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「皆が大好き」と言った彼女

「皆が大好き」だった私のその後の話

作者: 莉央花

前作「皆が大好き」と彼女が言ったから

のその後のエピソードになります。

※あの前作の密室男女ンの状況からそのまま展開しますので、その設定の時点で無理!という方はブラウザバックしてください!床の話が多いし暗い話です!

ニッチな話として投稿したのにランキング上がってきて滝汗感謝〜!!




「大丈夫か?モニカ」



他の皆が帰った後、寝台の上で身動きがとれない私にテリーが声をかけてきた。


「‥‥だ、大丈夫なはずがないでしょう」

「そっか。そうだよな。モニカはよく頑張ったよ。偉いな」


――――でも、モニカも愉しんだよな?


そう言ったテリーの顔は、昔からよく知る顔なのにまるでぜんぜん別の人のようだった。



「そんなわけないでしょ!こ、こんなの酷いわ。こんな、大勢でふしだらなこと」


ふしだら、と言う言葉が口をついたとき、学園の令嬢達の声が蘇った。

「ふしだらね」、と彼女達はよく言っていた。あの時は気にも留めなかったのに。


けれど、あの状況からこんな成り行きを想像できるはずもないでしょう?

複数の令息と関係をもってしまったなんて。まさか、こんなことが人に知れたら‥‥「それみたことか」と売女扱いされるのは目に見えている。


「心配いらないよモニカ。ここでの話は漏らさないし学園の人達に知られることもないよ。せっかく面倒な授業もなくなったんだから、ゆっくり体を休めたらどうだい?欲しいものがあれば買ってくるよ。」

「テリーはまたここに来るの?」

「そうだね。モニカのことが心配だし。他の人達もきっと同じだよ」

「また昨日みたいなのは嫌よ!!」

「じゃあ暫くは一人ずつ来るようにサミュエル様に頼んでおこうか。でもそれだと僕は暫く来れないと思うけど」

「え?そ、そんな‥‥それは困るわ」


領が近くで昔馴染みのテリーは令息達の中では一番身分が低い。気安く言い難いことも言えるテリーが居てくれないのは困る。


「貴方が居てくれないと嫌よ。私を見捨てるの?」

「そんなはずないじゃないか。じゃあ次も僕が来れるように頼んでみるけど、そうすると二人‥‥三人ずつかな。まぁあまり期待しないで待っててよ。そうだ、お菓子でも買ってくるからさ。モニカが好きなやつ。」


お菓子なんて欲しくもない。胃のあたりが重苦しくて吐き気すらする。体の節々がじんじんと痛みもうそれ以上、身を起こしていることも喋っていることもできなくて。私はそのまま意識を手放した。


「あれ、モニカ寝ちゃったの?おやすみモニカ。良い夢を」



+++++++



「可愛いモニカ」「モニカは素敵だね」「モニカと居ると本当に楽しい」「心が安らぐよ」


‥‥そう口々に言っては、私の身体を貪る令息達。


肌を傷つけたり体を傷めるようなことはされない。行為の最中、「痛い」と言えばすぐに止めてもらえた。「手荒なことはやめろよ」「お前だけのモニカじゃないんだぞ」と他の人達が口々に言って。


