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神様モドキの異世界旅行  作者: ほえほえ
蹴り出された元オタク
15/40

15・なぜナニどーして脳筋はスグ戦いたがる




 …………つ、つかれた。

 何が疲れたってそりゃあーた。アニマルカルテットにおっさんにおねーサマ。


 何で「まあ取り合えず色男の本戦出場祝って乾杯しようぜ」になるんだ。てゆーか絶対自分が呑みたいだけだったよねおっさん。

 しかもおねーサマもカルテットもソレに乗ってくるしっっ。


 不幸中の幸い(?)は、そのどんちゃん騒ぎの中で何時の間にかコワモテさんがいなくなってた事だ。

 おっさん達だけでも疲労困憊もんなのに、あんな有名人にまで絡まれたら身が保たん。


 まあ、昨日は色々と。ホンットーに色々と疲れましたが。

 今日から4日間、のんびりくつろぐ事にしよーじゃああーりませんか。


『いーのか、マヌ?ネコ娘の試合今日なんだろ?』

「サウラちゃんのは試合じゃなくて技術のお披露目でしょー」


 ハッキリ言おう。興味はあるがメンドくさいという思いの方が上回る。

 だって今日は朝早くから道は人、ひと、ヒトの列。アレ全部、闘技大会の会場に行くらしく。その会場からけっこー離れてるにも関わらず、こんなトコまでこの多さ。一体ドコから湧いて出た。

 余りの喧騒に開けてた窓を思わずカーテンごと閉めたぐらいだ。

 ……まあ、一大イベントの本戦第1日目なんだから仕方ないかも、だけど。


 ちなみに今日は、エトセトラ部門の本戦だ。ポイント形式のトーナメント戦。

 そして明日から本格的に、予選通過の12組+シード枠2組の14組で団体戦トーナメントの団体第一回戦6試合目まで。明後日は軽量級で、明々後日が重量級。その次の5日目に、あたしがエントリーした無差別級。

 6日目からまた団体戦に戻って第二試合7試合目から、準決勝12試合目まで。

 そして、最後の10日に全ての決勝戦、と相成るらしい。


 ついでにこの闘技大会、観客料は銀貨1枚。しかもかなり前から前売り券が販売されてて、今は完売。

 当日販売のチケットは観客席のその後ろの、立ち見しかなくてしかも銀貨3~5枚という高さ。

 予選みたく予選敗退者はフリーパス、でもない。

 中心から一番遠い上に立ち見で見難い。オマケに高いって。そんなん下手に観戦するより見ない方がマシだと思うのだよ、うん。人ごみに酔いそうだし。


『あー、確かになー。ドコにこんだけ隠れてたんだって感じだよなー』

「しかも初日で、エクストラ部門の部大会で、この数だからねぇ」

『一番人気ってムサベツ級だっけ?』

「いんや、軽量級らしいよ。明後日の」


 ちなみにレグレとシュアは予選通過したらしい。ギリで。んでもってテトラちゃんは予選敗退だそーです。あとひとつ白星だったらサドンデスでイケてたかも、らしいけど。

 そしてあのコワモテさんはシード枠らしいです。軽量級の。サスガSランク。予選免除なんて羨ましい。

 …………シュアとおんなじ重量級でなくて良かったと思う。あの2人、ホントに犬猿の仲だったもの。当たったらどーなる事やら、多分きっと目も当てられない。


「でも決勝は纏めて最終日に行われるそうだから、10日後が1番ごった返すだろうねー」

『……今より多くなんのかー』


 朝の通勤ラッシュな電車の中、を思い浮かべては~と溜息。きっと会場の観覧席はソレより酷いぎゅーぎゅー詰めの箱寿司状態だろう。決勝だけはあたしもナマで見たいと思うけど、きっと無理に違いない。


『見たかったなー』

「仕方ないでしょ入れないんだから」


 過ぎた事だからと割り切って、さて今日からどーやって時間を潰そうかと考える。

 図書館?……目ぼしい本はあらかた読み漁った。とーぶん活字はいらないや。

 本屋もおんなじ理由で却下。しかもあの店主のおじーちゃん、薦めてくるのがマニアックなのばかりだし。

 ギルド……も、止めておこう。大会中は色々と人が入用で、ギルドの職員もたくさん借り出されてるらしい。忙し過ぎて目が回る状態、なんだそーな。

 逆に武器屋さんとか道具屋さんとか、ココぞとばかりにお店開けてるらしいけど。色んなトコから色んな人が集まってるから。掻き入れ時なんだって。サスガ商売してる人の根性は違うね。


