11・3度目ともなればコレはもう必然でせう
図書館はホントにあった。
わんこ達に目の前まで連れてってもらいました。
閉館ギリギリまで粘って、読める限りの歴史書や地理系の本を読んだ。
解った事は少ない。
先ずは地理。
この世界には4つの大陸があって、あたしのいるココは自然の恵みに満ち満ちた草原と雷雨の南大陸、ポミュニス。その北西側に位置するファルガス国の王都、シュリスタリア。
そしてポミュニス大陸にはあと5つ、東の大陸ラキサスには2つ、西の大陸クインには4つ、北の大陸ソエルトには2つ、国がある。
…………文明レベル低いのに、国と呼べるモノが14も。
おかーさまから貰ったヒントなんて『ドコかの王様と契約してる』だけだから、下手すりゃ虱潰しでおとーさまを探すしかない。コレはけっこーキツイかもしんない。
そして、神様に関する大ざっばな歴史。
大昔は神様も良くルーデルディアを経由して、ガロ・ファイレル……いわゆる地上、に遊びに来てたそーだ。
だけど、当時1番文明の発達してたアディールという大陸のとある国が、神々になり替わろうとしたらしい。
けれどもヒトが神に敵う事はなく。彼等の帝国は滅び、アディール大陸そのものすら海に沈められた。
ソレが1万と2千年前、だそうだ。
いちまんねんとにせんねんまえからあ・い・し・て・るー……いやいや、違う。
ソレ以来、神様達は祈りを聞いて力を貸してはくれるものの、地上に降りてくる事は無くなった。
アディール大陸が沈んだ事によって、ルーデルディアへ至る道も無くなってしまった。
とーぜん、1万と2千年も昔の事なので、当時の事を知ってる者は天使族にも竜族にもおらず。
現時点で、ルーデルディアへ行く方法は皆無である。
………………諦めなきゃなんない、んだろーか。
収穫が無かったモノで、メーレも一緒になってとぼとぼ宿に戻る。
しゅーん、としたあたしにライラさんは「何かあったのかい?」って聞いてくれたけど。
何でもナイです、としか返しようがないね。
メーレのおとーさまに会いに全部の国の王様手当たり次第に会わなきゃいけないんです、とか。ルーデルディア行きたいけど方法が解んないんです、なんて。
そんなん言おうものなら、夢多き少年かタダのバカだと思われる。
や、中身はモロおたくですけどね。似たり寄ったりですけどね。
……まあ、探し始めたばっかりだ。そんなさっくり見つかるなんて思ってない。
気長に地道に行きませう。
なんて思いつつ、1階食堂のカウンター席に座る。
今日はちゃんと夕飯を食べるつもりだ。
「おう、マヌ。今日はちゃんと食うのか」
「えと、はい」
「そうかそうか。何食うよ?」
「そうですね……この、タタル魚のムニエル、お願い出来ますか?あとメーレにミル牛のステーキを」
「はいよ、ちーと待ってな。直ぐ作るからよ」
厨房から声をかけてきたライラさんの旦那さん、コック長もしてるトマさんが笑って奥へと引っ込んで。
『明日からどーすんだ、マヌ?』
「どーしよっかねー」
歴史書関係なんて、本屋さんに売ってるのと図書館にあったのと、あんまり差はないと思う。
そしたらやっぱり、色んな人が集まるギルドで情報収集、なんだろーけど。
「……貴族とか王族とかのツテが出来たらなぁ」
王宮だったらこー、もっと突っ込んだ、重要書物とか、もしかしたら禁書指定なのもあるだろーし。
『けどマヌ、キゾクとかオウゾクってめんどーだっつってなかったか?』
「………………そーなんだよなー」
政治とか政治とか陰謀とか政治とか、そんなんに関わりたくはない。
『本のいっぱいあるトコにもっかい行くってのは?』
「却下。今日行った図書館、お城の書庫を除いたらこの街で一番大きいトコらしいし、置いてある本も似たり寄ったり。コレ以上の収穫は無いと踏んで良いよ」
『うー……じゃあ、やっぱギルドで聞き込み?』
「ソレしかないかなー……ギルドランクが低いから、閲覧出来る情報も少ないんだけどね」
でも、丁度良いかも知れない。
何が、と言えば。しばらく真面目にギルドの仕事を受けるのに。
ギルドの説明にも本屋の店主の話にもあったけど、登録者は、依頼のランクや期限によって異なるけど、ひと月でこなさなければならない仕事のノルマがある。
ギルド登録の特典の為に登録するだけして依頼受けない、なんてのを防ぐ為、って言ってた。
Gランクのランカーは、ひと月最低10件の日雇い依頼をこなさなければ、登録証が無効になるのだ。
ヨシじゃあ明日からしばらく真面目にギルドの仕事を……
「あ!」
ん?
