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ドアツードア

作者: 泉田清
掲載日:2026/06/08

 夜明け 


 体感五時間の睡眠の後、強い日差しで目が覚める。時計は4:00を表示している。実際は四時間だった。体感は一時間遅れていた。つまり眠りに就いたのは0:00である。


 部屋はピンク色の光に溢れていた。ドアの覗き穴からもピンクの光がレーザー光線のように差し込んでいる。「外へ出てみよう」大胆にもそう思ったのだ。

 「4:00なら誰も居ない」一方で「4:00なら何が起こってもおかしくない」という、相反する二つの予想が緊張を生む。ここで「ゴミを出しに行く」目的を作ることで緊張を緩和させた。


 覗き穴から外の様子を伺う。湾曲した電線にスズメが二羽止まっている。良く落ちないものだ、いや、レンズ越しにそう見えるだけだ。勢いよくドアを開けたら驚くかな、何だか楽しくなってきた。ゴミ袋の取っ手を縛る。よし、開けるぞ!

 キイイ。何か空ぶったような、何の手ごたえもない音でドアが開いた。思いの外冷たい空気に身震いする。やはり空はピンク色に染まっていて、目に映るもの全てがピンク色のフィルターがかかっているかのようだ。電線に止まっていた二羽のスズメは既に居なくなっていた。


 月見


 セキュリティーをかけ、静かにドアを開ける。月がこちらを見下していて、恐らく私と目が合った。ピイー!セキュリティーが早くドアを閉めろと急き立てる。外に出て確実にドアを閉めた。本日の業務終了。

 夕方。帰りがけの新入社員の娘と目が合った。ついさっきの事だ。部署が違うので名前も知らない。とても可愛い娘で私とは親子ほど歳が離れている。親でもなく、恋人もいない私にとって、私と彼女は地球と月ほどの距離があるといってもいいだろう。


 外灯がポツンとマイカーを照らしている。遅番は罰ゲームみたいなものだ、誰もやりたがらない、いつも私は押し付けられている。マイカーに乗り込みエンジンをスタートさせる。コンビニで弁当を買わなければならない。ハンドルを握って発進する。アパートまでは11キロメートル。帰ったらシャワーを浴びなければいけない、運転中は車の計器類を凝視しなければいけない、遠くの街のまばらな夜景に癒されなければいけない。こんな夜遅くにヒトはあまりに忙しすぎる。ついさっき出会った月は視界からも心中からも消え去ってしまった。それでもはるか頭上から私を見下ろしていたはずなのだ。

 

 就寝

 

 横になる。目を瞑ればすぐにでも眠りに落ちそうだ。が、「ある気がかり」があった。ドアのカギをかけただろうか、若しくはドアガードを?すぐ確かめるべきだ、とはいえ、一旦横になると億劫なのだ。


 仕事中だるさを覚えた。少し寒気もする。昼間冷房にしていた車のエアコンを夕方以降は暖房にした。だるさに加え軽い頭痛もしてきた。帰る頃には頭痛は酷いものになってしまった。私の風邪は喉からくる。こんな酷い頭痛は直近のパンデミック以来。多くのヒトと同じように私も罹患し、五日間の休業を余儀なくされた。恐ろしい。ドラッグストアで対策グッズを買い込んだ。

 帰宅してすぐ体温を測る。奇妙なことに熱は無い。無いどころか35.5℃。測り方を間違っているのか。しかし何度測っても35.5℃。市販薬を飲んだら頭痛も治まった。食欲もあるしもう大丈夫。


 栄養をつけるため食べすぎた感がある。猛烈な眠気に襲われる。そこへ「ある気がかり」が持ち上がったわけだ。すぐ確かめるべきだ、起き上がるのが億劫だ、しばらく横になったまま二つの葛藤に苛まれる。そしてそのまま寝てしまった。

 2:00に目が覚める。部屋の電気は全て点いていた、吞みすぎてそのまま寝てしまったような状況だ。頭痛は喉の痛みに変わっている。やはり風邪だったのか。起き上がってトイレに行く。ついでにドアの確認もする。カギもドアガードもちゃんとかかっていた。全ては杞憂だったのだ。


 すべての照明を消して横になる。外は真っ暗闇で静寂に支配されている。何という幸福。ようやく何の気兼ねもなく、眠りに就いたのだった。

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