でも行為自体はやめてもらえない。


「こんなの娼婦と同じじゃない」って言ったら、「酷いな、誰がそんなこと言ったんだい?モニカはモニカだろう?」‥‥って。



テリーがこうも言う。


「大丈夫だよ。ここに来たいやつは他所で適当な女を抱くなってアベル様が言ってくれたから。だから病気の心配はないんだよ。皆ちゃんとモニカを大事にしてるからね。」


私のために、と言う言葉も、私を褒める言葉も今では嬉しくない。


知らないうちに学園も辞めさせられてて、両親に手紙を送っても「高貴な方々によくお仕えするように」ってそれだけ。誰も助けてくれない。こんな生活もう耐えられない。


「‥‥でも、ここを出たところ行く場所なんてないよね?老貴族の後妻や妾にでもなったって、乱暴に扱われることだってあるんだよ」


そう言われてしまうと、今度は外に出るのも恐ろしくなってしまう。



+++++++



一年ほど経って、「たまには華やかな場所に行きたいだろう」って、サミュエル様がパーティーに連れ出してくれた。


これまで息抜きといえば使用人が平民向けの商店やカフェに連れていってくれるだけだったから、パーティーと聞いて胸が躍った。


綺麗なドレスも買ってもらえて嬉しかったし。それにもしかしたら、私を救い出してくれる誰か‥‥王子様が現れるかもしれない。



アベル様、サミュエル様のエスコートを受けて会場に入ると皆が私に注目してた。二人は帽子と仮面で顔を隠してたけど、上等な仕立ての服装は一目で高貴な方々だと分かる。

レイとテリーとも会場で落ち合って、素敵な紳士達に囲まれた私を、たくさんの女性達が羨ましげに見ていた。最高の気分だった。


それから―――、ダンスを二人分踊り終わったころ、一人の男性が歩み寄ってきて片手を差し出してきた。


「妖精のように愛らしいこちらのお嬢様と踊る栄誉を、私にも頂けませんか?」


瞬間、ドキッと胸が打たれた。

恐る恐るサミュエル様の方を見ると、「行っておいでモニカ、楽しんでくるんだよ」と微笑んでくれたから、私はその男性の手を取った。


「モニカ嬢。花のような貴女にぴったりの愛らしい名前ですね」


そう言って手の甲に口づけた。


ナージュ、と名乗った彼は王都の騎士だった。道理で、逞しい体躯にブレのない動き。ダンスをリードする姿は堂々としていて、身を預けたくなる安心感があった。


長くて短い曲が終わり、名残惜しいからお喋りでもと言った彼に、私は心を掴まれていた。


「ナージュ様、こんなに素敵な紳士にお会いできて嬉しいですわ」

「それはこちらのセリフだよモニカ嬢。アベルから素晴らしい女性を見せてやろうと言われていてね。楽しみにしてたんだ」

「え‥‥アベル様から?」

「あぁ。きっと気に入るだろうからって」


バルコニーの手摺を持つ手に、ぎゅっと力が籠もったその時、カチャリと透かし板の扉が開くとアベル様とサミュエル様がやってきた。


「モニカ、ナージュはお気に召したかな?」

「え‥‥」

「来るのが早すぎるぞ二人とも。まだ口説き落とせてないんだ。会えて嬉しいとは言ってもらえたけどね」

「はは、情けないな」「それはお前の手落ちだろ。まぁ良いじゃないか。モニカのお眼鏡にかなったようだし、今夜は素晴らしい夜になりそうだな?」


三人の男性達が次々に発する言葉を受け止めきれず、戸惑っているとナージュ様がサッと私の手をとった。


「麗しの姫君、どうか一夜の情でこの恋情を慰めてはくれませんか?」


考える暇もなく、広い寝台のある部屋に連れて行かれた。



+++++++



どうしたらここから抜け出せるんだろう。


身体はすでに心地良いと言っている。

心が気持ちよくないと言えば、一人ずつ丁寧にしてもらえる。

愛や気遣いもある。そして確かに情を感じる。けれど。


「弱気になってるねモニカ。そうだよな、心細いよな。でも皆君を大事にしてくれているだろう?身の丈に合った幸せを大切にした方が良いぞ」


いつも似たような言葉を繰り返すテリー。もう飽き飽きしていたら思いもよらないことを言われた。


「そうだモニカ。うちの奥さんに子が産まれてさ。暫く来れないんだ。困ったことがあれば使用人に言付けてくれよ。モニカが本当にピンチの時には助けに来るよ」


奥さん?子ども? 聞いてないわ。


「そんなこと言って。僕達ももう良い歳だろ。そりゃモニカは今も若いし可愛いけどさ。まぁそんなことだから、元気でな!」


テリーが来なくなって、私は益々不安になった。



そうだ、子どもができれば‥‥

そうしたら結婚はできなくとも、誰かの愛人としてどこかの家で養ってもらえるかもしれない。


そう思って使用人に暦入の日記帳を買ってきて貰った。

頁を開くと、学園から去ってこんなに月日が経ったのだと実感する。


日記帳に、月の物のあった日付を書いた。子ができやすい時期、誰かと関係を持った日付をメモする。


そうして暫く私にしては計画的に過ごしていたのだけれど

誰と何回、寝台を共にしても私が子を授かることはなかった。


授かったとして、誰の子だとも分からない、と気づくのも遅すぎた。



+++++++



それから何度も季節が巡り、新たな出会いもあったけれど暮らしぶりは変わらなかった。


何度か「ここを出ていきたい」と言ってみたけど‥‥そのときの最高位のサミュエル様にも頼んでみたけど

「君が外の世界で安全に暮らしていけるとは思えない」と言われてしまった。普通の平民は使用人などつかないぞ?とも。


誕生日が近いからとレイが持ってきてくれたブーケを花瓶に入れて、窓際に置くと陽が射してピンクや黄の花々を照らした。

その光の当たるところと陰るところとの境目を、さしたる目的もないままぼんやりと眺めていたら、教会の鐘の音が響いてきた。


ガランガランと鳴り響く音が遠くからそよ風に運ばれてくる。

今日は誰かの結婚式なのだろう。


ガランガランガランガランと鳴り止まぬ音が耳を貫いたとき、一つの発想が降りてきた。



あぁ教会に行きたい。

神に赦しを乞いたい。



私はこの発想が―――私にとっては勇気とも呼べるこの決意が萎まないうちに、今の想いを日記に書き出した。

それから使用人に便箋を買いに行くよう頼んで、待っている間に日記帳を読み返しながら誰に手紙を書けば良いだろうかと考えた。


アベル様、サミュエル様、ナージュ様、レイモンド、テリー、それから‥‥。思いつく名前を全て書き出す。一番偉い人?でも爵位と財力を一番持ってるアベル様は最後に会ってからもう随分経つ。一番世話を焼いてくれたのはテリーだけど、彼に私をここから連れ出す力があるとは思えない。


