黎明2:盗む
その日は疲れが溜まっていたので寝る事にした。入学式は来週なので時間がたっぷりある。この時間を使って部屋の整理に観光などをしよう。その前にゆっくり眠って、体力を万全にしよう。・・・うーん、何だか眠れないな。疲れは溜まっている筈なのに。いや、おかしい。疲れが全く感じない。それどころか、今いるこの場所は自分の部屋ではない。ベッドで寝てた筈なのに、ソファーで寝ている。
黒夢「この感触、夢じゃない。いや、夢なのか?」
ソファーや家具を触ってみると、確かに硬かったり、柔らかかった。足も動かせるようで、階段の登り降りも出来る。夢にしては現実みたいだ。
黒夢「ここは?」
???「起きたかい?」
黒夢「え?誰っ!?」
するとどこからか、声が聞こえてきた。トーンの低い男性の声で、自分に向かって話しかけてきた。その時、上からバサバサッと羽ばたかせて飛んできた。その正体はカラスで、机のそはにあるバードタワーに止まった。そのカラスはジッとこっちを見ていた。時に襲いかかってくる様子もなく、餌を食べる様子もない。まさかと思いつつ、他に人がいるのか探したが、カラス以外には誰もいなかった。
黒夢「おかしいな。誰かいた筈なのに」
カラス「ここにいるだろ」
黒夢「うん?また聞こえた。しかも近くで」
カラス「君の横だ」
黒夢「俺の横ってカラスしかいないじゃん。カラスが・・・」
カラス「さっきから私はここにいる」
黒夢「え・・・?今、喋った?」
ついに気づいてしまった。このカラスこそが声の主だと。これは夢なのか、いや夢であってほしい。
カラス「安心しろ。ここは夢の中だ」
黒夢「ゆ、夢?」
正直信じがたい事実だが、どこかホッとした所もあった。そのカラスは流暢、いや流鳥で礼儀正しく、ティーポットからティーカップに紅茶を器用に注いでいた。カラスなのに。とはいえ、いつまでもカラスと話している暇はない。早く目覚めないかな。
カラス「私の名前はルパン。あの大怪盗ルパンだ」
黒夢「ルパン?・・・孫の方?」
ルパン「何故そっちになる?」
黒夢「えっと、馴染み深いから?」
ルパン「は〜、まあいい。よく話を聞いてくれ。私はある事情により、現実世界に行く事が出来ない」
黒夢「事情すぎるでしょ」
ルパン「そもそも、私は人間だった。世界各国のお宝を盗む大怪盗だった。そんな時、あるお宝を盗んだ際にこの世界に迷い込んでしまった」
黒夢「あるお宝?」
ルパン「名前は私が名付けたが、私はこれを"ルパンコレクション"と呼んでいる」
黒夢「ルパン・・・コレクション?」
ルパンコレクションとはなんか想像が付きそうな名前だ。そんな凄そうなお宝を盗むとは、やはり伊達ではない。しかし、それでも信じがたい話ではある。何故カラスになったのか?
黒夢「何故、カラスの姿に?」
ルパン「あるお宝に触れた所、カラスになっちゃったみたいだ。そのお宝は今、盗まれてしまったが」
黒夢「えっ!?大怪盗であるルパンが盗んだ宝を逆に盗まれたっ!?」
ルパン「ややこしくてすまないね」
泥棒が泥棒されるという謎の出来事。何だか頭がおかしくなりそうだった。まあ、夢の中だから関係ないが。とはいえ、何故僕が呼ばれたのかは疑問だ。実際、夢の中で自由に動けるし。
ルパン「それで君がここに呼ばれた理由、それは君が選ばれたからだ」
黒夢「選ばれた?」
ルパン「これを」
そう言って、ルパンは机にあったレバーを足で引いた。すると床から大きく四角い穴が開き、中から赤いマグナムが出てきた。見た目はおもちゃみたいだが、よく見ると何だかおもちゃではない、不思議なオーラを放っている。思わず手に取ってみたくなるような。
黒夢「すげー・・・って、はっ!?」
ルパン「やはり君か。君なら手を伸ばすだろうと思ったよ。受け取れ」
ルパンに促されるまま、黒夢はマグナムに近づき、手に取った。重みはある、詰め物もない、やはりこれは本物だ。思わず見惚れていた時、ゴーン、ゴーンと鳴り始めた。
ルパン「おや、時間だ。また夢で会おう、少年」
ルパンがそう言った後、意識がボヤいた。景色がグニャグニャになっていき、気がつけば目を覚ましていた。周りを見ると確かに自分の部屋であった。あれは夢だったのか?そう思い、ベッドから出ようとすると手元に何かがあるのを感じた。思わず布団を捲ると、そこには夢で手にした赤いマグナムがあったのだった。
黒夢「夢・・・じゃない?」
そう思いつつ、黒夢はマグナムをカバンに入れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから入学当日。あれ以来、ルパンとは会っていない。きっと夢だったんだな、マグナム以外は。行き先は自分で調べたから、迷う事なく通学出来た。とはいえ、さすが大都会っ!!360°人が多いっ!!広島とは比にならない。更に電車も多いので、乗り間違えないようにしないといけない。
黒夢「おいおい、朝からこんなんじゃ、夕方まで持たないな」
とはいえ、3年間通うのでその内、慣れてくるだろう。駅内を歩こうとした時、曲がり角で誰かにぶつかってしまった。転びはしなかったが、ぶつかった人の荷物は落ちてしまった。