『で、今日はドコ行くんだ?』

「……んー。お店巡りでもしよっか」

『?何の店だ?』

「うん、武器とか防具とか色々と」

『…………マヌお前あんだけ色々作って持ってんのにこの上まだ買うのか?』

「やー、買いはしないけど。そーいやおれ、この世界一般のそーゆーイロイロ、知らないなぁって思って」


 あたしの持つ武器やら何やらは、全部あたしの知識を元に作られたモノだ。

 ソレこそソコ等にありそうな何の変哲も無いダガーとかロングソードから、伝説に出てくるエクスカリバー、どっかの傭兵が使ってたガンブレード、はたまた某死の恐怖の銃剣や、科学武器の拳銃散弾銃ロケットランチャーまで。

 ドコまでがこの世界の許容範囲なのか解らない……刀もけっこー驚かれたからね。


 ソレに、この街にやって来てもう15日経つけど、ごはんはもっぱら宿で食べてるし、外に出ても屋台で串焼きとかケバブっぽいのとかしか買ってないから、食べ物以外の物価が未だに曖昧。

 だからどんなのがドコまでの値段なのか、知っておきたいんだよね。


『……あー、そーいやトカゲのおっちゃんにも言われたなー。バカショージキで足元掬われんぞーって』

 うぐっっ……仕方ないじゃないかあの時はモノの価値が解らなかったんだからっっ。

 そして今でもモノの価値はあんまり解ってないんだ!!

『どーん、てイバって言う事じゃないだろ』

 うん解ってる。イバれる事じゃないって解ってる。


『んー、じゃあ今日からはその、モノの価値のオベンキョー、なんだな?』

「そゆ事になるね」

『あ、マヌ俺今日のおやつパイがイイ。あの、本屋の近くで売ってた』

「……イキナリ飛んだね、話が」

 しかも朝飯も食ってないのにもーおやつですかい。

 まったくこの子ってばどーしてこんなに食い意地が。


『食い意地違ぇ。グルメと言え』

 …………グルメな魔獣…………なんて珍妙な響き…………

『珍妙違ぇ!ソレに俺の夢はっ、あらゆる料理を制覇する事だっ!!』

 いやドヤ顔でそんな事言われても。


『つーワケでマヌ。今日の朝は?』

「…………あー、ハイハイ。そいじゃー下に降りますかねー」

『おう!!めっしだーめっしめしーvv』


 朝から元気なメーレに呆れた苦笑を洩らし。あたしは身支度整える。

 あたしの無差別級部門、本戦出場日第一試合は4日後だ。だから刀はベッド下の籠の中にしまい、チョコボ頭のコスプレも何時もの普段着に変える。

 そして、何時もの如くメーレを右肩に貼っ付けて部屋を出た。


「さてさて。今日の朝ごはんは何かしら?」

『ココの食いモンすっげーうめーから何でもいい!!』

 うん確かに。良くこんな良い店に空きがあった。

 るんるん気分で1階に降りて、見つけたライラさんに挨拶するのに近付こうとした、時。


 ――――視界の端に、見知った人を見つけました。


 とゆーか昨日の今日で忘れられるワケがない。

 しかもすっごい解り易い。出入口近くの壁に凭れて腕組んでるだけなのに、彼の近くの半径5メートルくらいの席には誰もいなくてぱっかり開いてる。


 …………何で、こんなトコにいるんだろう。


『どしたんだ、マヌ?…………って、アイツ』

 ほけん、として見てたら、ふ、と彼が首を巡らし。

 ばちぃ!!と、擬音語聞こえてきそうなくらいに合った。何がって、目が。

 ちょっと待って。何故に近付いてくるの!?


 かつ、と。靴音が大きく響く。様な気がする。

 近付いてきたその人は、あたしの目の前で、脚を止めて。


「朝から済まないが、少し付き合って貰えないか」


 そう、静かに低い声で言ったのは。

 ランカー上位のSランク。『黄昏の鋼』とやらの副団長。年より老けて見えるコワモテの。


「……おはようございます、イスターさん」


 あたしは取り敢えず、へこりと小さく頭を下げて挨拶した。




     ~・~・~・~・~




 大通りから脇道にそれ、奥へ奥へと歩くコワモテさんの後ろを着いて行って、やってきたのはおっきな建物。

何と彼の所属してる、『黄昏の鋼』の宿舎、だそうな。

『黄昏の鋼』は、ココ王都シュリスタリアでも指折りの傭兵団らしく。団員も百人くらいいて、その全員がこの建物の中で寝起き出来るのだそーで。


 ……ホントにこのイスターってどんな人だ。

 カルテットの幼馴染なんだから20代前後でしょーに歳。


「『黄昏の鋼』は元々、俺の父が立ち上げた傭兵団でな。その父が病で引退してからは、兄が跡を継いで俺はその補佐をしている」


 いやいやソレでもだよ?