やはり助けを求めるなら地位の高い人でなくてはいけない。


そう考えた時に思い出したのは、ヒューバード王子だった。

ここに来たばかりの時、一度だけ来てすぐに立ち去ったヒューバード様。

彼が権力者なのは間違いないし、私のことを忘れては‥‥いないだろうけど、王子様に手紙を届ける伝手なんて持ってない。


どうしよう。ヒューバード様なら困っていることを伝えれば無視はしないはずなのに。でもそうだからこそ、誰かに手紙を託しても握り潰されてしまうかもしれない。誰か、ヒューバード様に近くて信頼できる人に繋げて貰えたら‥‥。



そこまで考えてようやくあの人の名前を思い出した。

フィオレラ・モーウェン公爵令嬢

なぜ今まで忘れていたんだろう?


ヒューバード王子も一度は足を踏み入れたこの場所の事を彼女が把握していないはずがない。そもそもヒューバード王子や他の誰かが隠れてこんな場所を用意したとは思えないし、仮に婚約者には秘密であったとしても結婚後までずっと隠し続けられるはずもない。


思えばこれまで誰かの奥方やその手の者がここに殴り込みにくるようなことも、危害を加えられるようなことも無かった。嫌がらせの一つすら。今更だけどそれは当たり前のことでは無かったに違いない。



一晩考えて、翌日一通の手紙を書き上げた。宛先にフィオレラ・モーウェン様と、記した字は少し震えている。使用人に封筒を見せ届けたいと伝えれば「承知しました」とすんなり受け取った。



そして手紙は、正しく届いた。



+++++++



―――これが、神にこの身を捧げる前に私に起きた出来事です。


最初から誰か一人を愛せば良かったと思うほど、今の私は身の程知らずではありません。

紳士達は私に―――それこそ、ここ(修道院)に来るためにも、様々なご温情をかけてくださいました。そのご厚意の中には、最後まで私に知らされることはなかった奥様方からのそれも含まれていることでしょう。



今も私の手元には、あの館に飾っていたブーケの押し花があります。

春の日の花嫁のブーケになることができず、私のような者の手に渡ってしまった小さい花たち。


陽の光に照らされることのなかった萎れた一片の花弁にも、あの教会の鐘の音は等しく降り注いだのでした。



END


アベル→仲間たちに窘められ経験を積んだことで尖った性癖が落ち着いてくる

サミュエル→仲間といるのが楽しくなり激しい女遊びをやめる

レイモンド・テリー→婚約者の意図を察し他の女性との関係は切る。

婚約者の意図察したのにモニカには会いに行くんか〜い、という話ではあるんですが、モニカの面倒を見ないこともそれはそれで火種で。手を出す前に回れ右できた人と、そうでない人と。


令息達は結婚就職で地位に変動があるのと、仲間内の関係やテクニックにより発言権も色々でして、位が腑に落ちなかった方いたらすみません。


令息達がモニカの生活不満を宥めすかしていたのは善意です。愛人あるあるだろうと思って。正妻に殺される危険もない好待遇だし館にいれば良かろうと皆思ってました。


モニカの独白なのでだいぶ陰鬱な感じですが

モニカも中年以降になると、若い頃の実を結ぶことのなかった恋の顛末として、皆との思い出を大切にするようになります。反省とともに。 

「皆が好き」は恋じゃないんじゃない?という説はありますが作者にもそこは分からない領域‥‥。有識者の方コメントで教えてください!!


活動報告に余談の余談を記載しました https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3537041/

※コメ欄があまりに荒むなら閉じ、かつ内容によっては作品ごと消した上で活動報告に経緯を残します。

ありがとうございました!!

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― 新着の感想 ―
とても骨太な内容であり、贖罪と赦しの深い内容だと感じました。 モニカさんは当時は大変で葛藤もあったと思いますが、修道院に入った後は、若さで失敗した若い新入りの子を優しく諭したりと、頼りになるお母さんの…
モニカにとっても割とハピエンなのでは疑惑…。 貧乏男爵からの平民になって暴力男に殴られながら売春させられるかもしれない未来とかありそうなんだけど、そんなものから隔離されて綺麗なものに囲まれて、身分の高…
前作も読みましたが…なんだかモニカがすごく可哀想だなって感じちゃいました。ここまで酷い目に遭うようなほどの事してないような…あまり頭が良くない子が搾取されつくし、男達が普通に日常に戻っていくのが後味悪…
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