13・早まったとは思えど時既に遅く
1日1件。
わんこ達曰く、平和な日雇いの依頼を無理なくこなして。
ついにやって来ました。予選初日です。
宿にはお仕事行って来まーす、って出てきた。だって予選行って来まーす、なんて言ったらライラさんもリチアちゃんもビックリしかねん。
受付のおにーさんに言われた通り9時にやってきたあたし達出場者は、まず予選の方法を説明された。
………………ココでまわれ右して帰りたいって思ったよ。
予選期間は、14日までの5日間。その間に、本戦出場者を12人まで絞る。
しかも部門は5つだ。一番多い軽量級部門の出場者だけで1263人。重量級部門は924人で、あたしの登録した無差別級部門は729人。一番少ないエトセトラ部門でも、415人。団体部門は50組以上の参加。
そんな大人数を、個人部門だけでもたった5日で約40人に絞る。
………………そんな大会の予選だ。マトモな筈がない。
出場者は、各部門ごとにだーいたい50くらいのグループに分けられた。
あたしの無差別級部門はひとグループ14人くらいの48グループです。
「ソレでは、無差別級部門予選第1試合、41グループ、始め!!」
審判さんの声が大きく響く。
あたしが今いるのは、日頃兵士さん達が訓練してる訓練場そのいち。野球場みたいなトコだ。四角くて観戦席もある。こんなんが他にもあるってどんだけ広いんだろうね。
その野球場モドキを4つに区切って、即席のリングの上で行われているのは……バトルロワイヤル。
トーナメント戦も総当たり戦も、出来る程時間も場所もない。解るんだけどね、うん。
「何呆けてやがる色男、試合はもう始まってんだ――――ぜっっ!!」
『マヌっ、右からも来るっ!!』
「(解ってる!!)」
でっかい鉄球を振り降ろして来た熊のおっさんをひょいっと交わし、違う方向から飛んできた投剣の軌道を手に持った刀で変える。
あ、ちなみに今日のあたしは何時もと格好が違います。
何時もは普段着そのものなんだけどね。やっぱ戦闘試合ですからね。
某チョコボ頭の着てる服を練成して着てきました。あらゆる付与魔法こっそり最大まで付けまくりです。
そして腰に佩いたのは2本の刀。久々に部屋出る時から腰に差したよ。
あたしの腕輪は基本ポーチとおんなじ原理で出来てるけど、ソレでも傍目にゃ何もないトコから武器が出てくる様にしか見えないもの。あんまり目立ちたくないからソレは頂けない。
そして、右肩にへばり付いた白い子猫……モチのロンでメーレだけど、コレがまあこの場での一番の場違い間違いナシだ。
「…………ほう、アレを避けるか」
投剣投げてきたおねーサマが何故か感心した様に呟いたけど……何故だろう。何故みんながみんな、あたしを狙う。
そりゃ、こーゆー場合弱っちょろそうなヤツから潰していくのがセオリーだってあたしも思いますけどね。
『……逆に一番強そうだからミンナで潰しちゃおうって感じでこーなってる、とかは考えねぇの?』
いやいやソレこそありえん。
メーレの質問にバッサリ内心で返しながら、あたしはでっかい溜息を吐いた。
…………帰りたい。今直ぐにでも帰りたい。
もーリアイアしちゃおうかしら。
………………だけど目の前のヤる気まんまんな皆様方が、ソレを許して下さるとは思えない。
くそう。どーして魔術禁止なんだ。無差別のクセに。
魔法が使えたらこんなヤツ等、眠りの魔法一発で全員そっこー昏倒さしてやるのに。
ぐだぐだ考えてる間も、皆様方のリンチは続く。
や、全部避けて弾いて受け流してしてるけどね。
「何故だっ!?何故っ、そんな細い剣なのに折れな――――がは!?」
『うおー。けーき良く吹っ飛んだなー』
両手の斧をぶんぶん振り回してたおっちゃんの懐に瞬時に飛び込み、刀をその腹に叩き込む。
吹っ飛んで場外に転がったおっちゃんは、そのまま白目を向いて気絶した。
……ちゃんと峰打ちですよ?
