14・隠してたワケでなくホントに強くないのですよ
闘技大会の予選2日目からは、総当たり方式になる。
あたしのエントリーする無差別級部門、予選一試合目突破者は48人。コレが4つに分かれて総当たりして、上位3名の合計12人が本戦進出する。
くじ引きの結果、あたしは4ブロック、と相成りまして。
「…………何と言うか」
「かーっ、やっぱ強ぇなぁ、色男」
わいわいがやがや、たくさんの人の中、試合が終わったあたしのトコにやって来て。呆れた様な顔であたしを見るおねーサマと、感心しきりの顔で言うおっさん。
何でこの2人今日も予選会場来てんだろう予選負けたのに、って思ってたけど、どうやら予選落ちしてもエントリー者は会場に入れるらしい。けっこーな数の人等が見学しに来てる。
理由は主に、パーティのメンバー探しとか傭兵団へのスカウトとか。
「どーよ色男。お前さん俺とコンビ組ま「謹んで辞退申し上げます」……は、早ぇなおい」
トーゼンだ。美少年や美女ならともかく誰が好き好んで熊さんなんかと。
「人間見た目じゃねぇ心だ心!!」
いやでも人間第一印象は大事だよ。メラなんとかの法則にもちゃんと書いてた。しかもおっさん人間違うし。獣人だし。熊の。
とゆーかどーしてあたしなんか勧誘する。
「…………寧ろ如何して勧誘されないと考えているのかを教えて貰いたいな私は」
やー、だってあたしそんな強くないし。
「「『いやソレは絶対無い(無ぇ)』 」」
うをう、ステレオ攻撃っ。しかもメーレまでっっ。
「弱い人間はこの大会の予選でストレートで勝ったりしない」
「しかも開始直ぐに急所狙いの一撃必殺で昏倒なんかさせたりしねぇ」
『アレはサスガにかわいそーだったぞマヌ』
ソレはあたしが強かったからじゃないです。相手の方が隙だらけで弱かったのが悪いんです。
「「『…………』」」
あ。沈黙した。
「……アレで弱いってか……今年は結構なヤツが揃ってんだけどな……」
「……マヌの中での強さの基準はどうなっているのだろうな……?」
え。あたしの強さの基準?そりゃあおかーさまでしょ。
森にいた時に、何度か戦い方教えて貰ったけど。
いっつもモノの数秒で転がされて終わりだったからなぁ。
「……色男を拾ったっつー、ご隠居さんがか……」
「……一体どんなご老体だったんだろうな……」
どんなって、おかーさまはおかーさまです。
ヒトじゃないけどねっっ。
でもそんな事までツルっと言うワケにはいかないから、笑って誤魔化す。
「……まあ、何はともあれ。本戦出場おめでとう」
「あ、ありがとうございます?」
「なんで疑問形……このままホントに優勝狙っちまえ」
ををう。何てムリ難題を言ってくれるんだこのおっさんは。
「……ま、まあ、やれるだけやって――――」
そんな事を思いながら、差し触りない言葉を述べようとした時だ。
「マヌッッ!!」
……んをっとぉ?
どっかから飛んできた声。
うん昨日も宿で聞いたばっかだしお気に入りな子の声だから覚えてる。コレは。
『…………げ。マヌ、コレって』
「…………うん。もしかしなくても…………」
ひきっ、と口元戦慄かせながら。くりん、と振り返って見てみたら。
だっだか走ってくる……をを?ををを??
どっしーーーーんっっ!
『にゃっっ!?』
「っうわっっ!?」
なにゆえ!?何故シュアあたしの腰にタックル!?
辛うじて受け止めたけど下手したらすってん転がってたよ!?
うわ、しかも苦しいっ、腕っ、力入れ過ぎでしょ!!
「ちょ、シュア!!絞まってる!!絞まってるから苦しいから!!離して!!」
『うおいこらイヌお前マヌを殺す気か!?』
「イヤだ!!離したらマヌ逃げるだろ!?」
てゆーかなんで逃げる前提!?いや逃げたいけども!!
