歓待
「あらあら、これは痛かったでしょう。こんな状態で息子を助けていただいたなんて、なんとお礼を申し上げればいいか」
「いや、ホントに大丈夫です。仕事柄、怪我は多いので」
顔を優しく拭われて、一目で高価とわかる薬を惜しげもなく塗られながら、どうしてこうなったと心の中で呟く。
助けた子供がロダン・アイと判明してから、俺は家に招きたいという申し出を手のひらを返して受け入れるしかなかった。しかし自分で言うのもなんだが、今の俺は勇者という身分を証明することもできず、不審極まりないはずだ。
正直、熱烈な歓待ぶりに戸惑うばかりで、ロダン母の勢いに完全にのまれている。
こちらが何かを言う前に手当てを施され、昼食を振る舞われ、宿なしであることを知られてからは是非泊まってくれと言われる始末。
「はあ」
「あら、傷が痛みますか?」
食後のお茶を運んできたロダンのお母さんが心配そうにこちらを覗き込んだ。
「大丈夫ですよ」
にっこり笑ってティーカップを持ち上げると、ツンとした痛み消しのハーブの独特な香りがした。薬もそうだが、これだって安い物ではない。思わず口をつけずにソーサーに戻してしまった。
「この香りは苦手でしたか?」
首を横に振る。
「どうしてここまでしてくれるのですか」
ロダンのお母さんは、おっとりと首を傾げた。その拍子にロダンと同じ銀の髪がさらりと揺れる。
「どうして、と言われましても。恩人をもてなしたいと思うのはそんな顔をするほどの事ですか?」
「どんな顔をしていますか」
「罪悪感で苦しい……そんな風に見えますわ」
弾かれたように顔を上げると、眉を下げ、小さい子供を見るような眼差しで見つめられていた事に気づく。
「あの子は……ロダンは母親である私が言うのもなんですが、とても優しい子なんです。本当はすごく勇者様に憧れていて、でも自分の体がそんなに強くないことを知ってから、その事を口に出さなくなりました」
ロダンが、勇者に憧れている? だがロダンは家族を殺した偽物の勇者を恨んでいて。いや、まだその出来事は起きていない……心臓がかつてないほど早鐘を打っていた。なにか今、核心を掴みかけた。
しかしそれを捕まえる前に、ロダンのお母さんの声が俺を現実へと引き戻した。
「きっと私を気遣ってくれてのことです。もっと丈夫に産んであげられれば……情けない限りです」
「……」
「でも。そんなあの子が貴方のことを勇者様みたいだって、目をキラキラ輝かせながら語るんですもの」
心底幸せそうに、花開くように笑った。その笑顔があまりにもロダンに似ていて、言葉を失う。
「子供を信じるのは親として当然でしょう?」
ああ、ダメだな、と思った。これ以上関わったら俺はロダンを殺せなくなってしまう。この優しい家族から子供を奪うことができなくなってしまう。
机に立てかけておいた勇者の剣がかたり、と揺れて答えた気がした。
次回更新は明日20時になります




