第85話「ぼくらのルールは、だれがきめた?」』
「みんなで使う場所」って、じつはけっこうむずかしい。
ルールを決めなきゃいけない。でも、だれが決める?どうやって決める?
きみにとって「正しい」やり方って、なんだろう?
この話は、小さな秘密基地をめぐる大げんかから、「社会をどうつくるか」を考えていく物語です。
空き地の秘密基地で、事件はおきた。
「もう! なんで勝手に壁うごかすんだよ!」 「そっちこそ勝手にイス取ったじゃん!」
昼休みにつくり始めた『みんなの基地』は、すでにバラバラになりかけていた。
「もう、こういうの決めたほうがいいって!」 大声をあげたのは、ソウタだった。 「これからは、オレが王様な! みんな、オレの言うこときくってことで」
「えー! なにそれ!」 「勝手すぎる!」 「でもさ、なんかまとまったかも…」
そんななか、マイが手をあげて言った。 「ねえ、それって、ほんとうに正しいの? みんなで話し合って決めるのが平等じゃない?」
それを聞いて、みんなの顔がまたぐにゃぐにゃになった。 話し合うのも、リーダーを決めるのも、なんだかめんどくさい。
……その日の夕方。
「ねえアス。なんかさ、ソウタのやり方、ちょっとムカつくけど…まとまったのはたしかなんだよな」
コンビニの帰り道。ぼくはアスに言った。
アスは口の中でガムをかみながら、首をかしげた。
「それさ、ホッブズって人の考えに近いね」
「ホッブズ?」
「人間って自由にしてると、ケンカばっかりするでしょ。だから、強い王様にぜんぶまかせちゃおうっていう考え」
「……けっきょく王様がぜったいってこと?」
「うん。でもそれって、“こわいけど楽”ってことでもある」
「じゃあ、マイの言ってた“みんなで決める”のは?」
「それは、ルソーって人が言ったやり方。“みんなの自由”を大事にするためには、話し合いが必要だって」
「でも、そんなのうまくいくの?」
「すぐには無理かも。でもね、そうやって“話し合おうとする”ことが、すでに“未来への第一歩”なんだよ」
アスは、ガムの包み紙を丸めてポケットにしまった。
「それにね。どっちの考えが正しいとかじゃなくて、ぼくたちが“どんな世界にしたいか”が大事なんだよ」
「……なんか、むずかしいな」
「むずかしくていいんだよ。考えるってことは、まだ終わってないってことだから」
そのあとぼくたちは、空き地に戻った。 そこにはまだ、ばらばらの木の板と、だれのでもないイスと、誰かが書きかけた“ルールノート”が置いてあった。
ぼくらはまた、そこから始めることにした。
王様にまかせる? それとも、みんなで話し合う?
昔の哲学者たちも、ぼくらと同じように悩んで、いろんな考えをのこしました。
でも大事なのは、「どっちが正しいか」じゃなくて、
「ぼくらがどんな世界にしたいか」ってことかもしれません。
ルールは空からふってくるんじゃなくて、ぼくらがつくるもの。
だから、考えることから逃げずに、話し合いをはじめよう。