べしべし頭叩き背中叩きしてたらちょっと緩んだ……でもまだくっついたままなのね。
「だーかーらー!離れろってのシュア!!襲うよ!?」
『踏み潰すぞ!?』
「……いや、襲うのは如何かと思うんだが……」
おねーサマないす突っ込み。
おっさんはイキナリ出てきたくっ付き虫にまだぽかんとしてる。
「――――何をしているんだ、貴様は」
ソコへ、またまた掛けられた第三者の声。
ソレに、シュアのふさふさ尻尾がぶわっっ!!と膨らんだ。
固まった身体が、あたしから離れる。1歩引いて、その声の主に振り向く。
あたしもメーレもおっさんも、おねーサマすらがシュアの視線を追い掛ける様に首を巡らせて。
『お?』
「――――ドチラ様?」
シュアを睨み付けるヤの付く人……いやいや、硬派っぽい青年がいた。
「…………何でイスターがココにいるの」
『………うっわぁ。すっげぇ重低音』
…………シュアもしかしてこの人と悪い意味でのお知り合い?
「参加者が予選会場にいる事の何が悪い」
うわわわ。コッチもコッチで重低音。
もしかしなくても犬猿の仲ってヤツですか?ヤツですね?
「この区画は無差別級部門だ。軽量級部門はアッチだろ」
「そういう貴様こそ、重量級部門は向こうだろうが」
「オレは友達の様子見に来てるんだよ」
「その友達とやらは随分と迷惑そうだがな」
「ドコをどう見たらそうなるの。ああ、そうか。目が悪いんだっけ。若いのに可哀想だね。1度医者に行った方が良いんじゃない?」
「そういう貴様こそ、何をどうすればそういう解釈に行きつくんだろうな。ああ、確か頭の出来が悪いんだったか。こればかりは医者に掛かっても治らんだろうな、可哀想に」
ちょ、ホントちょっと待て。
ソコで何であたしを挟んで言い合う。
「――――…………ケンカ売ってる?」
「――――…………そう思うか?」
や、だから待てってどーしてソコで剣の柄に手をやる!構える!?
「はいソコまで!!」
パンッと小気味のイイ音が響き渡った。
ハッとしてソッチを見ると、何時の間に来てたのかサウラちゃんとレグレとテトラちゃんの姿。
「何やってるのシュア、こんなトコで」
「イスターも、ココは引いとけ」
「…………大人気ない」
をを、キミ等は救世主だ。後光が見えるよいやマジで。
3人に割り込まれて、シュアも青年もチッとか舌打ちして柄から手を離す……てゆーか舌打ちって。
「……あー、色男の仲間か?」
『仲間、じゃねぇなぁ』
「うーん……知り合い以上友達未満、かな」
蚊帳の外だった熊のおっさんが、ココで疑問を挟んできた。
ので、軽く苦笑しながら返し。
「で、シュアはどしたのイキナリ。おれに何か用?」
「ああ、そうそう。ソレなんだけどね」
にぃっこり。
あたしに振り返ったシュアは、もう、何と言うかすっごくイイ笑顔。
『…………あ。ヤバ』
メーレも思ったか。あたしも思う。何かコレ、ヤバい。
思わず腰が引けて、だけどぐわしぃっっ!!と腕を掴まれた。
や、ちょっと、すごいギリギリ入ってるんですけどギリギリとチカラが。
「マヌにね、聞きたい事があってさ」
「な、なに?」
「うん、何でココにいるの?」
「え、それはー……そのー……ち、ちょっと、見学に?」
「ココ出場者か関係者しか入れないんだけど」
「うぐっっ」
「マヌ関係者じゃないよね。ソレに出場しないって言ってたよね。弱いからってオレ達が団体戦メンバーに誘ったのも断ったよね」
………………うあ。キた。やっぱキた。
確かに言った断った!!
だからちょくちょく食べにくるらしい宿でも予選会場でも鉢合わせしないよーにしてたのに!!
何でこの子等ココにいんのココって無差別級部門の予選会場っしょ!?おたく等部門違うっしょ!?
「なのに何で予選出てるの、何予選突破してるの本戦出場決定してるのしかも無差別級部門で!!」
「……あー……」
ちょ、シュア剣幕スゴイ。怖いってちょっと。
「無差別級だよ!?この大会の難易度ナンバーワンだよ!?ひと試合勝つだけでも苦労するんだよ!?」
「やっ、落ち着け、マズは落ち着いてシュアっ」
ギリギリとヒートアップしていくシュアに慌ててあたしの腕を掴む手を掴み返し。
ちょ、いたたた痛い痛い痛いって!!アンタあたしの腕の骨折るつもり!?
