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第73話「ピラミッドと仏像と、未来の目」

人間はどうして巨大な建物や像を作るんだろう? 誰かのため? 自分のため? それとも未来の“だれか”に見つけてもらうため?


今回は、古代のピラミッドと仏像をめぐって、アスとタケルがまた不思議な会話をします。世界の謎は、学校じゃ教えてくれないところに転がっているのかもしれません。


放課後、タケルとアスは帰り道の図書館に立ち寄った。


「あ、これ……」アスが指差したのは、分厚い図鑑のページ。


そこには、ギザの大ピラミッドの写真と、細かく書き込まれた設計図のような図があった。


「へぇ、でかいなぁ……でも、なんでこんなの作ったんだろ」


タケルがつぶやくと、アスは小さく笑った。


「ねえ、ピラミッドって、誰かに“見つけてもらう”ために作ったんだと思わない?」


「え?」


「何千年も前の人たちが、未来の誰かが見て『なんだこれは?』ってなるように。まるで“未来への手紙”みたいに」


「じゃあ、仏像も? お寺にあるやつとか……」


アスは少し首をかしげた。


「仏像は、ちょっとちがうかも。あれは“誰かに見られるため”じゃなくて、自分が“なにを見てるか”を思い出すためのものじゃないかな」


タケルは、ちょっと考えてから言った。


「ピラミッドは、空に向かってる。仏像は、目をとじてる。……正反対だ」


「だけど、どっちも“かたちにした”ってところは同じだね。形にしないと、消えちゃうと思ったのかも」


タケルはページをめくった。仏像のページが現れた。


「ねぇ、アス。じゃあさ……なんで人間は、こんなにでかいもの作ったり、石に名前を彫ったりするんだろ?」


「それは、“未来に自分を残したい”からじゃないかな。……観測されるために」


「かんそく……?」


「うん。“見られる”ことって、存在することだから。ピラミッドも仏像も、自分がここにいたって証拠を、未来に送りたかったんだよ」


そのとき、ふたりの目の前にある図鑑のページが、風でふっとめくれた。


次のページにあったのは、人工衛星から見た地球の画像。


アスがぽつりと言った。


「ねえ、もしかしてピラミッドって、宇宙人に見つけられるために作ったとか、あると思う?」


「アス、それちょっと漫画の読みすぎじゃ……」


「でもさ、本当に誰も見てないものって、存在してないのと同じじゃない?」


その言葉に、タケルは前に兄ちゃんが言っていたことを思い出す。


“観測されない世界は、存在しないのと同じだ、っていう考え方がある。だから仏像の目が閉じているのは、外じゃなくて“自分のなか”を観測するって意味なんだよ”


タケルはつぶやいた。


「……じゃあ、ぼくらがピラミッドのこと考えてる今、あれはちゃんと“ある”ってことか」


アスは、うなずいた。


「そう。“観測された”から、また存在できた。だから、ぼくらの目も、未来への入り口かもしれないね」


ふたりは図鑑をそっと閉じた。


外は夕焼け。図書館の窓の外に、誰かが“今”を見ていた。


形にすること。石に刻むこと。見られること。 それは、未来に自分を届けようとする“いとなみ”かもしれません。


ピラミッドと仏像。 正反対のようでいて、どちらも「見つけられること」「思い出されること」を願って生まれた形なのかもしれません。


いつか、タケルとアスも、誰かに見つけられる“かたち”を残すのかもしれませんね。


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