黒夢「あ、すみませんっ!!」
男「いえ、こちらも前方を見てなかったので」
ぶつかったのは男性で、高身長かつ顔のいいイケメンだった。恐らく年上で、20代中間かな。
男「これ、君のでは?」
そう言って、男は生徒手帳を渡してきた。さっき落としたのか。
黒夢「あ、ありがとうございます」
黒夢は生徒手帳を受け取ると、男と別れた。その後、無事電車に乗ってようやく漠宙夢学園についた。入り口にはクラス表が書かれていて、自分の名前を発見するとすぐに教室についた。既に何人かはいるが、まだ時間があるので校内を散策する事にした。職員室に校長室、図書室に科学室、コンピューター室に音楽室や美術室と見たが、流石は一流学校っ!!学校あるもの全て高級品ばかりだ。教室に戻ると殆ど埋まっていた。中には早速グループを作っている人もいた。自分も席に座り、鞄から筆箱などを取り出した。隣には誰とも話さずにただ本を読んでいる眼鏡をかけた女子生徒がいた。題名が英語で書かれている為、恐らく外国の小説だ。
女子生徒「ん?何?」
黒夢「あ、いや、俺は漠夜黒夢。よろしくね」
女子生徒「私は胡蝶桃香」
そう挨拶をすると、また本を読み始めた。何だか表情の少ない、物静かでクールな美少女だな。そんな事を考えているとチャイムが鳴り、担任が入って来た。それからは講堂に集まって入学式が始まり、教室に戻って教科書などを配り始めた。やはり教科書や問題集は多い。それにみんな日本や世界各地からここへやって来たと言う。今日からここで3年間世話になるのか、ちょっとは楽しくなりそうだ。その日の午後、入学式が終わると急いで駅に向かい、電車に乗った。降りたのは最寄駅の前の駅だ。ここに奈美ちゃんが通っている小学校があるのだ。奈美ちゃんは小学生なので、富士子さんから一緒に通学して欲しいと言っていた。確かに小さい子1人にこの満員電車は大変だな。僕は上に2人兄がいるので、妹が出来た時は嬉しかった。奈美ちゃんも満更ではなかった。今日は富士子さんが連れて行ってくれたようだ。駅から出て、小学校の方へ行くと、次々と校門から小学生が出ていた。奈美ちゃんはすぐに分かった。ヒョコヒョコと歩いている。
黒夢「奈美ちゃん」
奈美「あ、漠にぃにっ!!」
奈美ちゃんは黒夢を見つけると、すぐ様走っていった。その様子はどことなく嬉しそうだった。その様子を見た奈美ちゃんの友達は
「何あれっ!!スゴいイケメンッ!!」
「奈美ちゃんのお兄さんっ!?」
「あのっ!!私奈美ちゃんと仲良くしていますっ!!」
と興奮していた。その後挨拶をした後、一緒に電車に乗って帰った。帰宅ラッシュだからか、人が多い。これは小学生にはきついな。
奈美「ねぇねぇ、漠にぃに。手、繋いで」
黒夢「うん?いいよ」
奈美「私、にぃにが出来て嬉しい。私、1人っ子だから寂しかったの」
黒夢「俺もだよ。俺、末っ子だからちっちゃい子が出来て嬉しかったよ」
奈美「うふふ、にぃに好き」
黒夢「はいはい」
奈美は黒夢に抱きついた。背が低い為、足元に抱きついたが、それはそれで初々しさがあって可愛い。これからも楽しくなりそうだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
・・・と思っていた時がありました。帰宅し、夕飯を食べ、風呂に入り、眠りについたまでは良かった。目覚めると目の前にあのカラスがいたのだった。どうやら最近現れなかったのは、何か準備をしていたからだそうだ。
ルパン「さてと、早速だがルパンコレクションを持っている奴が現れた。詳細はこの中に」
そう言って渡されたのは、男の写真とプロフィールが書いてある紙だった。彼は菅生勇作、現実世界では普通のサラリーマンだが、夢の中では宝石泥棒をしている男だ。コレクションの力を使って、貴金属を盗んだ後、店内を燃やしているらしい。
黒夢「えーっと、このコレクションってのは」
ルパン「コレクションNo.914恋は魔術師」
黒夢「ん?ライターみたいだな」
ついでにコレクションの写真を見せてくれた。これがお宝?何だか想像していたものと違っていた。正直、お宝と言われてもピンとこない。
ルパン「まあ、見た目が見た目だからな。ただ、見た目に気をつけろよ。このコレクションはドラゴンの炎みたいに熱い炎を出す」
いきなり無理難題を突きつけられた。要はそのコレクションを盗めと言う事だ。しかも、能力者から。特に何の訓練もされてない素人には無茶な話ではある。
黒夢「あ、あの〜、辞退という話は?」
ルパン「ない」
黒夢「ないの?」
ルパン「ない」
黒夢「・・・・・」
ルパン「・・・・・」
黒夢「・・・や、やります」
こうなってはやるしかなかった。もうマグナムも貰っちゃったから、もうとことんやってやるつもりだ。黒夢は覚悟を決めた。
ルパン「良かった。私1人では大変だからな。君がいてくれて良かった」
黒夢「本当は嫌なんだけど」
黒夢はそう言いつつも、ルパンと一緒に外へ出始めた。こうして世間を騒がす怪盗が生まれた。そして、これがきっかけで社会、いや世界の裏側の真実を見てしまう事になるのだった。