 こんな大規模傭兵団の副団長張れるだけの実力と統率力はあるって事よね?


「まあ、確かに剣の腕には自信があるが。『黄昏の鋼』が此処まで大きくなったのは、兄の手腕によるものだ」


 いやソレでもわっかい人が上に立ってこんだけの規模を纏めるって。

 本人にソレだけのカリスマがないと出来ないモンですよ?

 補佐だっておんなじだ。仮にも組織ナンバー2。周りから認めて貰わなきゃ、ふつーはその立場に立つ事なんて出来ない。


 勝手知ったる我が家、な感じで、ずかずか宿舎に入ってくコワモテさんの後ろにくっ付いて行く。

 お知り合いさんなんだろう、彼の顔を見て声を掛けようとした団員さん達が、あたしの顔を見てヒキッと固まる。


 ………………うん。もう慣れた。慣れたよあたし。

『けどマヌに何の用なんだろな、コイツ』

 ソレはあたしも気になってます。


 少し、とか言われたけどココに辿り着くまでで既に1時間近く経ってるし、「ドコに向かってるんですか?」って聞いても「もう直ぐ着く」ってナナメ上にずれた返事しか返してくれないし、「話って何でしょう?」って聞いても「着いたら話す」としか言わないし。


 そんなコワモテさんは、未だ止まりもせずにズンズン進んでおります。マダなんですか目的地。帰ってイイですかあたし。


「――――着いたぞ」


 とか思わず悪態吐こうとしたらコワモテさんが足を止めて、慌ててあたしも足を止めた。

 あっぶな。もう少しでコワモテさんの背中にドーンてするトコだった。


 足が止まったのはちょーどアーチ状の出入口。ひょこ、と首を動かしてコワモテさんの前を見てみたら、どーやらこの先は中庭らしい。


「ココは訓練場だ……と言っても、中庭を平地にした程度のものだが」

『……くんれんじょーって、ぜんぶ試合カイジョーみたいに石の地面だと思ってた』

 うん。確かに。

 花壇も何もない運動場みたいな真っ茶色の地面。ホント殺風景だこと。


 まあでも、ココはコッチな方が良いんだろう。障害物がない分、下手な広場よりは広いし。

 ソコにはおよそ10人前後の、色んな剣を持った色んな人が色々やってた。素振りとか模擬戦とか。


 ソレをぐるっと一瞥し、コワモテさんが一歩、訓練場へと進む。

 気付いた人等が手を止めて、コワモテさんに頭を下げる……際に後ろのあたしを視界に入れて、ヒキッと固まるのにはもう突っ込まない。

 コワモテさんが再び歩き始める。その足が向かっているのは、とある1人の男性。


 20代後半、もしくは30前、くらいだろうか。コワモテさんとおんなじ赤茶色の髪。ウルフカットなのか。ソレとも尻尾なのかその後髪は。判断にちと迷います。

 コワモテさんと似た様な背丈で、コワモテさんより若干細く見える……でもマッチョ。ひょろりと高いあたしと全然違いますよホントに。

 その人は1人の剣士さんとお話をしてて、だけどコワモテさんに気付いて顔をあたし達に向けた。

 その目の色は、コワモテさんよりちょっと薄い青、だ。


「兄貴」

 ――――あ。やっぱり?

 見た目の似たトコロが多いんだもの。髪の色とか目の色とか顔のパーツとか。


 呼ばれたその人は、ちょい、と片手を上げ。

 話してた人に何か言った後、コッチに近付いてきた。


「おう、イスター!朝早くから出かけたって聞いたんだが、用、は……」


 …………そして、毎度の如く、この反応。

 あたしコワモテさんの真後ろにいたから、きっと近付くまで見えなかったんだろう。近付いてきてた身体を止め言葉を途切らせ、目を大きく開いてあたしを凝視する。


『おー。おもしれぇ顔』

 メーレそーゆーのは言葉にしちゃいけません。


「…………えー、イスター、サン?ウシロノカタハ、イッタイドナタデ?」

 しかも何故カタコト。

「昨日話した、シュア達の友人だ」


 だけどコワモテさんのセリフを聞いて、直ぐ様お兄さんの目の色が変わった。様に見えた。

「『粉砕』と『閃槍』を余裕で負かしたっていう双剣使いか!!」

 実際、その視線は驚いたモノから好敵手を見る様なモノに変わってる。


 周囲の人達がザワリとし、ソレだけじゃなく何だ何だと建物から出てくる人が増え。


「……えー、と?」

「うおっと悪い悪い。まさか上位ランカーを倒した最低位ランカーが、こんな別嬪だと思わなかったからな。ついビックリしちまった――――俺はゲイザーだ、ゲイザー・シアーズ。ソイツの兄貴でこの傭兵団の団長。宜しく、えー、マヌ、だったか?」