なんか聞こえた。なんかオドロイタよーな声が。
首を傾げ、ちろん、と店内を流し見る。
酒場を兼用してるこのお店は、だけど時間帯がまだまだ日が暮れたばっかり、という事もあって、お客の入りはまだ少ない。
その、少ないお客の中に。
「あ。」
わお。つい最近見た顔。今日の昼間にぶつかったわんこじゃないですか。あ、にゃんこも。
ギルドのトラ耳な受付さんに……ををう、痛い痛い緑の美人さん。
つかやっぱイイね美人にイケメン。目の保養だよっ。
ってゆーか妄想掻き立てられちゃうよ!!
ツンと澄ました気紛れっ子!!かまって欲しいわんこ!!
だけどゼンゼン構ってくれなくてしょんぼり耳垂れさせて諦めた時に!!長いしっぽがわんこの尻尾にくるん、て絡まって来たり!!
ソレに気付いてバッとトラ耳くんに振り向くわんこ!!そっぽ向きながら「ドコ行くつもりだよ」なんて文句言うトラ耳くん!!
ああ!!イイわイイわ!!わんこはソコでぱぁって笑ってトラ耳くんに飛び付くのよ!!
そんでもってっ、トラ耳くんはしばらく剥がそうとするんだけどっ、わんこがあんまりにも嬉しそうだから諦めて、でも素直になるのは癪だからニィってあくどい笑みなんて浮かべちゃったりして!!
わんこの尻尾に巻き付けてた自分の尻尾移動さすの!!腰とか脇腹とかに!!くすぐったくてわんこ離れようとするんだけど、トラ耳くんは逃がさない様に逆に抱き締めてっっ。尻尾っ、しっぽが腰から脚にっ、そしてそして――――っぎゃーーーーっっっ!!!!イイ!!イイぞそのままベッドイ
ぺちん。
『マヌきもい』
「お待たせしましたー。タタル魚のムニエルとミル牛のステーキでーっす」
……ををう。
メーレから猫ぱんち頂きました。
しかもトマさんとライラさんの娘さんでウエイトレスさんのリチアちゃんにブチ壊されましたありがとうございました。
って、ああっ!!あたしの心のオアシスが!!
でもめげないわだって目の前にネタがあるんだもの!!
ぺちん。
『だからマヌきもいって』
「ボリューム少なめにしてもらってるけど、マヌさん食べられそう?」
…………ふ、ふふふ、ふふふふふふふふ。
2発目いただきましたありがとうございました。
こんにゃろうドモ1度ならず2度までも……
――――…………や、もーいーわ。
確かにこんなトコで、くねくねうにょうにょしてるのは客観的に見なくてもキモい。
取り敢えずごはんにしよう。
「あ、うん大丈夫。ありがとうね、リチアちゃん」
「いえいえ、どーいたしまして。あ、コレサービスのスープね」
「ん、ありがとう」
にっこり笑って「じゃあ、ごゆっくり♪」って言って戻ってくリチアちゃん。
あの子もけっこーカワイイ。ミニなスカートからすらりと伸びる脚は目の保養だ。
トマさんに似なくて良かったと思う。
まあ、ソレは今はおいといて。
「さて。じゃあ、いただきまーす」
『おう!いっただきまー――――』
「なあ、アンタ」
……ふえ?
