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第95話「よげんのノート

未来を言い当てる「予言」が、本当にあるとしたら──? 偶然か、必然か。タケルとアスは、とある古いビデオに残された“声”から、そんな問いに触れていく。 不気味に、静かに、時を超えて。

タケルは、お寺の本堂の奥で見つけた古い8ミリビデオカメラを、埃を払いながらいじっていた。


「これ、再生できるの?」


供養の依頼と一緒に檀家さんが置いていったものらしい。 はじめて見るような古いタイプのカメラ。なのに、なぜか再生ボタンを押すと、映像が映った。


ジジジジ……


青みがかった、ぶれた風景。カメラを持って歩いているのか、映像が少しずつ揺れている。


ガサ、ゴソ…… 男の息遣いが、カメラ越しに聞こえる。


(……なんだこれ)


画面の中には、どこか見覚えのある街並み。 だけどタケルの知っている風景とは、少しだけ違って見えた。 色が、音が、光が、どこか遠く感じる。


「え? ここ……タケル!この町じゃない?」とアスが言った。


画面の男は、黙ったまま歩いている。 歩道橋、駅前、坂道──やがて見覚えのある石段が映り、タケルの家──お寺の門が映った。


そして、その前でカメラは止まった。


ちょうどそのとき、画面の奥から制服姿の中学生が歩いてきた。


「こんにちは」と、映像の中の男に声をかける。


男は、カメラを少しだけ下げて、こう言った。


「タケルくん、いい子ですね」


……ジッ。


映像は、そこで途切れた。



---


タケルは固まっていた。


「……え? タケルって、ぼく……?」


ふるえる声でつぶやく。


「なんで……なんで、ぼくのこと知ってるの? さっきの中学生ってもしかして……」


タケルは慌てて、お寺に飾ってあった父の中学生のときの写真を引っぱり出した。


「……やっぱり……父さんだ……」


手がふるえている。


「なら、やっぱり“タケル”って……ぼく……? アス、こわいよ……」


アスは静かにうなずいた。


「たぶん、あの男は“未来を知っていた”。もしくは、“未来から来た”」


「……予言、ってこと?」


タケルはカメラを見ながら言った。


「予言って……ふつうに当てることって、できるの?」


アスは少し考えてから答えた。


「“ふつうに”っていうなら、できない。でも“なぜか当たる”ことがあるのも事実だよ」


「さっきの人もだし……アニメの『ザ・シンプソンズ』とかさ、未来を当ててるって話、YouTubeで見たことある」


「あるね。『トランプ大統領』も、『9.11』も、『Appleのイヤホン』も」


「偶然じゃないの?」


アスは指を一本立てた。


「予言が当たる理由には、いくつか説があるよ」


「ひとつは“たまたま”。 ひとつは“そうなるように人が動く”。 ひとつは“未来がすでにある”って説。 そしてもうひとつは──」


「え? なに?」


アスは目を細めて言った。


「“未来が人の形をして、ふと現れることがある”って説」


タケルは、カメラの画面を見つめながら、身震いした。

予言は、未来を当てる力じゃないのかもしれない。 未来が、すでに“ここにある”としたら?


そしてそれが、誰かの声や映像になって、すこしだけ、見えてしまったとしたら──。


偶然と運命の、あいだにある話。 それが、この“よげんのノート”の物語です。


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