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第307話『情熱⑩愛が確かなものになるまで…』

愛とは、ただ傍にいることだけでは測れない。

触れたい、知りたい、守りたい――そんな感情が、胸の奥で少しずつ形を作る。

親密さと情熱と約束。三つの糸が絡み合うとき、初めて「愛」は確かなものになる。

龍賢と露葉の間にも、静かにその糸が結ばれようとしていた。



不意に、露葉が言った。

「スターンバーグの愛の三角理論って知ってる?」


龍賢は少し間を置き、頷く。

「……親密性と情熱とコミットメント。愛は三つの要素で構成される、愛の三要素だろ」


「うん。そうそれ。」

露葉は静かに目を細めた。

「龍賢の“ずっと一緒にいたい”は、コミットメント。一番持続しやすいもの」


炎の揺らめきが彼女の横顔を照らす。

「でも、それは……家族とか、近しい人にも抱く感情だよね。」

遠いものを見ているような眼差しで言うと、視線だけは龍賢を捕らえ、離さなかった。


「つゆは、やっぱり怒ってるよな。 あのね、露葉と家族が同じだなんて……そんなはずないだろ。なんでそんな事…だって――」


彼女は逸らさずに見つめ返す。

「だって?」


胸が高鳴り、息が浅くなる。

彼女の瞳に射抜かれるたび、心臓は落ち着きを失い、独占欲が膨れ上がる。

柔らかそうな唇。透きとおる肌。華奢な体。誰にも渡したくない。触れたい、抱きしめて閉じ込めてしまいたい――。


その渦を見透かすように、露葉がふっと笑った。

「そして、最近……情熱に芽生えた?」


龍賢はかっと頬が熱くなる。

「え?……なんで?気づいてたの?」


「うん。気づいてたの」

露葉は穏やかな声で続ける。

「ずっと待ってた」


「待ってた?」


「龍賢に、情熱が芽生えるのを」


その言葉に、喉が乾く。

カップを手にしたまま言葉を探すが、うまく出てこない。

「えっと……芽生えるのを待ってたって…なに?

ちょっと意味がわからない…

露葉、怒ってないのか? もう別れたいとか、嫌いになったとか、そういうんじゃなくて?」


露葉は小さく首を振り、唇に笑みを宿す。

「怒る? そんなわけない。嫌いになるわけない。別れるなんて、ありえない」

その微笑みはやわらかいのに、どこかぞくりとする確信めいていた。


「親密性、情熱、コミットメント。私はずっと揃ってる。龍賢に情熱が芽生えるのを、待ってたの。ずっとね。だから今凄く、嬉しい。会いに来てくれるのを、待ってた」


見たことのない笑顔だった。

露葉がそっと隣に座る。指先が触れるたび、胸の奥に小さな熱が灯る。髪先の雫が手に落ち、その冷たさが逆に近くにいるぬくもりを感じさせる。抱き寄せた肩は細く、かすかに震えている。香りと呼吸が混ざり、時間の輪郭がゆるやかに溶けていった。




――愛の三要素。

親密性に支えられ、情熱に震え、そして約束に守られた二人は、ようやくすべてを重ね合わせる。


長い沈黙の後、露葉は龍賢の胸に額を寄せ、囁くように言った。

「ね、やっと揃った」


龍賢は答えず、ただ彼女を抱きしめる。

嫉妬も不安も、その腕の中で鎮まっていく。

胸の奥に、静かに確かなものが芽生えていた。



長い沈黙の後、ようやくすべてが重なり合った。

親密性に支えられ、情熱に震え、そして約束に守られる――その感覚は、言葉にできない安堵と幸福を胸に残す。

二人の呼吸が重なり、時間の輪郭はゆっくりと溶け、愛の三要素が静かに確かに揺らめいた。



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