そんなあたしに気付いて、ふっと力を抜き、すー、はー、と1回深呼吸したシュアは。
「――――何で弱いなんて嘘ついたのか、理由を聞かせて貰えるよね」
「…………あー、ソレはー…………」
「ソレは?」
ちろん、と周りを見回した。
おっさんとおねーサマは未だ現状についてけないでいる。
レグレとサウラちゃんは……イイ笑顔だ。
テトラちゃんとコワモテさんは……あっ、その視線痛いっ。痛いわっっ。
『……マヌ、コイツら怖ぇ』
うんあたしも怖い。
――――ぬ。アソコにスペースが。おねーサマとコワモテさんの間。不意を突いたら、この輪から抜け出せそうな。
――――よしっ。
「……………………ぢゃっ」
ココは逃げるが勝ちだ!!
力が抜かれた手を振り解いて、そのままダーッシュ!!
――――…………なんて、そうは問屋がおろしませんでした。
「私も聞きたいわ、ねえマヌさん?」
「当然、話してくれるんだよな?マヌ」
背後からしっかりがっしりと。
多分あたしが逃げようとするのが解ってたんだろう。あたしの右からも左からも、腕を組んで来たレグレとサウラちゃんに、ひきっ、と顔が引き攣る。
「…………お話、しましょ」
しかもテトラちゃんまで真っ正面からずずいってホンット怖ぇえ!!
「まあ、こんなトコで立ち話も何だしな。どうせ昼飯まだだろ?食いながらでも話そうか」
「……えと、おれ、お腹減ってない……」
「ダメよマヌさん。体調管理はランカーの基本よ?ご飯はちゃんと食べなきゃ。私美味しくて安いトコ知ってるの。行きましょ」
だけどあたしの意思なんてアウト・オブ・眼中で。
「逃がさないって言っただろ?観念してゲロってもらうからね、マヌ」
憐れあたしは、ぽかーんと見送るおっさん達の視線を感じながら。アニマルカルテットに有無を言わさず引き摺られて行くのだった。
……市場に売られていく子牛の心境って、こんなのかもしんない。
~・~・~・~・~
毎度お馴染み『日溜まりの草原亭』、ではなく。大通りに面したとあるお食事処。
子牛の如く連行されてきたあたしは、左右がっちりサウラちゃんとテトラちゃんにホールドされ、目の前のシュアに睨まれてしゅーんとしていた。
ちゃっかり熊のおっさんと三節棍のおねーサマも着いて来てる。
そしてシュアと一触即発だったコワモテまで一緒なのは、何と言うか。
「まあまあ、その辺にしとけや。色男もワザとじゃなかったんだしよぉ」
「つかおっさん誰だよ。そっちの姐さんも、マヌとはどんな関係だ?」
「俺か?俺ぁバルグ・レンドリアだ。リアタリスでランカーやってる。獲物は鉄球でな」
「鉄球?バルグ?……『粉砕』のバルグか!!」
…………えー。何その厨二病な呼び名。
『ちゅーにびょう?何だソレ?』
うーん。一言で言い表わすのはムヅカシイけど……まあ、何コイツ頭湧いちゃってんの?みたいな事をイキナリ平然とヌケヌケと声高々に言う人の事かしら?
『つまりはマヌのモーソーとおんなじなんだな』
……ぐっっ、あ、あたしはまだ脳内大絶叫なだけだからアソコまでイタイ人種じゃないわ……!!
『目クソ鼻クソを笑うってヤツだな』
………………ヨシ。メーレお前今日のデザートなし。
『ごめんなさいでした!!』
「って何時の間にそんな凄い人と知り合いになっちゃってんのマヌ!?」
うをっとシュア。イキナリ乗り出さないで。コッチだってなりたくてなったワケじゃないから。
つか何でおっさんもおねーサマも一緒にいんのホント。
「私はレイア・エルメロイ。トリエンレッタを拠点にしているBランカーでね。君達は?」
「……レイラ・エルメロイ……まさかの『閃棍』ですか……?」
……うをう。おねーサマにも厨二な呼び名があるのサウラちゃん……
「……オレはシュア・ローニクル。Cランカーの大剣使い。マヌとは友達なんだ、最近なったばかりだけど」
「……さ、サウラ・ギーニアです。私達、ココの隣町のタルカを拠点にしてて。あ、Cランカーです。マヌさんとは、大通りで会ったのがキッカケで」
「…………テトラ・ウィーニ。Cランカー。短剣使い」
「レグレだ。レグレ・オーラン。シュアと同じCランカーで剣士。――――ソレとマヌ。コイツはイスター・シアーズ。俺等のもう1人の、幼馴染だ」
「ちょっと待てシアーズだと!?あのシアーズ兄弟か!?!?」
うをっとう?
