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痛み分け 〜終幕〜

 ロダン視点になります。


 夢を見ていた。勇者になりたい。子供なら一度は抱くような大きくて現実味のない夢だ。


 僕の生まれたルタール地方は魔力溜まりが近くにあって、魔獣の出現が他より少し多い場所だった。まあ、そうはいっても駐屯兵のおかげでむしろ被害はないに等しかったけれど。

 毎年一件か二件起こるような不幸な事故で死ぬ子供、魔獣に喰われてそうなるはずだった僕の運命は勇者様によって変えられた。

 本人は隠したいみたいだったけど、僕は最初から確信をもっていた。だって持っているのは伝承に伝わる勇者の剣そのもので、極めつけに剣に回復の力が宿っていた。でも一番の理由は、ひどい火傷を負いながら真っ先に僕を庇ってくれた背中を見て、この人が勇者様だったらいいのになっていう願望だった。


 大人になるにつれて理想は砕かれるもので。それでもあんまりだと思った。悲鳴を聞きつけた近所のおばさんが入ってきた時、僕はすでに事切れていたお母さんに潰されかけていたらしい。次々大人がやってきて、お母さんと引き剥がされそうになって僕はようやく泣き叫んだ。

 そこからの数日間は記憶が曖昧で、警備隊に事情聴取をされたことくらいしか記憶にない。彼らは死後間もないはずのお母さんの近くに凶器も、犯人と思わしき人物もいなかったことを不思議に思っているようだった。だから僕はありのまま話した。


「勇者様に殺されました。お母さんを殺した後、その姿はとけていなくなったんです」


 その時の彼らの気の毒そうな視線が忘れられない。結局大きくなってから見た記録には、『勇者を名乗る不審な人物に殺害された』と書かれていた。

 ひどくどうでもよかった。


 そこから僕の世界は一変した。いくら同情的でも天涯孤独となった僕の面倒を見てあげようとする人はいなかった。僕は故郷を離れることになった。

 隣地方の孤児院は教会と併設していて、僕を迎え入れたのは顔の笑い皺が目立つシスターだった。


 彼女だけは僕の話を信じてくれた。いたく同情し、毎朝のお祈りの後によくお茶に誘ってくれた。その中で俺は、勇者の洗礼の宣誓などを知った。

 ますます混乱したけど、ずっと考え続けてきたんだ。あり得ないような仮説だったけど、どうやら当たっていたみたいだ。


 持てる力の限界まで魔法陣を展開した。それらを油断していた近衛兵に差し向ける。致命傷は避けたみたいだけど足に刺さった数本が身動きを封じた。これなら私でも殺せる。風魔法で剣を生成すると、回り込んで袈裟斬りにした。でも力が弱い。残しておいた魔法陣から垂直に矢を下ろすと、近衛兵は完全に沈黙した。


 他の近衛兵が気圧されたように一歩下がる。


「そこで見とく分には殺さない。でもやっぱり殺されるなら貴方がいいから。勇者様、受けてくださいますよね」


 勇者様は震える手で剣を拾った。構える仕草が本当に絵になる。


「ああ。ロダン、今から君を殺すよ。それから、これはただの俺のひとりごとだけど、俺も子供の頃、勇者に憧れていたんだ。俺は幸運なことにそれを壊されることなく夢を叶えた。だからずっと背負うよ。ずっと、勇者であり続ける。それが君への手向たむけだ」


「……それは素敵ですね」


 わずかな沈黙の後、示し合わせたように二人はかけだした。私は血を流しすぎていたけれど、生命の危機にさらされた体が最適解を教えてくれていた。頭が異常に冴えている。

 今までの数任せの風の矢じゃない、一つに集約した攻防一体の魔法陣。


 勇者はそれを見て、隙がない、と思った。それでも最後くらいロダンの勇者でありたいと願ったからか、勇者の剣が青く輝いて、鉄壁に思えた魔法陣のわずかな綻びをとらえた。

 ひと息で距離をつめ、勇者が選んだのは何百、何千と繰り返してきた基本の一太刀。最初に触れた剣の切っ先が綻びを崩し、振り抜いた先で魔法陣を真っ二つに切り裂いた。私はその衝撃でよろめく。


「ごめんな」


 閃いた剣が私を切り裂いた。届かなかったけど、満足だった。噴き出る血を他人事のように眺めて、私は青すぎる空に手を伸ばして倒れていった。


 からんと剣を落とす音が聞こえて、間もなく視界は勇者様の眩しい金髪で覆われた。冷たくなり始めている手を多分強く握られて、何事か叫ばれる。私は届かないと知りながら心の中で語りかける。



 子供の頃、僕の世界はあたたかなもので満ちていました。勇者への憧れ、厳しくも優しい家族、親切な隣人、自然豊かな街並み。それらすべて、たった一日で奪われてしまった。

 知っていますか? 子供って、小さな世界で生きているんです。小さくて、替えの利かないかけがいのない世界に。


 恨みました。悲しみました。それでも貴方が最後に約束してくれたことがたまらなく嬉しいのです。どうかこれからも証明し続けてくださいね。貴方(勇者)が斬るのは悪人のみだけだと。


 斬られた痛みも、熱さも寒さも感じなくなってきた。まだ勇者様がそばにいるのかもわからない。それでもこれだけは言っておきたかった。



 勇者様、“僕”の世界を滅ぼした人。さようなら。

 ご愛読誠にありがとうございました。

評価や感想などいただけると大変励みになります。なによりとても嬉しいです。


 また次回作でお会いできることを願っています。

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― 新着の感想 ―
とても、とても胸に刺さり沁み入るお話しでした。  ありがとうございました。
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