『んぬ?』
ぱむ、と手を合わせたら、後ろから声が掛かった。
首を傾げて振り返れば……あれ。トラ耳くんではないか。
…………なにゆえ?
「アンタ、1人か?」
「え、ええ、まあ」
「なら、俺等と一緒に食わねぇ?」
なにゆえっ!?
「え、と」
「1人で食うのも味気ないだろ?ソレに、アンタと1度話してみたかったんだ」
だからなにゆえっ!?
あうあうあう、てしてる間に。
トラ耳くんはさっさとあたしの目の前の料理を手に持って。
「ほら、行こうぜ」
…………きょーせーですかそーですか。
『ああっ、俺の食いモンー!!』
「…………仕方ない、か」
変に断って悪目立ちしたくないし。
お付き合い、いたしませう?
さっさとテーブルに向かうトラ耳くんの後を追っかける。
そのテーブルの上にはガッツリ系な料理が5品ほど。
そして席に座ってたわんことにゃんこはやっぱりドコかぎこちなく。
そして緑の美人さんの視線は凶器ですね。穴開きそうです。
「あのっ、昼間はホントに、すみませんでしたっ」
「……いえ、コチラこそ……え、と。お邪魔、します」
「あっ、はいっ、どうぞどうぞ!」
慌てて立ち上がって、椅子を引いてくれるわんこに、あたしはちょこんとお辞儀して。
座ったら、トラ耳くんがあたしのムニエルを目の前に、テーブルの上に降りたメーレの前にミル牛のステーキを置いてくれた。
「悪いな、付き合ってもらって――――俺、アンタと1回会ってんだけど、覚えてるか?」
「……ええ、ギルドの受付さん、ですよね?」
「アタリ。っても、ギルドの受付は臨時なんだけどな」
「…………え、そうなんですか?」
ありゃ。従業員さんだと思ってたよ。
「ああ、親戚が職員やっててさ。人手不足だって借り出されたんだ。元は俺も双剣のランカーでランクはC。レグレっていう。宜しくな」
「えと、オレはシュア、です。大剣使いの、レグレと同じランクCで」
「私、サウラっていいます。ランクはCで、得意なのは弓です」
「…………テトラ。短剣使い。ランクC」
「……マヌ、です。宜しくお願いします?」
「ナゼ疑問形。というかその敬語何とかならないか?俺等同じ年くらいだろ?」
「……はぁ、多分」
とゆーか30過ぎのおばちゃんですが。
「と、取り敢えず、食べながら話そうか」
「そ、そうね。折角の料理が冷めちゃうし」
「だな……けどアンタそんなんで足りるのか?つか普通ソッチの猫のと反対だと思うんだが」
「あ、うん。おれ、そんなに量食べれない、から。ソレにメーレ、肉好きだし」
『おう!にくにくーvv』
へら、と笑いつつムニエルを口に運ぶ。
……うむ、美味し。トマさんイイ仕事するなぁいっつも。
こりゃ本格的に、魚醤作ってもらおっかな。
ソレからポツポツとお話しながら、食事の時間が過ぎていく。
レグレとサウラちゃん、そしてシュアとテトラちゃんは幼馴染、だそーで。
幼馴染設定キタァァアアアァァアア!!
コレはアレですかアレですねわんこくんを挟んだ3角関係!!いや4角関係っ!!
わんこを好きなにゃんこ!!だけどトラ耳くんもイヌ耳くんが好きなのをにゃんこは解ってて、敢えて「あたしわんこの事好きなんだけどどーしたら良いと思う?」とかってトラ耳くんの気持ちに気付かないフリしてトラ耳くんに相談持ち掛けんの幼馴染の特権振り翳して!!
トラ耳くんはソレにすっごい動揺して迷ってするんだけどわんこの事考えたら彼女作って結婚して子供作ってってのが幸せだろうって心を痛めながら2人の事を応援しちゃうのよ!!
だけどだんだん中睦まじい2人を見てる事に耐えきれなくなって、ある日突然姿を消しちゃうの!!
