『そーだぞーあっはっは』
「…………」
『…………』
「……ちょっと確認してみますか」
『……おう』
こくん、と頷き合って、檻に近付く。
近付いた時に、他の檻の中の人等が固まって、だけど一拍後には「ワタシを買って下さいご主人様」とか言ってきたけどトコトンスルー。
ざっ、と金髪の檻の前で立ち止まった。
気付いたらしい金髪が、億劫そうに顔を上げる……あらヤだすっごいイケメ、げふごふんっっ。
いやいや、ソレはともかく……金髪はちらり、と蒼い目であたしを見て、そのまま目を見開いて固まった。
そしてあたしとメーレは、と言えば。
「……青白い肌に尖った耳とイレズミみたいな紋様……」
『……かーさんの言ってた魔人族の特徴そのまんまじゃん……』
ビンゴだ。思わず呟いた。
ソイツはあたしの呟きに、ハッとした様に硬直から抜けて。
…………うんすっごい殺気です。しかも視線だけで人殺せるんならあたし今生きてないってくらいに睨んできてます。
左右の奴隷さん達どころか、道を歩いてた人等までヒィイってなってる。
『けど何だってこんなトコに魔人族がいんだ?』
確かに。
数千年前に他の人型種と大戦争、そして現在は冷戦中な魔人族は、魔獣と同じくらい滅多に見る事が無い。
なのに何だって、こんなトコで奴隷してるんだか。
ギリギリ睨み付けてくる金髪をヘーゼンと見下ろして、うーむ、と考える……あ、隣の奴隷さんが殺気に当てられ過ぎて泡吹いた。
「おいっ!何をしているんだ貴様はっ!!」
うぉっとう?
突然の怒号にびっくら仰天。もしかしてあたし?あたしの事ですかっ?
思わず振り向けば、店の中から出てきた裕福そうなビール腹のおっさんが、あたしの方に……ではなく、あたしの目の前の金髪の檻に向かって、突進してきた。
しかも。
「貴様っ、自分の立場が解っているのか!奴隷の分際でっ、何だその目はっ、生意気な!!」
がんっっ、と檻を蹴って後ろに倒し、尚且つ手にした棒で、ガスガスと金髪を突きまくる、ってイヤイヤちょっと。
檻と一緒に転がされた金髪は、蹲って両腕で頭を抱えて、呻き声も上げず避ける事もせずに棒を受けて。
思わず、あたしはその棒を掴んで止めた。
「何をっ…………っっ!?」
「その程度で許してやってはくれませんか、主人」
いくら奴隷って言ったって、コレは過剰だ。
憤怒の形相で振り返り、あたしを見て速攻顔から血の色をザァッと引かせたおっさんに、あたしはにっこり笑い掛ける。
…………いやその、ひい、って何ですか。ひい、って。
「……こ、コレはコレは、旦那様。お見苦しい処をお見せしまして」
「いえ、構いません。躾は大切ですから……ですが、やり過ぎてしまっては、商品の品質を落としてしまいますよ?」
ちらん、と金髪を見る。
注意して見れば、コイツが殴られるのは今日が初めてじゃない。どころか、きっと頻繁だ。剥き出しになった腕や足には、たくさんのアザや傷がある。
頭を庇う腕の隙間からあたし達を見上げる目には、蒼く燃える憎悪の炎。
…………あ。コイツ、ヤバい。
その目が諦観なら、いやソレも違う意味でヤバいけど。
でも、この目はヤバい。敢えて言うなら復讐者。目的の為なら手段を選ばない。周囲を蹂躙して殺戮の限りを尽くす、狂気の目だ。
しかもまだ諦めてない。こんな境遇に陥って、他の奴隷さん達はホントに虚ろな目をしてるのに。
――――コイツだけは、機会を窺ってる。
この境遇を打破出来るだけの何か……魔人族は魔力が高いって聞いた。きっとコイツ、何か仕出かす。ソレが成功するって確信してる。そして今は、時を待ってる。檻から逃げる時を。
その、証拠の様に。あたしの右目が感知した、エーテル。
金髪の心臓。集まってグルグル澱んでる、暴走寸前な、高濃度の。
――――リミッターでも、外すつもりか。
人は元々、自分の持ち得る力の全てを使う事は出来ない。そんな事をしたら身体が壊れるからだ。だから人は無意識に、使う力を制御してる。精々、使えるのは全体の30%程度。
だけどその無意識を取っ払ってしまえる場合も、ある。意図的かコレまた無意識下でかは置いおいて。火事場の馬鹿力、なんてその典型だが。