「あ、ども、宜しく、です?」


 二カッと笑われ、右手を差し出されて……コレは握手の催促かそーなんだな。取り敢えず、同じ様に右手を出したら、がっしり掴まれて思いっきり上下にシェイクされた。

 しかも。


「んじゃ早速、一戦やるか」

「……………………はい?」


 ちょっと待てえい。

 じゃあってナニ。何がどーなってそーゆー事になるっ!?


「ちょ、ちょっと、待って下さい!!」

「んあ?」


 ズルズルと、手を握られたまま中央の開けた場所にまで引き摺られて、あたしは思いっきり手を振り払う。

 お兄さんはそんなあたしをキョトンと見て……てゆーか何でそんなワケワカメな顔で見られなきゃならないのあたしの方がワケワカメだよっっ。


「初対面で挨拶は基本の基本ですけど、どーしてその次で『一戦』になるんですか」

「いや、だってアンタ、ソレで来たんだろ?」


 なんでやねん。

『おー、出たなウワサのツッコミー』

 ……メーレアンタは少し黙ってて。


「――――違います。おれは話があるって言われてココまで来ました。試合するなんてひとっっっ、ことも聞いてません」

「え、マジ?」

「マジです」


 きょとん、とした顔に丸くなった目、をプラスして、お兄さんはあたしを見る。

 そして、ウソじゃないって解ったんだろう。でっかく溜息吐きながらじとっとコワモテさんに顔を向けた。


「……イスター、お前また説明端折っただろ」

「交渉は兄貴の分野だろう?」

「…………お前なぁ…………はぁ~」


 ぐったり。脱力して頭をガリガリ掻くお兄さん……無愛想無口な弟持って苦労してんのね。


「あー、悪い。イスターが喋ってるモンだと思ってた」

「はあ……」

 やー、このコワモテさんにお話は……なんか如何にも『拳で語れ』みたいな人だからなぁ。あ、いや違う『剣で語れ』か。

「で。その話、ってヤツなんだが」

「はい」

「アンタを傭兵団に迎え入れたい」

「…………は?」


 な ん で す と 。


「…………ちなみに、ナゼ、とお伺いしてもイイですか」

「ん?アンタが今年の大会出場者の有望株だから」

 何故に。

『えー、マヌってユーボーかー?』

 そしてメーレお前はイチイチ反応しないの。


「一番難易度の高ぇ無差別級部門で、『粉砕』や『閃槍』なんつー強敵をモノともせずに、ストレートで予選抜けした無名の双剣使い。アンタは久々の優良物件だ。騎士団でも勧誘の話が上がってるらしいんでな。先に取り込んどこうと思ってよ」


 …………え。

 ちょっと待って誰が優良物件。

 何だその騎士団からも勧誘って。


「つーワケで、一戦やるか」

 イヤだから待て。

「…………ソコで何で勧誘の話から一戦に話が行くんですか」

「いや、だって強いヤツがいたらひと試合ってのは常識だろ?」

『あーわかるわかる。強いヤツいたら狩ってみたいよなー』

「そんな常識知りません」

 んでもってメーレは今後誰彼構わずケンカを売らないよーに。

『えー』

 ………………オヤツ抜

『だよなっそんなジョーシキねーよな!!』


 コロッと前言撤回したメーレに溜息吐きつつ、ちろん、とお兄さんを見る。

 …………ナゼ首を傾げてるんですか。

 てゆーか、交渉はお兄さんの分野、とか言いながら実はオタクも脳筋族でしょう。

 しかもココで試合受けたら入団確定ルートっぽいし。


「――――申し訳ありませんが、謹んで辞退申し上げます。話がソレだけでしたら、失礼させて頂きますね」


 ぺこり、お兄さんに頭を下げてくるっと踵を返す。

 ぽかん、とするお兄さんもザワザワ!ってするギャラリーも無視ですムシ。


「ちょ……ちょっと待て待てっ、待ってくれ!」

 …………おや。まだ何かあるんだろーか。


 足を止めて振り返る。慌てたお兄さんが近付くのを待って。

「辞退ってのは、ドッチの事だ?試合か、入団か?」

「両方です」

 バッサリ言い切ったら、またもやポカンとされた。何故。


「あんな、悪い話じゃねぇと思うぞ?ウチはソレナリに名の売れた傭兵団だし、各々の実力に合わせた武器防具から小物の道具まで支給される。団員が多いから訓練も事欠かねぇ。強くなるにゃ持って来いだ。ソロだと出来ねぇ事もパーティ組んでやれる」