ソコへトラ耳くんの事が好きだった美人さんが爆発!!アンタの所為でっ、アンタの所為でー!!ってわんこに八つ当たり!!
そしてわんこはハッとする!!いなくなって初めて解るトラ耳くんの存在!!追い縋るにゃんこの手を振り払いっ、わんこは言う!!「俺の一番は……やっぱりアイツなんだ」―――きぃぃいやぁぁぁああああ!!イイわイイわよそしてわんこはわんこを探す旅に出
がりがりっっ。
『マヌきもい』
あうちっ!!ナニするのさメーレ!!イキナリ手の甲引っ掻かないでよ!!
…………や。モチつけあたし。もとい、落ち着け。
トリップするのはイイけど、時と場所と場合を考えよう、うん。
彼等はココ、シュリスタリアから歩いて5日くらいのトコにある、タルカって町からやって来たらしい。
目的はもちろん、闘技大会。シュアは重量級部門、レグレとテトラちゃんは軽量級部門、サウラちゃんはエトセトラ部門とやらに出るんだそーな。
「で、団体戦、ってのもあるんだけど」
「団体戦の参加資格が、5人以上のパーティなの」
「オレ達、4人しかいないから、出たくても出られなくて」
…………あ。なんかヤな予感。
思わず身構えてしまったあたしに、彼等は真剣な顔をする。
そして、次に出た言葉は。
「アンタに頼みがあるんだ」
「……えーと。イキナリで悪い、とは思うんだけど」
「私達と一緒に、団体戦に出てみる気、ないかしら?」
…………あっはん。
やっぱそーきますか。
「…………え、と。おれ、弱いですよ?」
「ああ、アンタが登録したばっかの初心者だって事は知ってる」
「けど、他の知り合いに声をかけようにも、皆もうパーティ組んじゃってて」
「モチロンちゃんとフォローはするし、大会までにギルドの討伐依頼とかで戦い方も教えるよ」
「ソレに、ランカーに登録するくらいだから、多少は戦えるんだろ?」
「「「だからお願い(頼む)パーティ組んでくれないか(な)?」」」
…………あう。
どーしようあたし。どーすればいいあたし。
大会に出るメリットなんて……ああでもギルドランクに影響するんだっけ。
いや、でも付け焼刃で連携なんか取れるかううーん。
『どーすんだ、マヌ?』
「……ううーん……」
考えて。かんがえて。カンガエテ。
「……折角のお誘いですけど……」
バッサリ言い切る、とまではいかないけど、そろり、と。
だけどわんにゃんトリオはあたしの声に力が無い事を見抜き。
「どうしても無理、か?」
…………うぬ。アッサリ諦める様ならあたしみたいなぺーぺーに声掛ける、なんてしないよね。
だけど、ねぇ。
「――――ランカー成り立ての人間に声を掛けて、短期間の戦闘実施訓練をして、付け焼刃の連携しか出来ないのに出て、勝てる様な温い大会じゃ、ないでしょう?」
「「「うっ」」」
「参加する事に意義がある、とは良く言いますけど。数合わせだけのパーティで、本当に参加する意義はあるんですかね?」
「「「うぐっ」」」
…………おー。わんにゃんトリオが沈黙した。
そしてテトラちゃんはさっきから無言だね。しかもあたしが断った途端、あたしに興味失くしたみたいにガン見して来なくなったし。
………………そんなにあたし嫌われてんのかこの子に。
ま、まあ、でも言葉とーりだと思うんだあたしは。
「個人戦は出るんでしょう?なら今回はソレだけに絞って、団体戦は仲間が増えてから、次の機会にしたらどうですか」
正論じゃなかろーか。
……でもちょっとバッサリ言い過ぎたかな、なんて思うのはあたしが元日本人だからか。
「……うん。そうね。確かにその通りだわ」
「……だね。ごめん、イキナリこんな話して」
「や、コッチこそ…………て、事は」
「……ああ、この話は無かった事にしてくれ」
しみじみ、ほんとーにしみじみ言うわんにゃんトリオと我関せずな緑の美人さんに。
あたしは、ちっちゃく苦笑した。