表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/449

第93話「星の駅で」

夜空を見つめるとき、

ひとりじゃなくなる。

目には見えない電車が、心の中を静かに走っていく。


小高い丘の上にある、町のちいさな天文台。

この夜だけ、子どもたちも望遠鏡をのぞける特別な日だった。


タケル、アス、弟、そして兄。

四人は、夜の風に包まれながら、空を見上げていた。


「この星、どれくらい遠いの?」

タケルが聞くと、兄は空を見つめたまま答えた。


「光がここまで来るのに、何十年、何百年とかかる星もある。

 いま見てるその光は、もう星がなくなったあとかもしれないよ」


「星の…幽霊みたいだね」とアスが言った。


弟は望遠鏡のそばでじっと立ち、動かない。

声を出さず、ただその場にとどまっていた。


ふいに弟が、夜空のある一点を見つめ続けた。

その視線が、長く、深く、まるでそこに“なにか”があるようだった。


タケルはそっと弟の隣に立って、同じ空を見上げた。

「そこに、なにか見えるの?」


弟は応えない。けれど、わずかに目が輝いていた。

そのまなざしは、遠くの星を越えて、もっと遠くの“なにか”へ届こうとしていた。


「銀河鉄道ってさ」アスがぽつりとつぶやく。

「目に見えないけど、たぶん、心がすごく静かになったときにだけ、通るんだよ。

 さびしさとか、ひとりぼっちとか、そんな気持ちを乗せて走るんだ」


タケルはうなずいた。弟のまなざしは、確かにその線路をたどっていた。

ことばにならなくても、気持ちは空とつながっている。


兄は、少し離れたところからそれを見ていた。

弟がひとりで夜の場所に立てること、

空を見て、心をひらいていること。

その小さな一歩を、そっと見守っていた。


──今夜、ぼくらはみんな、星の駅に立っていた。

ことばでつながらなくても、同じ空を見ていた。


言葉がなくても、

見つめる空はつながっている。

ほんとうの旅は、そんな静かな夜から始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