何だ何だ。何故そんな驚いてるんだおっさん。
あれ、見ればおねーサマも、びっくり眼でコワモテを見てます。
ナニ、この人そんなに有名なの?
「あの、というのが何を指すのかは知らんが。確かに俺の名はイスター・シアーズだ」
「…………サウラちゃん、彼は有名人なの?」
腕組み脚組み、踏ん反り返ってふんと面白くなさそうに言うコワモテをチラ見しながら、あたしの横のサウラちゃんにコッソリ。
「この街を拠点にしてる、『黄昏の鋼』っていう剣士ばかりの傭兵団の副団長で。彼のランクはSよ」
そしたらサウラちゃんは苦笑して、コレまたこっそり教えてくれた。
………………うわぁお。
どー見てもあたし(の外見)と同じ年。や、コワモテの所為でもう少し上に見えるけど。けどどー多く見積もっても20代後半が最高だろう。
そんな若いのにランクSて。
「…………はあ。シュア君達の年頃で、ランクがCというのも中々にいないものだが。まさか君、いや貴殿が『黄昏の鋼』の副団長殿とは…………」
レイアさんのしみじみ~な言葉に、あたしもうんうん頷いた。
まさかこんな、コワモテだけど年若いにーちゃんが、そんな凄い人だなんて思うまい。
…………や。確かに圧迫感とゆーか存在感は、ソレ相応だけど。
あ。シュアがなんかケッて。チンピラ化してるよ。
『イヌって、そんなに嫌いなのかアイツの事?』
……まあ、世の中生理的に受け付けない相手ってのはいるモンですから?
だからそっとしといてあげようねメーレ。
「で、何だってそんな有名人がマヌと一緒にいるんだ?」
……うあ。話戻った。そのまま脱線してくれれば良かったのに。
思い出さないでよレグレっっ。
「ああ、俺等予選第一試合で色男と当たってな。見事に一発KO貰って昏倒しちまったのよ」
「「「…………え?」」」
「私もあれ程キレイさっぱり負けるなど久し振りの事だった」
「「「……………………ええ?」」」
「そんな強ぇのがソロだってんだ。今のウチにコナ掛けてあわよくばコンビ組んでやろうって思うなぁ、当然だろ?」
「「「………………………………ええええええ!?!?」」」
……きゃー。シュア達大合唱。
止めて周りのお客さん達すっごい驚いてるから。
「ちょっ、えっ、まっ、ぅええ!?!?」
「マヌさんGランカーでしょ!?なのに勝ったの!?Aランカーに!?」
「組み合わせが良くてマグレで勝ち上がったんじゃないのかよ!?」
「…………信じられない…………!!」
…………あー、うん。
「おれだって、まさかストレート勝ちで本戦出場するなんて思ってもみなかったよ」
「「「「……………………」」」」
いやんそんな目で見ないで。
あたしだって、未だに実感が沸かないんだから。
「……ねえレグレ。マヌさんホントに初心者だったの……?」
「……ああ。知ってるだろ?ランカー証は発行の時に魔力と魂の波動を記録する。記録された情報は半永久的にギルド本部に保存されて、だから2重発行なんて出来ない。マヌは確かにビギナーだ」
おや。驚き通り越して唖然となったよ。
「……どうしてそんなに強いのに、今までランカーじゃなかったの……?」
「……ドコかの国の騎士団に所属とかしてても、少しくらいは話上がってくるよね……?」
「いやー、色男は本気で自分が強いなんて思ってなかったらしいぜ?」
「「「「…………は?」」」」
あや。おっさんのセリフにみんな変な顔になったよ。
「1年前まで、彼はルシュの森の中でご隠居殿とずっと2人暮らしだったそうだ」
「「「「はぁああ!?!?」」」」
ををう。何でそんなおねーサマの言葉に驚くの。
「ルシュの森!?ってあの高ランク魔物出現多発な危険地域!?」
「Sランカーでも下手したら危ないって処よね!?」
……あー。そーいやそんな事言ってたなーおっさんもおねーサマも。
「魔物のランクも知らなかったみてぇだし、自分とご隠居さん以外、比べる対象がなかったみてぇでなぁ、この色男は」
「そして今だに、自分はご隠居殿に比べればまだまだだと思っているそうだぞ。私やバルグを負かしておきながら、な」
「「「「……………………」」」」
うぉうい。何だそのあり得んモノを見るよーな目は。
『やー。コレは当たり前だと思うな俺』
だから何で!?