…………ゲームやラノベでいうトコロの、狂気化、なんてのも、確かコレに当て嵌まったハズだ。
コイツ、きっとその無意識を……リミッターを、外そうとしてる。
ふと思った事は確信に変わった。
外してしまえば、こんな檻ブチ壊すなんて造作もないだろう。奴隷、って言うくらいだから主人には絶対服従とかっていう魔術か何か掛けられてるんだろうけど、狂気に走って理性失っちゃえば、余程の強制力が魔術にない限り、あってないのと同じだ。
ソレでも、きっと。理性失ってもコイツが最初にするのは、このおっさんを殺す事だろうな、と思った。
その後はこの街。この街に住む人全部……で、最終的には、人型種全部。
出来るか出来ないか、じゃなくて。やるんだ、って。決めてる。そんな目を、してる。
『…………すっげーキケンだな、コイツ』
メーレも金髪に警戒しだした。戦闘態勢バリバリ、ってな具合で伸ばされた爪が服を突き抜けて肌に刺さって痛い。
『マヌ。コイツ、ココにいたらいつかココ等全部殺し尽くすぞ』
だろうね。
あたしとしてはこんな危険人物、コンクリ詰めにして海の底に、ってイヤイヤあたしそんな鬼畜な事しません事よ。イケメンは世界の共通財産なのよ。
でも、このおっさんにコイツは危ないから手放せ、って言っても、無理な様な気がするし。
妖魔族って珍しくて貴重なんだろうけど、こんな、態度からして反抗的な奴隷、買ってく人なんてのも、皆無だろーし。
まあ何はともあれ、このままココに置いておくのは……後が怖い。様な気が。
「主人」
「はっ、はい?ななな何でございましょうっ?」
「ココにあるのは、全て貴方の商品で合ってますよね?」
「……え?っええ、その通りでございます」
「……では。主人は奴隷商で間違いありませんね?」
「はい、そうでございます……もしや、旦那様は奴隷をお探しだったのですか?でしたら店内にも商品がございます。如何でしょう。店頭に置いてあるコレ等よりももっと優れたモノがございますよ」
「いえ……この、金髪の魔人族は、幾らですか」
「…………は?」
『っ、うぉいマヌー!?』
あ。おっさんポカーンってした。
金髪も、聞こえてたのか目を見開く。
そしてメーレ。アンタは耳元でウルサイ。
『ナニ考えちゃってんだマヌ!?人を商品で買うってっ、いやヒトじゃねーけど!!』
いやでもコイツだけはこのままココに置いてたらヤバい。
「……あ、あの、旦那様……店頭に置いてあるコレ等の商品は全て欠陥品でございます。戦奴にも重労働にも性奴にも使えず、魔物に対する使い捨ての盾代わりか、魔道具や新しい薬等の実験にしか役に立たない、最低商品でございます」
うんヒトとしてどーかってくらいすんごい事言ってるなこのおっさん。
だからってその事に何の感慨も浮かばないあたしもイイ加減非道だなって思うけど。
でもコイツだけはヤバい。
いつか絶対檻から逃げ出して、周りの人達を虐殺してやる、って決めてる。
そんなんあたしがこの街を出てからやってくれ、とは思うけど……ソレも素直にどーぞどーぞ、とは言えない。ライラさんやリチアちゃんは、良くこの通りで買い物してる。
「……では。貴方の商品の中に、コレ以外の魔人族はありますか」
「は、はあ……いえ、魔人族の奴隷は珍しいモノでして……」
とゆー事はコイツ1人だけって事か。
奴隷の相場なんて知らないけど、このヤバいの1人くらいなら何とか……うん、何とか。
「では主人。この奴隷を。幾らですか」
『うぉぉーい、マヌってばー』
「や、ですから、旦那様」
「幾らですか」
にぃっこり。
有無を言わさず言ってみたら、再びヒィイ、とおっさんが戦慄く。
「は、はい。こここ、この奴隷は、珍しい魔人族ですが欠陥も酷く、状態も悪いので、下級奴隷の相場は大体40万レジェですが、20万レジェで販売致しておりまして、」
『な、なあマヌ、止めとこーぜ』
じうまん単位。むぅ、高いとは思ってたけどまさかたったの短剣2本分って。
今のあたしなら軽く払える額だ。行っとこう!
