謁見
今回から勇者視点になります。
「魔王を倒し、ようやく一息つけるかというところだったのに、其方も災難なことよ」
謁見の間にて、上段からかけられる王の声は平坦で感情が伺えない。許しを得ていないので片膝をついたまま深く垂れた頭を上げることはできないが、おそらく表情も平素と同じだろう。
奇しくも魔王を倒した勇者として華々しく凱旋し、この場で王から褒賞を受け取った時と同様の構図だ。
あの日からまだ一週間もたっていないというのが信じられない。
「して、実際の状況はどうであった」
「は、魔力溜まりを中心として魔物の出現が格段に増していることは確かです。現状、駐屯兵ではまるで対応しきれず、陛下にお貸しいただいた近衛兵がいなければ市井に被害が出ていたやもしれません」
「そうか」
「また、竜の出現が認められましたので私が応戦し、討伐いたしました」
「うむ、ご苦労。して勇者よ、面をあげよ」
ゆっくり顔を上げて拝見した王の顔は、想像と違い疲労の滲むものだった。
「こちらでも元凶である黒いローブの人物について調べていたのだ。ちょうど其方が帰還する直前、官吏がやってきたところでな。其方も共に報告を聞くがいい」
「かしこまりました」
後ろから入ってきた王宮勤めの制服をきた官吏は、両膝をつき、袖で顔が隠れるよう眼前で手を組む正式な礼をとりながら朗々と語り上げた。
「恐れながら申し上げます。戸籍登録名、ロダン・アイ。今年成人したばかりの性別男であり、ルタール地方出身。しかしルタール地方に身を置いていたのは七歳までであり、勇者を名乗る不審な男により家族を惨殺されたのち、隣地方の孤児院に預けられた模様で御座います」
「は」
堪えきれなかった息が漏れた。王は横目でそれを見ると、官吏に問いかけた。
「その孤児院は今どうなっておる」
「は。十年前に最後の責任者だったシスターが亡くなったことで孤児たちは方々に散り、事実上の閉院と相成りました」
「ふむ、ならばそこから得られる情報はないか」
俺は二人の会話をどこか遠くに感じながら拳を強く握りしめていた。それは恨むだろう、苦しかっただろう、呪ってしまうだろう。本来自身を守ってくれるはずの“勇者”という存在に家族を奪われたのだから。
同時に納得する。あの大衆の中、リスクを冒してでも俺の目の前でことを犯した理由を。彼はきっと、俺に復讐したかった。
しかしどれほど哀れな事情があったとしても、彼がしたことは国の、ひいては世界への反逆。許されることではない。
「……そちらは別途調査させよう。して、“本物の”勇者よ。其方はどう思う、彼奴をどうする」
「如何なる理由があろうとも、勇者としての使命を全うするまでです。
私がロダン・アイを討ちます」
「うむ、よく言うた」
頭を下げながら、俺の心は迷いに揺れていた。本当にそれでいいのだろうか。殺す以外の道はないのか。
謁見の間を後にして、俺は深いため息をついた。心も重いが体も重い。そういえば竜を討伐してから休まずに王宮に帰還したんだった。疲れているわけだ。
「勇者様」
穏やかな声に振り向くと、神殿の衣装をまとった青年がこちらを見据えていた。そして深々と頭を下げた。
「お疲れのところ申し訳ありません。僭越ながら聖女様より言伝を預かっております」
「聖女さまから?」
封蝋は確かに聖女さまのみが使われるものだった。中を見ると聖女さまらしい優雅な筆跡で、急な無礼を詫びる言葉と大事な話があるので今夜すぐにでも面会したいと書いてある。
封印石のことでなにか分かったのかもしれない。当然了承の旨を伝えると、使者は去っていった。
誰もいなくなった廊下で、そっと聖女さまの筆跡を指でなぞる。少し心が和らいだ気がした。
次回更新は明日14時以降になります