でもすっごいイイ感触がした。多分骨折れたねあのおっちゃん。むぅ、力加減ムズカシイ。
「はっ!!やっぱお前強えなあ色男!!」
鉄球ぶん回すおっさんが肉迫する。
受け止められない事はないんだろうけど、ソレはしんどいからヤだ。
と、ゆーワケで。
「んなっっ!?!?」
いろんなトコロで、驚愕の声。
中でも目の前のおっさんは顕著で、目をぱっかり皿にして、ソレを見てる。
ソレ――――すなわち、自分の得物。
あたしの刀で真っ二つに断ち割られた、でっかい鉄球を。
そんな大きな隙をあたしが見逃すハズも無く、無手になったおっさんを蹴り飛ばして近場にいた小柄な人に迫ってやっぱり刀(峰打ち)で吹き飛ばす。
「……ぐっ、つつ、痛ぅ……っっ!!……て、てっめ鉄球だぞ!?鉄の塊だぞ!?ナニ簡単にそんなほっせぇ剣で真っ二つに切ってやがんだこの非常識モンが!!」
あ。おっさん復活した。
『まじ?マヌの蹴りだぞ?ソッチこそヒジョーシキだろ?』
やー、でもさっきの蹴りそんな力入れてないよあたし?
『…………ああ、うん。(ソレでもアレ、ふつーの人間なら内臓破裂モンなんだけどなー…………)』
「(?何か言った?)」
『いや何でも』
しかもおっさんどっから出したその鎖鎌。
てゆーか非常識モンって。
刀は『斬る』事に特化した武器なんだし、魔力にモノを言わせてあたしが作ったんだし、『斬鉄』出来ても不思議じゃない……あ。そーいやこの世界、刀なかったんだっけ。
飛んでくる鎌を避け投剣を叩き落とし、刀1本と足蹴りで1人ずつ意識を刈り取っていく。
まあ、中にはあたしが避けた攻撃に巻き込まれて昏倒する人もいたけど。
――――そして。
最後まで残ったのはあたしと、何と言うか。
「……っは、何だてめぇ。てめぇみてぇなんがいるなんて今まで聞いた事がねぇぞ、色男」
初手で鉄球、今は鎖鎌を振り回すおっさんが、引き攣った笑みを浮かべて油断無く構える。
「……やれやれ、まさか予選でこんな猛者に当たるとは。運が無いと言うか何と言うか」
そして、隙有らばドスドス投剣を嗾けてきてた、今は三節棍を構えるおねーサマが、溜息吐く。
あたしみたいなのって、猛者って。
…………やー、何て返せばイイんでしょう。
「けど俺だってなぁ、伊達に前回本線出場してるワケじゃねぇんだ。そー簡単にゃ負けねぇぜぇ?」
「私とて、己の武力は其れなりのモノだと自負している――――挑ませてもらうぞ」
………………盛り上がってんね。ヤる気マンマンだね2人共。
前口上を述べた上で、図った様に揃ってあたしに突っ込んで来た2人に。
あたしは、またまた溜息を吐いた。
………………ああ、もう。帰りたい。
~・~・~・~・~
「よぉ色男!!こんなトコにいたのかよ!!」
予選の1回戦目が終わって。
他の予選の試合を見る事もなく、ふらふらと訓練場内を歩いてたあたしは、背後からそんな声を掛けられた。
足を止めて振り返ったら、ソコにいたのは鎌振り回してたおっさん。
と、その隣に三節棍のおねーサマ。
「探したぜぇ。試合が終わるなりさっさと行っちまうもんだからよぉ」
…………なにゆえ?
ついさっきまで敵同士、しかもソレ以外の接点なんてないのに、何であたしは探される。
『ふかんぜんねんしょーで、ウラミゴトとか?』
うをうメーレ。イヤンな事言わないで。
……いや確かに心当たりがないではないけど。
イイ加減メンドーになってロクに相手にもせずにサックリ首に手刀で意識刈り取っちゃったけど。
内心首を傾げながら何時でも逃げられる様に。警戒しながら近付いてくる2人を見る。
「何か、用ですか?」
「そんな警戒すんなよ。メシまだだろ?一緒に食いに行こうぜ」
………………ごはんのお誘い?