 ……うん。そんな通販の特典みたいに連ねられてもね。


「お断りします」

「何でだっ?……もしかしてアンタ、騎士団狙いか?」

 だから何故。ってそーいや大会でイイ成績取って騎士団入りたいって人もいるんだっけ。

「違います」

「…………だったら何で大会に出てんだ?純粋な腕試し、ってワケでもねぇだろ?」

 ……名声だけが参加動機じゃないと思うなぁ。


 はふ、と溜息。

 何時の間にかギャラリーはひそひそコソコソ、あたしとお兄さんの会話に興味深々。

 始終我関せずを貫き通してるのはコワモテさんだけだ。ソレはソレである意味スゴイ事だけども。


「おれ、探してるモノと行きたいトコがあるんですよ」

『俺のオヤジとルーデルディアなー』

 うん聞こえてないからメーレの声。ついでに素直に言っちゃえるモンでもないからドッチも。

 でもコレだけで察してくれは……しないのねお兄さん。


「ソレと大会出場がどう繋がるんだ?」

「大会の上位4名には賞金が出るでしょう」

「ああ」

「賞金を貰わない代わりに、コッチの希望を言えばある程度は叶えてくれるんでしょう?」

「ああ……ってアンタやっぱ騎」

「おれの希望は王城の書庫の閲覧許可です」


 みなまで言わせてなるものか。


 お兄さんの言葉を遮る様に言ったら、はぃい?みたいな顔された。何故。

 でもまあ、ココまで言ったら今度こそ察してくれるでせう。


 あたしの探し物も行き場所も、ココじゃない。そして王城の書庫っていう、普通の図書館とかギルドじゃ手に入れられない情報が必要。下手したら世界一周しなきゃいけないかもしれない。

 中には街から街へ、旅をしながら稼ぐ傭兵団もあるんだろうけど。

 ココの様に、ひとつの街を拠点として活動してる、なんて行動範囲が制限される組織に入団するのは、あたしにとってはデメリットだ。


「とゆーワケで、その話はお断りさせて頂きます」


 にぃっこり。

 笑って言ったら、お兄さんは「あー」とか呻きながらガリガリと頭を掻いた。


「……ホンットに、まったく、ものっっっ、すごく、勿体無いが……誘いを断る為の嘘、ってワケでもねぇみたいだな」

 おや。ウソっぽかったですか?

「いや、目がマジだったからな……しょーがねぇ。入団は諦めるわ――――け・ど」

 はい?

 まだ何かあんの?

「探しモン見つかって目的地に辿り着いて、その後何も目的なかったら、是非ウチに来てくれ」


 ……あらま。

 何てまぁ、気の長いコト。


「…………何年かかるか、解りませんよ?」

「何年かかっても、アッサリ諦めるには惜しい人材なんだよアンタは」

 いやー。ソレはちと買被り過ぎではないかと。

「いやいやいや。ガレスタークをソロで倒せる人間なんざ、そう滅多にいねぇぞ?」

 うぬ。だけどソコがちょっと納得いかんのだよ。


 あのずんぐりむっくりはあたしや『ちいさいの』でも狩れる。おかーさまが出てきた日なんかにゃ、臨戦態勢入る前に速攻逃げの一手だ。

 そんなずんぐりむっくりは、ホントに強いのだろーか?

『人型にとっては強いんだろーなー』

 いやメーレあたしも人型。

『マヌはちげーじゃん。規格外じゃん』

 …………うん。もうイイよ。元一般人とか平和主義とか諍いキライとか事無かれ主義とかイロイロ言いたい事あるけどどーせスルーされるだけだから何も言わないよ。

『いやマヌ言ってっから。ちゃんとツッ込んでっから』

 気の所為だよ。


「まあ、勧誘の話はコレっくらいにしといて、だ」


 メーレのツッコミにさらりと(脳内で)返してたら、さっきまでの真剣そうな顔とは打って変わってにっこり笑ったお兄さん。

 …………なんだかとってもイヤンな予感。


「この時間帯で大会の観戦にも行かずにココに来るって事は、チケット買えなかった上にヒマしてんだろ?」

「……はあ」

「じゃ、ヒマ潰しにいっせ」

「やりませんって言ってるでしょーが。」


 やっぱり、って思ったあたしは、皆まで言わさずバッサリ遮らせて頂きました。まる。




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