「ではコレで」
『うっぎゃーーーー!!まままっ、まぬーーーーっっ!?!?』
ぽん、と。白金角硬貨を出したあたしにメーレが吠える。
うんウルサイ。ちょっとは大人しくしてなさいって。
『イヤ大人しくってっっ、大人しくってーーーーっっ!!』
そしておっさんはと言えば。まん丸くした目で白金角硬貨を凝視。
「主人?」
「……はっ、はい!確かに、100万レジェ、お預かり致してございます!」
あ。良かったちゃんと再起動した。
「つつつつきましてはっ、店内へとご足労願えますかっっ――――おいお前っこの檻を中へ!」
おっさんはワタワタと、慌てて角硬貨を持ったまま店内へあたしを促し。近くにいた体躯のよろしい従業員さんにツバを飛ばして急かす。
で、言われたとーりおっさんにくっついて、金髪の入った檻を2人がかりで担ぐ従業員さんを後ろに従えて、店の中に入ったら。けっこーな大きさの袋となんかの書類、を持った少年が待ち構えてた。
「で、では、まずですね。コチラの書類に受け渡しのサインをお願い致します」
ぴらん、と渡された紙は、物品販売書・物品受領書・所有者届書。おお、こんな世界でもあるんだ、こんなのが。
「……コレは?」
「はい。商品売買の書類でございます。1枚は私共の控え、1枚は旦那様の控え、そしてもう1枚はお役所に提出させて頂く1枚でございます」
あ、そう。なんかソレっぽいって思ったけどホントにそのまんまだね。
サラサラサラ、と出された3枚にサインする……今気付いたけどこの羽根ペンとインク、ギルドで使ってたヤツと一緒じゃないか。
「はい、確かに――――では、次に『隷属の契約』を、旦那様と奴隷の間で交わして頂きます」
「れいぞくの、けいやく?」
「ええ、ええ、その通りでございます。奴隷には1体につきひとつずつ、『隷属の首輪』と『隷属の指輪』という魔道具が付随されます」
…………うん。ふぁんたじーにありがちなおぷしょんですな。
「首輪は奴隷が身に着けるモノでございまして、指輪は主が保管するモノとなっております。そしてこの首輪と指輪は繋がっておりまして、更に指輪には奴隷の真名が封じられております。その奴隷の指輪が此方となっておりまして。この指輪の、石の部分にですね。旦那様の血を一滴、垂らして頂くのでございます。そうする事によって、奴隷は主に一切の抵抗が出来なくなるのでございます」
あら。まさかこんなトコでおかーさまから聞いた真名って単語が出るとは。
ホントに大切なのね真名って。あたしも気を付けなきゃ。
おっさんの後ろにいた少年が、持ってたお盆を恭しくあたしに差し出す。
ソコにあったのは、おっさんの言ってた指輪と10センチくらいの長さの、ちっちゃいナイフ。きっとコレで指でも切って血を垂らせって事なんだろう。
あたしは深く考えもせず、そのナイフを手に取った。
『ま、マヌ、はやまんな。今なら止められる。な?な?』
んー……やだ。あたし決めた。コイツ買う。んでもってどっかで捨てる。
だってコイツがココにいたらすっごいイヤンな予感がビシバシだから。
てゆーかメーレ夜になったら早速捨ててきてね。海にでも。
『す、捨てるだけに20万使うってどんだけ!』
う、そ、ソレはまあ、ちょっとムダ使いかなー、なんてのは思ってるけど。
ムダ使いより安全第一。
ち、っと人差し指をちっちゃく刺して。ぷくり、と膨らんだ赤い血に、ヨシ、と頷く。
そして、置いてある指輪に指を近づけて。
「…………ろ…………!」
酷くしゃがれた、弱々しい声が、した。
視線を落としたら、あの金髪。
あの、蒼い憎悪の目で、あたしを睨み上げてる。
あたしはひとつ、ぱちくりと瞬きして。
「…………止めろーーーーっっ!!」
制止の言葉を気にもせず、水晶みたいな透明度の石に血を押し付ける。
と同時に、金髪の歪んだエーテルが霧散していくのを、感じた。