ソレこそ何故。
『めし!?食いモンか!?』
そしてメーレお前はソコで反応しない。
「君の強さに些か興味がある。幾つか聞きたい事もあるし、何より1度話をしてみたいと思ってな」
………………うわ。
やり過ぎたのかあたし。もっと手を抜くべきだったのかあたし。
心持ち、右足が下がる。
何だかすっごいイヤンな予感。36計逃げるが勝ち。あれ、違う?いやいや、まあ良い。
「や、悪いけど――――」
「そうと決まりゃ早速行こうぜ!!美味い店知ってんだよ!!」
「って」
馴れ馴れしくも肩組まれました。
しかもそのままズルズル連行される事に。
誰か助けてー、と周囲を見回してみたけど、元々知り合いなんていないし大会執行役な兵士さん達も仕事が忙しくてコッチにまで気が回らない。
……逃げられないのね解ります。
図書館、行きたかったんだけどなーぁ。
あたしはおっさんとおねーサマに挟まれて、ズルズル引き摺られながら、予選会場を後にした。
~・~・~・~・~
そして、やって来たのは大通りのとある食堂。
「んじゃ、ま。先ずは自己紹介からだな。俺ぁバルグだ。バルグ・レンドリア。クインのリアタリスから来た、つい最近Aランクに上がったばっかのランカーだ」
げ。おっさんAランクのランカーなの?
ヤバいマズッた。そんなのを手刀一発で昏倒させたのかあたし。
「私はレイア・エルメロイという。トリエンレッタを拠点にしているBランカーでね」
うっわー。コッチのおねーサマも上級ランカーですか。そりゃあ強いワケだ。
「で、色男はどっから来た?兵士か、もしかして騎士か?実戦慣れしてたから、まさか貴族って事はねぇだろーが」
「……あー……」
思わず声、が出てしまった。
「何だ、話せない事なのか?」
「……いや、そーゆーワケじゃないんですが……」
ハラ、括るしかないのか。
「……マヌ、って言います」
「……偽名か?」
「や、本名です」
ウソです偽名使わなきゃならないホド悪い事してないのに偽名ですが何か?
「ふむ。セカンドネームは名乗れない、と」
「いえ、セカンドネームはありません。タダのマヌ、です」
「…………ああ、孤児院出身か。悪ぃ、いらん事聞いちまって」
「や。別に大丈夫ですから」
てゆーかイイ感じに勘違いして下さいましたねおっさん。
にしても、孤児院出身にはセカンドネームなし、と。覚えとこう。
『なあマヌ、コジインって何だ?』
「(親のいない子供を引き取って育ててるトコだよ)」
『ふーん』
「ではマヌ、君は軍属か?」
「いえ、ランカーです」
あれ、おっさんとおねーサマ首を傾げたよ?何故?
「ランカー?っていやいや、そりゃ変じゃねぇか?俺ぁ色男の事なんざ今まで一度も聞いた事ねぇぜ?」
「確かに。君の様な特徴ある実力者が、一度も噂された事が無い、というのは可笑しいだろう」
いやいやいやいや。あたしそんな強くないって。ふつーだって。
『規格外ではあるけどなー』
あたしのドコが規格外!?
『異界の神様なトコ』
…………あう。確かにソレは、反論出来ん。
だがしかし。
「…………正確には、10日くらい前にランカー証を所得したランカー、です」
「「はぁ!?!?」」
あ。ハモッた。
「て事は何か?お前さんまさかのGランクなのか!?」
「あれ程の立ち回りをしておいて、初心者だと!?」
つかやっぱりオドロク事なのソレって。
「でも本当ですよ」
ポーチに手を突っ込んで、あたしはお財布腕輪からランカー証を出した。
そしてギルドランクと名前しか表示されてないソレをぴらんと見せたら。
あら。おっさんもおねーサマも驚き通り越して唖然となったよ。
「…………ドコぞの国の騎士団とかの秘蔵っ子か何かだと思ってたが…………」
「……いや、其れでも、だ。ランカーになって間も無いとはいえ、あれ程の強さが今まで話題に上がってきていないのは可笑しいだろう」
「……確かに。なのに何で今まで無名だったんだ……?」
や、何故って言われても。
「おれ今まで、森から出た事無かったですし」
『なー』
…………あ。ヤバい口がツルっと。
「……どういうコトでぃ?」
ほぅらおっさん食い付いたっ。
おねーサマも興味深々じゃないかっっ。
あーあー、うーうー、…………よしっ。
「どういうも何も、言葉通りの意味ですけど」
「ずっと森の中で暮らしてたって事か?何でまた」
「……えーと、おれを拾ってくれた人が、森に住む世捨て人だったんです」
間違ってないよねおかーさま世捨て人ってくらい森の外の世界には興味全く無かったよね。
……や、正体明かせないんだからコレっくらいの捏造はトーゼンとゆーか。
あ、なんかお2人とも、ビミョーな顔に。
「…………あー、ちなみに。そのご隠居さんは今、何やってなさるんだよ?」
「亡くなりました、1年前に」
『うをいマヌ。勝手にかーさん殺すなよ。つか殺そうとしても死なねぇぞ?多分』
「(いやでもソレっくらい言わないと誤魔化せんでしょココは)」
『………………うー。ま、仕方ねぇか』
おっさんの疑問にもコレまたアッサリ。
したらメーレから突っ込みきました。
ごめんなさいでもコレ以外に良い誤魔化し方が思い浮かばん。
てゆーか。何か余計にビミョーな空気になってきてるんですが。
「……わ、悪ぃ」
「や、謝ってもらう必要無いです。寿命だったんで、眠る様に逝ったんで」
「――――そ、そうか」
ホッと誰かが息を吐いて、雰囲気が緩む。
…………うん。ちょっとばかし、空気が淀みそうになったけど。
イイ感じに、誤魔化せた、かな?
「……まあ、大体は解った。森には魔物も多く住む。君の強さは、日々魔物を狩って養われた、と言う事なのだろうな……ソレにしては、強過ぎる、と思わないでも無いが」
いやいやおねーサマ。あたしホントにそんな強くないから。
「こーんな女遊び慣れてますって色男が実は野性児ってか……なんか全然想像出来ねぇな」
ちょっとおっさん何その反応。
「む。コレでも魔物狩って生活してたんですけど」
「兎とか狐とか鳥とか?」
「ええ、ダグウリやレッドベア程度なら余裕で」
「「…………は?」」
あ。おっさんもおねーサマも目が点になった。
でもあの図体がデカイ直進にしか突撃できないイノシシとか腕力だけの赤い熊とか。アレは楽な部類でしょうに。
『だよなー。俺でも楽に狩れるもんなー』
…………や、メーレ。アンタとあたしを一緒にしないで。
『たった1週間でホントに狩れるよーになったヤツが何を言う』
…………ぐさっ。ま、まあソレはおいといて。
「ソレに、ゴルドラもガレスタークも1人で仕留められます」
ゴルドラってのは、デカい腕6本の猿の事。
おかーさまのトコにお世話になった次の日に追い掛けられ……けど1ヶ月後にはリベンジをさせて頂きましたが何か?
あと、ガレスタークってのはアレだ。ライオンみたいなずんぐりむっくり。
『以外に美味いんだよなアイツ。また食いたいな』
だから食い気に走るんじゃない……まあ、確かにアレは美味しかったけど。
「まあでも、魔物を相手にするのと人と対峙するのとじゃ勝手がかなり違うから。予選通過出来ればオンの字かなぁ、なんて」
「「いやいやいやいや!!!!」」
んえ?
何なにどしたのおにーサマもおっさんもそんなに慌てて。
「ゴルドラって、あのゴルドラか!?6本の腕がある大きな猿!!」
「ガレスタークっつったら、青い鬣のライオンもどきだろ!?」
「さっき、森に住んでいた、と言ったな!?ど、どこの森なんだ!?」
「え?ああ、確かこの街の北にある……ルシュの森、でしたっけ?」
「「………………」」
…………え。なんであたしの答えに2人とも沈黙?
ワケ解んなくて首を傾げたが。
そんなあたしの肩を、暫くしてから正気に戻ったおっさんがポンと叩いた。
「…………安心しろ、マヌ。お前だったら予選通過も余裕だ」
「へ?」
「保証してやる。お前なら優勝だって狙える」
「や、イキナリ何ですか」
「…………ダグウリの討伐ランクは、パーティならC、個人でB。Aでも下手すりゃ苦戦する。レッドベアとゴルドラはパーティ討伐ランクBで、ガレスタークはパーティ討伐ランクA、個人では最低Sクラスないとまず勝てねぇ魔物、だ。良いか?最低でも、だぞ?その上熟練でもなけりゃ手も足も出ねぇんだからな?」
「…………ルシュの森といえばな、マヌ。そういう高ランクの魔物が多数生息する事で、有名なんだよ」
今度は逆の肩に、おねーサマがポンと手を置いた。
「…………まぢで?」
「「おおまぢです」」
「(………………え。メーレ、まぢで?)」
『俺が知るかよ人に付けられたランクなんて』
――――…………ですよねー。
おっさん・おねーサマのみならず、傍で聞き耳立ててたらしい人達にまで声を揃えて言われ。
あたしは、ぽかーんと口を開けるのだった。